Studio Life「はみだしっ子 ~White Labyrinths~」制作発表会 、待望の三回目、2020年1月8日上演@シアターサンモール

三原順原作の最高傑作漫画「はみだしっ子」。スタジオライフが初舞台化、その2017年度の「はみだしっ子」初上演は”奇跡”と言われ、多くの漫画ファンを劇場へ向かわせました。その流れが2018年度の続編上演に結びつき、さらに今公演で三回目。 4人の少年達に人生の分岐点ともいえる大事件が起きる「山の上に吹く風は」のパート上演。ここは原作ファンの中でも熱狂的な支持を得ており、言わば「はみだしっ子」の中核を成す部分であり、ようやく辿り着くかと待ち望まれている上演。少年4人の成長を追う物語、この公演に先駆けて制作発表会が執り行われた。そして三原順さんにゆかりのあり、大ファンでもある芳崎せいむのトークも実現した。
時間になり、まずは劇団代表の藤原啓児より挨拶があった。「初舞台化はドキドキしました」とコメントしたが、ファンも多い傑作漫画の舞台化ということでファンはもちろん、演劇ファンも注目の舞台、しかし、実際には「三原先生の読者のみなさまに熱く、熱く支えていただきました」と語るように大好評で、ついに今度の2020年の1月公演で3回目となる。しかも復刊!のおまけ付き!それから芳崎せいむのトークが始まった。漫画家らしくイラストを用意!しかもチャートになっててわかりやすい(お見せできないのが残念)。主人公となる4人(グレアム、アンジー、サーニン、マックス)は家庭に複雑な事情があって親元を離れ、心に闇を抱えたまま共に放浪生活をしているのは周知の通り。

「立場的には門外漢」と前置きしつつ「漫画家なのでつい(笑)」とイラストを出し、「タイトルはWhite Labyrinths、ぴったりのタイトルだと思います。原作は『山の上に吹く風』のシリーズの中の一作を舞台化ということですが、”山の上”は?”吹く風”は?ということですが、『はみだしっ子』は個人的には、このエピソードは、この作品のテーニングポイントだと思っています。個人的には”山の上”の前、後という風に作品を2つに分けることができるのではないかと思います。自分としてはそう感じています。今までの2回分、親から逃げ出してどこにも居場所がない、4人が世間から追い出されて4人が身寄せ合って、一つのシェルター的なものを4人で作り上げて、その中でなんとか生き延びようとしている、という話・・・・・・『山の上に吹く風は』は4巻目ですが、それまでの3巻分は、そういった話がメインになって展開しています。

それまでの少女漫画に関しては主人公を取り巻くシェルターはよくあるモチーフで、大人になる前の子供を守る殻、ですね。その殻の中にまだ、柔らかい時代の子供たちが囲われている。例えば、家族、親しい身内、学校、寮、あしながおじさんとか、人から抜きん出た才能に恵まれた主人公やエスパーなどの特殊能力もある意味、主人公を一般世間から守るシェルターとかの役割を果たしていたのでは?と・いう風に思います。この作品の場合は擬似家族的な友情、4人には特殊な才能もあるわけではなく、4人が寄り添いあって”シェルター”の隙間から外に触れ合いながら、向こう側の人と関わり合いを持った、それで傷ついてまた”シェルター”に戻って寄り添い合うストーリーが展開されていたのですが、ところが・・・・今回の『山の上に吹く風は』は、今までその4人を守ってきた”シェルター”が”ある暴力的な事件で”破壊”されてしまうという展開になてしまう物語になります。主人公4人の”シェルター”が破壊されてしまう舞台として三原順先生が選んだのは、いきなり普通の世間のど真ん中で破壊されるわけではなく、その前にワンクッションとして世界の縮図としても、雪に閉ざされた山の上で事件が起こります。
今回のストーリーは・・・・勝手な想像ですが、舞台劇としては、ある意味定番の『密室劇』の形になるのではないかという風に想像しています。4人の周りに限られた人数とはいえ、世間の大人たちに囲まれて4人が小さいながらも世間の風にさらされることになります、そして”山の下”には本当の大きな世間がありますが、山の上、隔絶された”小さな世間”が一つ出来上がる、という形になります。4人の”シェルター”が破壊される、残酷な舞台設定、”シェルター”を失った彼らに向かって吹いてくるのが”世間の風”という解釈を個人的にはしています。そういった物語になるのではないかな?という風に思っています。知る範囲内ですが、まだ大人ではない無力な主人公がまだ未熟なまま”シェルター”を失って世間に放り出されてしまう、という少女漫画は主人公が大人だったらあるかもしれませんが、自分としてはあまり、当時の記憶にはないです。大抵は主人公は”シェルター”の中で時を重ねて大人になって”シェルター”から旅立っていく。例えば天才ならプロになる、とか。通過儀礼的な物語が多かったのでは?と思いますが、この『はみだしっ子』は、まだ未熟なまま世間にさらされることになる、という風に残酷な・・・・・・。当時と下は珍しい画期的な少女漫画の枠を超えた作品でありながら・・・・・・少女漫画としての枠を広げたのだと感じています。

