《インタビュー》スーパーオペラ「ガラスの仮面」より 歌劇「紅天女」日本オペラ協会 総監督:郡 愛子  

発表の時点から大きな話題となった「紅天女」のオペラ化、しかも脚本は原作である美内すずえが手がける。作曲は「半落ち」「ゲド戦記」で知られる寺嶋民哉、キャストは小林沙羅、笠松はる、他ジャンルを超えたキャスト陣が集結。スーパーオペラ 歌劇「紅天女」が満を持して2020年1月より公演が始まる。このオペラの誕生のきっかけや原作作品に対する思いなどを日本オペラ協会総監督の郡愛子さんにお話をお伺いした。

「その頃(70〜80年代)の少女漫画って絵の一つひとつに魂が詰まっていますし、表情一つとっても視覚に訴えかけるものがあります。絵を見ただけで飛び出してくるようなイメージですよね」

――「ガラスの仮面」の作中劇である「紅天女」のオペラ化を決めたきっかけは?

郡:1996年に美内すずえ先生が「アマテラス 美内すずえ スピリチュアル・ソングブック」をお出しになって。その一番最後に「新世界」という曲がありまして、誰に歌っていただこうか、ということになったとき「これはオペラ歌手の方がふさわしいのではないか」と担当の方がおっしゃっていたんです。当時、私が三菱自動車「ディアマンテ」という車のCMソングを歌っていたことを美内先生が注目していらっしゃって、それで「新世界」の歌手に抜擢されたんです。1998年には、美内先生のご友人である舞踊家の花柳鶴寿賀さんから、「紅天女」を踊るための、20分程度の曲を作ってくれないか、という依頼があって。それなら郡さんに歌っていただくのはどうかしら、というご指名があって、なおかつ美内先生による作詞、寺嶋民哉さんの作曲で「紅天女」の曲が出来上がったんです。
そして、2017年に銀座シックスで、美内すずえ先生が40周年記念の原画展を開催されたんです。それでそのときに、何かちょっとしたプレゼントをしましょうということで、先程の「紅天女」の音源をCDにして当日お売りになっていました。また、能楽堂では新作能「紅天女」の公演も行われました。その後、美内先生から久しぶりにお電話をいただいたときに「能の次はオペラしかないでしょう」と提案させていただいたらたいへん盛り上がりまして(笑)、今回の上演につながったのです。

――「紅天女」の大元である「ガラスの仮面」もそうですが70〜80年代の少女漫画は舞台化されていることが多いです。

郡:私よりは少し世代が下の方にとっては馴染みが深いと思いますが、やっぱりその頃の少女漫画って絵の一つひとつに魂が詰まっていますし、表情一つとっても視覚に訴えかけるものがあります。絵を見ただけで飛び出してくるようなイメージですよね。

「漫画のファンから観て『全くイメージと違う』と言われることを避けたい、ということを美内先生がおっしゃっていて。演者もすべてオーディションで選びました」

――「ガラスの仮面」はこれまでにも本編や「女海賊ビアンカ」は舞台になっていましたが、「紅天女」だけは純粋にセリフのある舞台になっていなかったので、ファンの方も気づいていらっしゃったようです。

郡:先日、記者会見のときにも美内先生がぜひオペラ舞台化を、ということをおっしゃっていたのですが、かなり昔に「トゥーランドット」を観たときに、「紅天女もオペラにしたい」と考えていたようなのです。また、美内先生はストーリーや原稿製作中にモーツァルトやチャイコフスキーの曲を聴いているそうで、いつでもクラシック音楽が環境にあると話されていましたね。

