佐野勇斗主演! アクションスペクタクル時代劇 『里見八犬伝』「八つの玉、それはあなたたちの運命なのです」

江戸時代に活躍した作家・滝沢馬琴の有名冒険ファンタジー小説。深作健太演出による舞台『里見八犬伝』は2012年に初演され、2014年と2017年に山崎賢人主演で再演。映画化も繰り返し製作されてきたが、1959年、内出好吉監督の『里見八犬伝』『里見八犬伝:妖怪の乱舞』『里見八犬伝:八剣士の凱歌』の3部作が代表的。また1983年の深作欣二監督、薬師丸ひろ子、真田広之らが出演した作品も有名である。テレビドラマでは1960年代に、フジテレビと当時のNETで制作、1973~1975年にNHKで放送された人形劇『新八犬伝』は辻村ジュサブローによる人形美術が大人気を博した。

時代設定は室町時代。妖女・玉梓の呪いにより、安房国の武将である里見家の娘・伏姫は、飼犬・八房の妻となり、伏姫が死ぬ時に飛び散った8つの数珠の玉には仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字があった。また、「犬」の字が付く名字を持つ彼らは、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉を持ち、身体のどこかに牡丹の形の痣があり、玉に書かれている文字は、それぞれ儒教における8つの徳の理念を表したものである。
関八州に生まれた八剣士の、流転と集結の長いストーリーが始まる。
また、滝沢馬琴が『水滸伝』の影響を受けていることは有名。神秘的な因縁で結び付いた英雄たちが集結設定や合戦の描写も『三国志』などを下敷きにしている。作品自体はもちろんフィクションであるが、モデルとなった場所や史実もあるのが作品をより面白くしている要素。里見家は千葉の南房総を拠点とした実在の武将、戦国時代には千葉県の久留里城の城主で、また館山城の築上を命じたのも彼らといわれている。
江戸時代に入って彼らは幕府によって現在の鳥取県倉吉市に移され、その地で大名家としては断絶、その際に8人の側近が殉死し、彼らが八犬士のモデルであるという説がある。

犬の鳴く声、海の音、雷鳴、最初に登場するのは犬塚信乃、浜路と逃げるシーンから始まる。そして信乃は追ってきた義父を殺してしまい浜路をも殺めてしまう。。いきなり、悲劇的な場面から始まる。

1幕では八犬士が一人、また一人と集まっていく場面、そして八犬士各々の個性やバックボーンがここでわかるようになっている。1幕の幕切れはついに八犬士が揃うところ。伏姫の声が響く「八つの玉、それはあなたたちの運命なのです」と。そして2幕は八犬士と玉梓との戦いがメインになる。

それぞれの運命と関係性、「勧善懲悪」「因果応報」が主たるテーマである。めぐりめぐって、再び相見える、死んでも怨霊となって現れる。アクションや殺陣が多いが、単なる派手な、ではなく、そこに感情の揺らぎや迷いがある。例えば、ゝ大(ちゅだい)法師は息子の手にかかって死す。そして悪霊となって再び、会うことになるのだが、確かに悪霊ではあるが、そこはかとなく漂う哀しみと慟哭。この複雑な感情を山口馬木也がベテランらしく哀愁を漂わせて好演する。また玉梓と伏姫の一人2役の白羽ゆりは、全く真逆の役所であるが、そこをきっちりと演じ分ける。玉梓の時は哀しみを含ませつつ、そしておどろおどろしく、かなり怖い!そして伏姫の時は観音菩薩のごとくに神々しい。玉梓はいわゆる”悪役”、しかしなぜ、彼女はそうなってしまったのか、その無念さで怨霊となる悲しい女性、そういった設定は単純な”悪”ではなく、その想いに奥行きがある。

見逃せないのが映像演出、八犬伝といえば『玉』、映像できっちりと見せる。2幕では八犬士が一人、また一人と倒れていくのだが、スポットライトを浴びての独白、そしてガラスの割れるような音とともに映像で映し出された『玉』が割れる。印象的な表現で、全身全霊で戦い、そして八犬士が散っていく様を見せ、涙を誘う。セットは基本的に俳優陣が動かしているのだが、芝居をしながら動かすので転換もスムーズだ。照明、そして様々な場面を彩る映像演出、こういった表現は現代的、スーパー歌舞伎でもこの作品が取り上げられたが、時代的には全ての表現がアナログ。21世紀らしいスペクタクルなステージング。そして八犬士を演じる面々がフレッシュ。佐野勇斗は舞台が二度目で初主演とのことだが、堂々たる座長ぶりで、後半の殺陣もよくこなし、ラストは自分一人が残り、決意する犬塚信乃を演じきった。全体的にスピード感があり、疾走する八犬士、楽曲も現代的、アクションは時代劇風なところもあるが、昨今流行りの形も取り入れて華やかで立体感がある。

撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁

滝沢馬琴は「南総里見八犬伝」を28年もの年月をかけて執筆、戦国時代に安房の地を活躍の拠点にした房総里見氏の歴史を題材にしつつも歴史事実にはこだわらず、すべてを創作。1814年(文化11年)に最初の5冊を出版してから、全106冊を出し終えたのは1842年(天保13年)のこと。よって舞台化されている部分はその中の一部ではあるが、それでも壮大な物語、映画版、舞台版、テレビ版、少しずつ異なるところがあるので、それぞれ見比べて見ても面白い。ちょっとずつ設定が変えられるのは作品が深い証拠、日本が誇るコンテンツだ。

撮影:阿部章仁
撮影:阿部章仁

<キャラクター説明>
犬塚信乃
孝の玉を持つ。最初に姿を現す犬士。運命に翻弄されるも、最後は受け入れる。銘刀「村雨」を振るう剣の達人。物語の主人公。
犬川荘助
荘介の表記もある。儀の玉を持つ。信乃とは主従関係。信乃に嫉妬するも最後はともに戦う。
犬田小文吾
悌の玉を持つ。穏やかな若者。弟や妹を玉梓に殺されて復讐心に燃える。
犬江親兵衛
仁の玉を持つ、最年少の犬士。伏姫の霊の庇護のもと富山で育てられる。八犬士最強の力を持つ。
犬坂毛野
智の玉を持つ。毛野も美貌の持ち主で、女装の旅芸人として諸国を回る。冷静に物事を見つめる。
犬村大角
礼の玉を持つ。かつては海賊だったが苦しむ民衆を見捨ててはおけず、流民を助けながら生きている人情家。
犬飼現八
信の玉を持つ。里見家の役人だった。因縁を知らずに信乃と戦う。武道全般に長けている。
犬山道節
忠の玉を持つ。父への恨みがあり、玉梓と組んで敵として現れるが、父の遺志をついで八犬士に加わる。悪霊として蘇った父と対決する。
浜路
信乃の育ての親である村名主の娘。信乃と惹かれ合うが、結果、信乃の手にかかって息絶える。無念の思いを玉梓に見込まれて生ける死人となって蘇り、苦しむ。
左母二郎
悪霊集団の首領である玉梓の右腕として八犬士に立ちはだかる最強の敵。容姿端麗。
ゝ大(ちゅだい)法師(金碗大介)
里見家の家臣だったが、伏姫を殺害し、その体から飛び出た八の玉の意味を知り、八犬士を集める旅に出る。息子の道節の手にかかって死ぬが悪霊となって蘇る
玉梓
里見義実の妻であったが、夫の心変わりのために処刑される。その無念な思いが犬神と合体。怨霊として蘇り、世の中をほろぼそうとしている。
伏姫
里見義実と玉梓との間に生まれた娘。母親とは対照的に「この世の全てを許す存在」となって八犬士に自分の魂を受け継がせる。

【公演概要】
作品名:『里見八犬伝』
脚本:鈴木哲也
演出:深作健太
出演:佐野勇斗(犬塚信乃) 松田 凌(犬川荘助) 岐洲 匠(犬田小文吾) 神尾楓珠(犬江親兵衛) 塩野瑛久(犬坂毛野) 上田堪大(犬村大角) 結木滉星(犬飼現八) 財木琢磨(犬山道節) 他
日程・場所:
◆館山公演 10月14日(月・祝) 【千葉県南総文化ホール 大ホール】
◆東京公演 10月17日(木)~21日(月) 【なかのZERO 大ホール】
◆大阪公演 11月2日(土)・3日(日) 【梅田芸術劇場 メインホール】
◆愛知公演 11月23日(土)・24日(日) 【名古屋文理大学文化フォーラム 大ホール】
公式HP:satomihakkenden.jp
企画・製作:日本テレビ