ファンの方達、『山の上に吹く風は』まで舞台化して欲しいというアプローチがあったという風にお伺いしております。三原先生は知能犯っていうか(笑)、ここまで・・・・・ここで終わらせない話(大笑)、ここで終わるわけにはいかないと思っております。ネタバレかもしれませんが、この”シェルター”が破壊されてしまった後の原作の中での彼らのことをお話いたしますと、普通だったらまた”シェルター”を再構築して”めでたし、めでたし”になるところなんですが、決して三原先生はそのようになさらないで、後半は世間に、主人公たちは読者も発見するのですが、世間の人たちって言うのは平凡な人だったり、全うだったりするわけではない。世間の人たちそれぞれが最初は世間からはみだした『はみだっしっ子』という風に読者も感じているのですが、そうではなく、世間の人たち全員が誰もがはみだしているのだ、ということ、世間が確立しているわけではない。本当はみんながはみだしている、という展開になると感じています。その一つの大きな転換となっているのが「山の上に吹く風」、今回の舞台は、本格的に『はみだしっ子』という作品が、本格的な人間ドラマとして始動する見応えたっぷりのすごい舞台の最初の始まりです。ぜひ、ご覧ください」と締めた。

それから質疑応答、スタジオライフについての感想は「自分自身が幼稚園の頃から芝居をやってまして、拝見すると・・・・自分もやりたい(笑)と。豊かな人間ドラマを演じられる方々なので楽しみにしています」といい三原作品については「大多数を占めているカテゴリーに収まらない、先生が止むに止まれず、書かずにはいられなかった、既成の枠に収まらないところといった作品の力強さ。破壊されているわけではなく、繊細さ、そういったものを魅力に感じています」と語った。

それから演出の倉田淳が登壇、「17年、18年、そして20年の1月にいよいよやらせていただきます。先生がお話してくださったように大きな分岐点になっていくと思います。ハードな事件が起こり、現実に直面せざるを得ない状況に追い込まれ、自分たちのシェルターに守られてそれが、ヒビが入って非常に苦しい話ですが・・・・・シェルターの中だけでは生ききれない、大人になっていくこと・・・・・世間と対峙すると同時に自己の中を見つめていく、ハードな話になると思います。とても自分でも心して関わらせていただかないと、と思っています。覚悟を新たにしています。ここまでは行き着きたいとは思っていました。この先も・・・・時間がかかるかもしれません。深いところに入っていく言葉がたくさん散りばめられています。三原先生はすごいと思いました。ピュアな上に鋭さを持っているので・・・・・自分に突き刺さって・・・・・いろいろなことを思います。今回はWキャスト公演で。TBKチームとCAPチーム、新たなゲレアンとマックスを迎えてのチームになりますCAPチームのマックスに八島諒さんを迎えて。あとは田中彪さんにシドニーをやっていただくことに・・・・・非常に真摯な芝居を書いていらして・・・・・『嘘つき』という芝居で作と演出をなさってて・・・・・。『これなら大丈夫』と思ってお声をかけました。このチームで雪山に登ってどんな景色が見えるのかと思っています。ぎゅっとこの世界に踏み込んでいきたいと。」とコメント。

それから俳優陣が順番に登壇、客演の八島諒(マックス役)、「このような会見は初めてで心臓の音が聞こえるくらいに緊張しています。40年以上も愛されている作品、3作目に出演させていただき、プレッシャーですが、それをはねのけて!妥協なくい一生懸命に取り組んでいきたい」と挨拶。

