2018年で活動10周年を迎えた劇団壱劇屋。関西発の全国区劇団になることを目標として掲げ、 作風の異なる座付き作・演出の二名が在籍する強みを活し、上記目標達成のため、2015年より開始した 「年に一度は東京公演を打つ」という試みを続けて早5年。関東の知名度向上・集客力獲得を目票し、劇団史上初となる関東滞在制作、2015年秋に大阪で上演され、 2019年春にも再演され 、劇中に台詞のないワードレス作品「猩獣」を上演 。
劇団壱劇屋の舞台には基本的にはセットらしいものはない。刀を持った躍動的な水墨画風な2枚の絵があるだけだ。
軽快な前説のあと、始まるのだが、前説と舞台の落差が激しく、ここはマジック。男性が女性に大きな花束を渡す。受け取った女性は嬉しそうで、男性はちょっと照れくさそうだ。そこへもう一人の男性がやってくる。手には白い小さな花束、後ろに隠している。同じ女性が好き、しかし、大きな花束を見て気後れしてしまうのだった。シンプルな表現、それだけで登場人物の想いが見える。
非言語表現を『ノンバーバル』と呼んでいるが、この壱劇屋は『ノンバーバル』ではなく『wordless』という。『less』、「〜がない」「〜が要らない」という意味の接尾語である。『ノンバーバル』とは言わずに『wordless』というところに劇団のこだわりを感じるところだ。
ストーリーらしいものは存在するが、基本は登場人物たちの気持ち、想い、そして行動を全面に押し出す。大切な誰かを大切に思う気持ち、その大切な誰かが危機的状況に陥ったら全力で救出を試みる。ただ、それだけなのだ。その大切な人(女性)を守るために男性と猩獣になってしまった男性が奮闘する。次々と襲いかかってくる『敵』、女性を得るために彼らも全力で挑んでくる、それに対して全力で立ち向かう。そのスピード感とエモーショナルな表現に観客は固唾を呑んで見守る。走る、走る、そして刀だけで的に向かう。場面転換は布を使う、暗転は基本的には使わない(ここでは1回のみ)。敵がめっぽう強く、守ろうとするも歯が立たない、それでも諦めない。高い身体能力を生かした殺陣、アクション、ところせましと駆け回り、ジャンプする。権力者とおぼしき人物も登場、これがキャッチーないでたちとメイクで存在感を放つ。彼の放つ集団もまた、エキセントリックで不気味。追われる身の方はごく普通ないでたち、そのコントラスト、そして「猩獣」、俳優は仮面をかぶっている。大切な人を助けるために孤軍奮闘する。時折、ツケのような音が入り、楽曲はポップ、ロックテイストのもの、ヴォーカルが入っているもの、これが疾走感を後押しする。
もちろん、物語が始まった瞬間に結末も簡単に推測できてしまうのだが、物語の結末よりも、そこへどうやってたどり着くのだろうか、と観客はドキドキとステージを観る、そこが醍醐味。ラストはハートフルでほのぼの、楽曲はここはオリジナル。シンプルでわかりやすく、そしてエモーショナルでハートフル、上演時間はおよそ65分。観やすく、余分なものを削ぎ落としたステージ、誰にでもわかる、難しくないシンプルな舞台、単純に見えるが奥が深い。大切なものを、人を守ること、古今東西、普遍的なテーマ、だからこそ、のwordless。
【公演概要】
劇団壱劇屋「猩獣-shoju-」
2019年10月11日(金)~14日(月・祝)
東京都 シアターグリーン BOX in BOX THEATER
作・演出・殺陣:竹村晋太朗
出演:竹村晋太朗、岡村圭輔、小林嵩平、西分綾香、丹羽愛美、長谷川桂太、日置翼、藤島望、山本貴大 / 日南田顕久、菊池祐太、谷口洋行、今中美里 / 石川耀大、石黒さくら、淡海優、黒田ひとみ、須崎天啓、野村由利加、羽多野瑛一、増田悠那
※須崎天啓の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。
文:Hiromi Koh