11月に上演された宮本亞門演出舞台、「イノサン musicale」。2020年はフランスで公演も予定されており、かなり意欲的な作品である。そして主題歌が!「イノサンRouge」が2020年1月22日(水)にリリースされる事が決定。
劇中で演じた主人公Marie名義として、中島美嘉にとって約1年振りのシングルとなる本作は世界を舞台に活躍し続ける日本を代表するギターリスト“MIYAVI”を作曲・サウンドプロデュースに迎え、作詞には 紙&電子累計で160万部を超える本舞台の人気漫画原作者“坂本眞一”による書き下ろしという強力な布陣で制作された表題曲。加えて、劇中のMarie歌唱曲「無垢なるもの」をアコースティックスタイルでカップリングとして収録。2005年にリリースされた「GRAMOROUS SKY / NANA starring MIKA NAKASHIMA」から15年振りとなる“starring MIKA NAKASHIMA”名義による注目の作品となる。
更に、坂本眞一描き下しイラストジャケットや、Marie扮する圧倒的なビジュアルの中島美嘉が詰まったスペシャルフォトブックレット仕様など、本作でしか手に入れる事が出来ない貴重な完全生産限定盤にてリリースされる。
日本で公演が終わっても話題を提供し続ける、「イノサン musicale」!
<作品レポ>
開演時間前、高校生が一人、また一人舞台に登場する。談笑したり、スマホで自撮りする者、ふざけあったり、どこにでもある光景だ。学校の鐘がなる。そこへ教師たちがやってくる。白髪交じりの女性教師が来る、教師と言うよりは校長のような雰囲気。「みなさん、御機嫌よう」といい「より勉学に励みなさい」と生徒たちにいう。「ありがとうございました!」、そこへ一人の女子生徒が遅れてやってくる。「また、遅刻」と言われる。そして授業が始まる。世界史の授業、フランス革命のところだ。
そして、けたたましい電子音、場面はドラステックに変わる、生徒の一人が舞台上で服を着替えさせられる。一気に物語の世界へ!椅子に座らされ、父親に暴力を振るわれる、原作にもあるシーンだ。「運命に従え!」とどなる。さっきまで掃除をしていたおばさんはいつの間にか物語の語り部(池田有希子)になり、状況を説明する。祖母・アンヌ-マルト(浅野ゆう子)がやってきて孫のシャルル-アンリ・サンソン(古屋敬多)に「代々受け継がれてきた剣を譲りましょう」と言われ剣を手にする。そして一気に処刑シーンへ。しかし、なかなか思い通りにできないサンソン。そこへ妹のマリー-ジョセフ・サンソン(中島美嘉)がやってきて「マリーがやる!」と言い放つ。
死刑執行人の家に生まれたからには、その運命に抗うことはできない。すんなりと死刑ができるように手ほどきを受ける。サンソンはこの運命を受け入れつつも、自分の理想を実現したいと願う。過酷な運命、「僕は誰とも結婚はしない」とサンソンが歌い、「いいなりにならない」とマリーが歌う。
ところどころエピソードを省略しつつ、クローズアップもする。そのバランスと緩急つけた構成、原作はかなり登場人物は多いのだが、主要な人物だけに絞り、すっきりと見せる。死刑執行人、国王直々に任命される「正義の番人」のだが、やはり死刑を生業としているので『死神』と呼ばれてもいる。それでもサンソンはまっすぐに生きる、そしてある日、少年に出会うが、それはルイ-オーギュスト、のちのルイ16世(太田基裕)であった。
その彼に招かれてベルサイユ宮殿へと赴く。忌み嫌う人々に向かって「私は正式に招待された」といい、ルイ-オーギュストも「私が招待した」という・・・・・・。ルイ16世は感性豊かな人物「無実の者を殺す軍人とは違う」と歌う。
時代はドラステックに大きくうねりをあげて進んでいく。革命の足音が近づいている、アラン・ベルナール(梶裕貴・武田航平/Wキャスト)は世界中を回って見聞を広げてきた。「死んでもいい人間なんて1人もいない」といい、学校を作った。「変わらないね」とマリー、彼女にとってアランは初恋の人であり、理想の実現を誓い合った仲。「差別のない時代がもうすぐやってくる」という、聡明な青年だ。