 

田中彪(シドニー役)は「僕は今年で28ですが、僕が生まれる前からの作品に出演させていただけることに感謝しております。お客様に愛される作品になるように」と挨拶。そして劇団員が順番に挨拶した。皆、3作目ということ、「はみだしっ子」という有名かつ繊細な作品、皆、決意を新たに。ちなみにTBKチームは前回と同じメンバーとなる。

また、質疑応答でいわゆる『2.5次元』作品に多く出演している松本慎也に『2.5次元』についての質問が出た。松本は「『2.5次元』とは思うのですが、2.5作品を作っていると思ってはいないです。きちんと人間としての心情と関係性があって、そこで大きくドラマが生まれる・・・・・本当に演劇作品を、僕たちは描かれているものを、生身の人間として、向き合ってみんなで作っていくという感覚で作っていきたい。三原先生の作品ですごいところは雪山、極限状態、人間の業とか、それと社会の倫理と切り離されたところでの、はみだしっ子4人との軋轢、本当にすごいんです。舞台化させていただく上での見所だと思います。真摯に突き詰めていく劇団なので、生のリアルな感情をお客様に届けられるように!原作を知らなくても演劇作品として楽しんでいただける作品にしたいと思います」と語る。

また初スタジオライフということで田中は「緊張しない性格なので(笑)、緊張とかプレッシャーとかをあまり感じない人間なので。初めましての方がほぼ・・・・・稽古場では積極的にお芝居で絡んでいって、お客様がきたら『初めまして』は関係ないので関係性を築き上げていけたら」とコメント。八島は「プレッシャーはありますが・・・・・・僕の中では師匠のような方からお声がけいただいたので、師匠の顔に泥を塗らないように(笑)、120パーセントのお芝居で取り組む姿勢で全力で!」と意気込む。
そして藤原啓児から再び上演期間などアナウンス、会見は終了した。

<芳崎せいむ:プロフィール>
漫画家。立教大学文学部卒。秋田書店『月刊ボニータ』にてデビュー。代表作に,『金魚屋古書店』小学館(第16回文化庁メディア 芸術祭 審査委員会推薦作品)、『鞄図書館』東京創元社(第22回文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品)、『アブラカダブラ~猟奇犯罪特捜室~』小学館 原作/リチャード・ウー(第1回さいとう・たかを賞受賞)など。
<三原順:プロフィール>
1952年10月7日生まれ。北海道札幌市出身。1973年「ぼくらのお見合い」(別冊マーガレット3月号)でデビュー。1975年 から7年間にわたり「花とゆめ」で連載された「はみだしっ子」シリーズで読者の熱烈な支持を得る。人間の内面世界の描写 とストーリーの構成力が高く評価される一方、雑誌口絵や付録などの愛らしいキャラクター・イラストでも絶大な人気を集 めた。1995年3月20日、病気のために急逝。享年四十二。
<『はみだしっ子』について>
1975年から1981年にかけて「花とゆめ」(白泉社)誌上にて連載された三原順の漫画作品。四人の少年たちの心の彷徨を繊細に描いた同作品は、魅力的なキャラクターと劇的なストーリー展開で多くの読者を虜にし、作者亡き後も新しい読者を巻 き込みながら熱烈な支持を得つづけている稀有な作品。1993年に愛蔵版全 5巻が刊行(2019年現在絶版)、1996年以降は白 泉社文庫として全6巻が再版を繰り返している。

<三原順 没後25周年・豪華画集刊行決定!>
「All Color Works」
2020年3月19日発売予定!
数量限定!書店へGO!
雑誌・単行本で発表された全てのカラーイラストを掲載予定!
予約締め切り:2020年1月13日
詳しくは・・・・・。
公式HP:https://www.hakusensha.co.jp/hbstation/mihara/

【公演概要】
劇団スタジオライフ公演『はみだしっ子~White Labyrinths~』
日程・場所:2020年1月8日(水)~19日(日) 新宿シアターサンモール
原作:三原順
脚本・演出 倉田淳
出演:劇団スタジオライフ
公式HP:http://www.studio-life.com/
(C) 三原順/白泉社

取材・文:Hiromi Koh