――「ガラスの仮面」に限らず漫画が原作であるということは、すでに観客が作品を知っている状態でもあるし、海外の方でも理解がしやすいのではないかと思います。

郡:美内先生も、日本全国そして海外での上演を望んでいるそうです。今回はたまたまグランドオペラということでオーケストラも大規模なものになりましたけれど、もっと小規模にアレンジしたものを作ることも考えていらっしゃるようですね。まずは1月のオペラが精一杯ではありますが(笑)。先程お話した、花柳鶴寿賀さんバージョンの時点で寺嶋さんが素晴らしい作品として仕上げていただいていたので、今回のオーケストラはさらにスケールの大きな壮大なものになっているでしょう。また、漫画のファンから観て「全くイメージと違う」と言われることを避けたい、ということを美内先生がおっしゃっていて。演者もすべてオーディションで選びました。今は第一幕が終わった時点で感想がSNSに載ってしまいますからね。主演は特にイメージに合うような、女性2人を厳正な審査で選ばせていただいています。
今回の「紅天女」オペラ化において、私が最も素晴らしい点だと思っているのはPA(マイク)を使わない生の自然な音声で演じているということです。本当に演者それぞれが身体の深いところから声を出して、全身を使って美内先生が紡ぐ「魂の言葉」を表現できるということが、オペラならではだと思います。

 

「聴いているうちに、歌手の『声』の部分のよさを分かっていただけるのではないかしら、と思います」

――ミュージカルのクリアな音声とはまた違う、生身の声でオペラは演じられますね。

郡:ミュージカルもそれぞれ良さがあって、素晴らしい表現だと思います。普段からミュージカルを親しんでいらっしゃる方からすると、オペラに対して違和感を抱かれることもあるかもしれません。でもきっと聴いているうちに、歌手の「声」の部分のよさを分かっていただけるのではないかしら、と思います。また、オペラを普段ご覧になっている方から観ても、石笛の音、能を取り入れているところが新鮮に感じられると思いますね。
一方で、漫画のファンの方と、オペラのファンの方とは何の接点もないので、例えば漫画のファンにとっては「オペラはドレスコードがあったりして敷居が高い」というイメージがあったり、オペラのファンにとっては「どの登場人物がどういう役割なのかがわからない」ということで興味を持たれない……ということが問題点ではあるんです。結果的にどう解決していけばよいのか、というのがクリアしなければいけない課題ですね。また、オペラはチケットが高いイメージもあるのですが、美内先生からの提案で、「多くの方に観ていただきたい」ということで、オペラとしてはチケット代を少しお求めやすい価格に設定しています。

――最後に読者に向けてメッセージを。

郡:グランドオペラということで、音楽のスケール感や美しさはもちろん、阿古夜を演じる小林沙羅さん、笠松はるさんのどちらが北島マヤなのか、姫川亜弓なのかということを想像できるようになっているんです。A組、B組それぞれ見比べていただくとより楽しめます。必ず感動的な、忘れられないものになるオペラになると思いますので、お待ちしております。

――ありがとうございます。公演を楽しみにしております。

<キャスト>
阿古夜×紅天女:小林沙羅(11&13&15)、笠松はる(12&14)
仏師・一真:山本康寛(11&13&15)、海道弘昭(12&14)
帝:杉尾真吾(11&13&15)、山田大智(12&14)
伊賀の局:丹呉由利子(11&13&15)、長島由佳(12&14)
楠木正儀:岡 昭宏(11&13&15)、金沢 平(12&14)
藤原照房:渡辺 康(11&13&15)、前川健生(12&14)
長老:三浦克次(11&13&15)、中村 靖(12&14)
お豊:松原広美(11&13&15)、きのしたひろこ(12&14)他

【公演概要】
日本オペラ協会公演
美内すずえ原作・脚本・監修
スーパーオペラ「ガラスの仮面」より歌劇「紅天女」新作初演
日程・場所:2020年1月11日〜1月15日 Bunkamura オーチャードホール
各日とも14時開演(開場13時)
13:15より会場内にて美内すずえ×群愛子スペシャルトーク開催
お問い合わせ・予約:日本オペラ振興会チケットセンター 03-6721-0874
公式HP:https://www.jof.or.jp/
主催:公益社団法人日本オペラ振興会/Bunkamura
助成:文化庁/公益社団法人東急財団/公益財団法人三菱UFJ信託芸術文化財団
協力:有限会社プロダクションベルスタジオ/株式会社アカルプロジェクト/小田急電鉄株式会社/株式会社白泉社
写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会
取材:Hiromi Koh
構成協力:佐藤たかし