タクフェス第7弾『流れ星』、人生は短く流れ星のごとく、そのきらめきは限りない温もりと優しさに満ちている。

2006年初演、2009年再演した、東京セレソンデラックスの代表作でもある『流れ星』。
10年ぶりにあの感動の名作が、栃木公演からの巡演を経て、東京公演が池袋サンシャイン劇場にて上演中だ。
賑やかは前説、そして諸々。お客様を楽しませることを惜しまず、じゃんけんで勝ったら素敵なプレゼントとか、また「80歳以上の方」と客席に向かって宅間孝行が呼びかけたところ・・・・・1名!和やかな空気が流れる。小学生の姿も!この日(11/17)は、4名の小学生、舞台近くにきて宅間孝行が話しかける。この時間は撮影OKでプログラムにサインを書くというサービスには長蛇の列ができた。
そして、客席が温まったところで始まる。時は2010年、昭和の匂いがする古びた下宿屋「徳秀館」。時間が止まっているかのような空間。手にしているのは、ガラケー、一人の老人・どんぴさん(越村友一)がこれを手にしてご満悦な表情。エプロン姿の女性、(田中美佐子)、そして白髪混じりの男性(宅間孝行)、二人は夫婦でこの下宿を営んでいる。夫の名前は星野謙作、妻は星野夏子。

つっけんどんな態度の妻、そんな彼女を寂しげに見つめる夫、目を合わせようとしない妻、「じゃあ、いってくる」これが2人の最後の会話、夫は帰らぬ人となった。そんなところに!奇妙な格好の若い女性が!だ、誰????「魔法使いマリー(飯豊まりえ)!」、ちょっとどこかで聞いたことがある魔女の名前に似ているが(笑)。

半信半疑な夏子、本当の魔法使いであることを見せるために椅子を宙に飛ばす。願いを叶えるというので夏子は「過去に連れてってくれる?」という「やり直したいの」とも言い、「熟年離婚するつもりだった」と告白、「結婚する前に戻りたいの」という。それは1970年ジャスト。
この1970年、東京オリンピックも終わり、経済は上向き、便利なものが次々と出てきた時代、カラーテレビに電子ジャー、大阪で万博が行われたのもこの年だ。そして夏子はマリーとともに1970年の同じ場所にタイムスリップ。そこで若かりし頃の夫や自分、下宿にいた人々や隣人に会う。ある程度の年齢より上の世代には懐かしい、ちり紙交換、ブラウン管のテレビに黒いダイヤル式の電話など、昭和なものが!若かりし、どんぴさんと 徳田夏子(柳美稀)、若かりし日の夏子。 厨房から古新聞を抱えて出てくる徳田慎太郎(ダンカン)。窓ガラスから中富先生(三津谷 亮)と一平くん(松村優)。廊下奥から、駒村さん(若林元太)が登場、そこへ物置から!2010年からマリーと夏子(田中美佐子)がドーーンと!玄関から星野謙作と内藤ヨージ(富田 翔)が入ってくる。ここで夏子は謙作に初めて出会う。しかし、この出会いは最悪な感じで、徳田慎太郎に借金返せと迫る謙作、安っぽいシャツに帽子、昭和なチンピラ、といった格好。夏子は控えめな服装、清楚な感じで下宿を手伝っている。

ジョン・レノン&オノ・ヨーコに影響を受けたカップル、ボン(冨森ジャスティン)と小田ヨウコ(遠藤瑠美子)に、学生運動に感化される者、当時流行った詩の朗読、田淵兼子(Wキャスト/たんぽぽ・川村エミコ、近藤くみこ)、『私の志集』なるものを手に(笑)!中富先生と一平くんは新宿で観たアングラ演劇を熱く語る(ここで「毛皮のマリー」が出てきてマリーを役者と勘違い(笑))。昭和ネタをちりばめつつ、進行する。こういった昭和なキャラクター、客席からは笑いが起こるが、その笑いは単なる笑いではなく、「あった、あった!ある!ある!」というような懐かしいものに出会った優しい笑いだ。
姿は2010年のままなので、住み込みの手伝いとして”潜入”する夏子(夏美と偽名を使う)とマリー。夏子はみんなの様子を懐かしさを交えて見つめるが、思わず、言いそうになる場面も(笑)。傍観者的な立場なので当時とは違った景色が見えてくる。

いつものタクフェスならではの個性的なキャラクターが多数登場し、彼らが織り成すサイドストーリーも賑やか。客席通路を使った演出、恒例になったおひねりも当然ある。そしてラストは泣けること間違いなしな展開。人情に溢れた世話物的な作品、そして物語の舞台は『固定』、作り込んだセットはリアル、そこで繰り広げられる人間関係、感情を観客はリアルに捉えることができる。そして『タイムスリップ』というファンタジックな要素を盛り込んでもそれは変わらない。

夏子はこの経験を通して気づきを得る。人生やり直したいがために過去へのタイムスリップ、つまり『2010年現在』を変えるために魔法使いに頼んでやってきた過去。最後の最後で様々なことが明るみになるのだが、ラストはいつも優しく愛に満ちている。謙作の控えめな、しかし、大きな愛情、人生は短く思い通りにはならない。タイトルは『流れ星』、宇宙単位で考えると人の一生は流れ星のようにあっという間だが、一瞬のきらめきが心を捉える。そんな、一瞬の物語、俳優陣がこの作品を愛して演じているのもよくわかり、そこがタクフェスの良さ。
2020年の春は恒例のタクフェス春のコメディ祭! 『仏の顔も笑うまで』を上演、そして秋は『くちづけ』を上演すると終演後に宅間孝行がアナウンス。観客は「うん、うん」と頷く。カーテンコールは撮影OK、観客はスマホを取り出し、パシャパシャ。これもいつもの光景、暖かい空気に包まれて観客は劇場を後にした。

【公演概要】
タイトル:タクフェス第7弾『流れ星』
出演:田中美佐子 飯豊まりえ /柳 美稀 富田 翔 三津谷 亮 冨森ジャスティン/川村エミコ(たんぽぽ)・近藤くみこ(ニッチェ)※Wキャスト/松村 優 越村友一 遠藤瑠美子 若林元太/ダンカン / 宅間孝行
作・演出:宅間孝行
公式HP:http://takufes.jp/nagareboshi/
公式twitter:@TAKU_FES_JAPAN
文:Hiromi Koh