ルイ-オーギュストは即位し、オーストリアからやってきたマリー・アントワネット(小南満佑子)は王妃となる。「すべての既成概念を否定する」と青年ルイ16世。そして革命の足音が日に日に近づいてくる・・・・・・。
原作の流れはもちろん史実に沿っているので、このミュージカルもフランスの歴史をリスペクトしつつ進行する。そして原作世界をロックテイストな楽曲で彩る。登場人物、特に主人公をはじめとした若者たちは時代に抗おうとし、レベラルな思想をもち、それを実現しようとする。だから革命が起きる。そんな空気感を激しいロックで表現する。よってクラシック調のが楽曲ではない、ということで「あろう。そして服装はより具体的に、細部までこだわっている。舞台上の高低も効果的に使用、作画をそっくりそのまま実現、ではなく、作品世界の時代設定と原作そのものがまとっている空気感をどこかに感じさせつつ、表現している。作画そっくり、ということはせずに原作の空気感や行間をどう伝えるかに腐心、原作を知らなくても十分に楽しめるが、やはり歴史物は少し調べだすと限りがなく、それでもフランス革命を習ったことがあれば、当時の人々の考え方などをちょっと頭の片隅においておけば、物語は俄然面白くなる。キャストも作画から抜け出たような姿ではなく、舞台作品らしい、登場する人間のリアルいう点にこだわり続けていくのも頷ける。
殺陣やアクション、処刑シーンは、この作品の見せ場にはならない。人と人との交わり、登場人物の悩みや苦しみ、そして心情を歌い、涙する。そんな真摯な姿は胸を打つ。映像表現も過剰にならずに作品世界を伝え、時にはグラフィックな表現でその心や状況を雄弁に伝える。ミュージカルという形態での舞台化、歌の部分で感情や状況を凝縮する。休憩を挟んだ2幕もの、マリー-ジョセフ・サンソン役の中島美嘉は存在感抜群で、佇まいだけでマリーの意志の強さを表現する。シャルル-アンリ・サンソン役の古屋敬多は原画の雰囲気に近いが、姿をなぞった感じではなく、『ナチュラルにそこにいる』という、空気感を纏う。
時代に翻弄されつつ、迫り来る時代の風を読み、現状を打開しようとする姿勢、そのためには死しても、という熱い志。現代ではそのようなことをする人物は、辺りを見回してもほぼ皆無である。だからこそ、胸を打ち、過酷な時代を生きていたとは言え、不自由とは言え、心は自由そのもの。実在の人物にフィクションな造形を加え、『もしかしたら、実際もこんな人物だったのかも』と思わせる何かを感じる。また、マリー-ジョセフ・サンソンは実在はしていたようだが、詳しい文献はない。よって人物像はフィクション。このキャラクターが強烈な個性を放つことによって物語が際立ってくる。この原作の良さを存分にミュージカルという手法で立体的に表現する。難しい題材であるが、スタッフ・キャスト一丸となって作り上げた舞台、来年のフランスでの公演も楽しみだ。
<出演>
中島美嘉(マリー-ジョセフ・サンソン役)、古屋敬多(Lead)(シャルル-アンリ・サンソン役)、梶裕貴(アラン・ベルナール役(W))、武田航平(アラン・ベルナール役(W))、小南満佑子(マリー-アントワネット役(フランス王妃))、荒牧慶彦:ジャック役、鍵本輝(Lead)(ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン役)、多和田任益(オリビエ・ルシャール役)、貴城けい(デュ・バリー役(マリー-ジャンヌ・ベキュー)、前山剛久(アンドレ・ルグリ役)、佐々木崇(トーマス-アーサー・グリファン役)、林明寛(ド・リュクセ役)、太田基裕(ルイ-オーギュスト(ルイ16世)役)、浅野ゆう子(アンヌ-マルト役)他
【公演概要】
日程・場所:2019年11月29日〜12月10日 ヒューリック東京 公演終了。
*2020年2月9日 パリ公演
原作:「イノサン」「イノサンRouge」/坂本眞一(集英社グランドジャンプ)
脚本:宮本亞門・横内謙介
演出:宮本亞門
渉外プロデューサー:遠藤幸一郎
ゼネラルプロデューサー:原 葵(Jnapi L.L.C.)
主催:Jnapi L.L.C.
公式HP:https://jnapi.jp/stage/innocent/index.html
取材・文:Hiromi Koh
(C)Shinichi Sakamoto/SHUEISHA