2020年1月8日、 新国立劇場2020/2021シーズンのオペラ、 バレエ、 ダンス、 演劇のラインアップ説明会が開催され、 大野和士 オペラ芸術監督、 吉田都 次期舞踊芸術監督、 小川絵梨子 演劇芸術監督が、 新シーズンへの意気込みを語った。
2020/2021シーズンも多彩なラインアップを揃えている。
<新国立劇場2020/2021シーズンオペララインアップ>
夏の夜の夢 [新制作]
アルマゲドンの夢 [新制作 創作委嘱作品・世界初演]
こうもり
トスカ
フィガロの結婚
楽劇「ニーベルングの指環」第1日 ワルキューレ
夜鳴きうぐいす/イオランタ [新制作]
ルチア
ドン・カルロ
カルメン [新制作]
<新国立劇場2020/2021シーズンバレエラインアップ >
白鳥の湖 [新制作]
くるみ割り人形
ニューイヤー・バレエ
パキータ / デュオ・コンチェルタント [新制作] / ペンギン・カフェ
吉田都セレクション
ファイヴ・タンゴ [新制作] /A Million Kisses to my Skin [新制作] / テーマとヴァリエーション
コッペリア
ライモンダ
<新国立劇場2020/2021シーズンダンスラインアップ>
中村恩恵×首藤康之×新国立劇場バレエ団 Shakespeare THE SONNETS
ダンス・コンサート 舞姫と牧神たちの午後 2021
Co.山田うん オバケッタ 白鳥の湖 [新制作]
<新国立劇場2020/2021シーズン演劇ラインアップ>
ガラスの動物園 [海外招聘公演]
リチャード二世
ピーター&ザ・スターキャッチャー
人を思うちから 其の壱 斬られの仙太 [フルオーディション3]
人を思うちから 其の弐 東京ゴッドファーザーズ [新作]
人を思うちから 其の参 キネマの天地
短編フェスティバル「嘘」(仮題) -はじめての演劇ー
<演劇プロジェクト>
こつこつプロジェクト ―ディベロップメント―
ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ
[大野和士 オペラ芸術監督からのメッセージ ]
新国立劇場2020/2021シーズンのラインアップを皆様にご紹介できますことを大変な喜びに感じております。
本年も4本の新制作、 6本のレパートリー作品を並べ皆様をお待ちしております。 本年は私の芸術監督3シーズン目ということで、 1年目に行ったダブルビルと日本人作曲家委嘱シリーズが再び帰って参ります。
ダブルビルは、 チャイコフスキーの『イオランタ』とストラヴィンスキー『夜鳴きうぐいす』。 『イオランタ』はチャイコフスキー最後のオペラで、 デンマークのロマン派作家ヘルツの戯曲をチャイコフスキーの弟、 モデストがオペラ台本に脚色し、 兄に献上して誕生した作品。 チャイコフスキーの音楽はおとぎ話のように美しく、 彼の作曲家として、 また人間としての純真さ、 優美さ、 繊細さが見事に結実した傑作です。 ストラヴィンスキーの『夜鳴きうぐいす』はアンデルセン童話が原作であり、 人間が生きる道をさ迷う中、 うぐいすの可憐なコロラトゥーラが胸に染み渡ります。 演出はこのプロダクションを念頭に、 昨年新国立劇場オペラ研修所で『イオランタ』を若手に丁寧に指導してくれたコッコスが務めます。
日本人作曲家委嘱シリーズ第2弾は、 俊英、 藤倉大氏による彼自身3番目となる新作オペラ。 彼が選んだ題材は、 英国人のSF小説の父、 H.G.ウェルズの小説『アルマゲドン(世界最終戦争)の夢』。 ウェルズは未来を予言するような作品を次々と書きましたが、 この『アルマゲドンの夢』は1901年に書かれながら、 第一次世界大戦の大量破壊兵器や、 第二次世界大戦に至るファシズムの到来、 原子力による暴力までをも不気味に予測した驚くべき作品。 藤倉はオペラ化に当たって、 「通勤電車の中の会話として語られるこのドラマを、 音楽によって」「夢の中あるいは覚醒状態の連続体のようにした」「オペラ特有の合唱という存在には、 乗客や血に飢えた軍隊を想起させる役を与えた」と言っています。
シカゴ響やBBCプロムスなど世界的な楽団やフェスティバルからの委嘱が絶えない、 また日本では子供から大人まで参加できる名物フェスティバル「ボンクリ・フェス」などで今日の音楽界を牽引するエネルギッシュな藤倉大の新作オペラ、 世界初演は必見です。
演出は、 2018年ザルツブルクで『魔笛』を手がけたリディア・シュタイアー。 世界の目が彼女に注がれている今、 新国立劇場で新演出を迎えられることは大変幸運なことです。
新制作、 他の2演目は、 ビゼーの『カルメン』とブリテンの『夏の夜の夢』です。
『カルメン』は、 2018/2019シーズン『トゥーランドット』で話題を呼んだオリエ演出。 彼の国スペイン題材のオペラで、 白熱の情熱の世界を、 満を持してご覧いただきたいと思います。 カルメン役にはフランスの名花ドゥストラック、 ドン・ホセはこの数年で瞬く間に大きなキャリアを築いたアガザニアン、 エスカミーリョには、 近年パリ・オペラ座で大活躍のドゥハメルが登場します。 この『カルメン』と『アルマゲドンの夢』は私が指揮を務めます。
『夏の夜の夢』は、 シェイクスピアとブリテンというイギリスの二人の天才の才能が見事に結びついた作品。 妖精の気まぐれといたずらで、 若い恋人4人と職人6人組がてんてこ舞いする原作に忠実に、 ブリテンがそれぞれの世界を色とりどりの美しい音楽で紡ぎあげた極上のコメディ。 モネ劇場のマクヴィカー演出による、 舞台一面に森をめぐらしたかのような夢幻の世界を、 新国立劇場のプロダクションとして改めて皆さんにご披露いたします。 指揮のブラビンスを筆頭に、 出演者の多いこの作品にふさわしい歌手たちが集まりますが、 中でもオーベロン役の藤木大地は、 大騒ぎの種を蒔く張本人としてドラマを牽引してくれるでしょう。
レパートリー作品も充実の指揮者陣、 歌手陣で皆様に楽しんでいただきます。
『トスカ』のタイトルロールにはプッチーニのオペラで国際的に活躍が続くイゾットン、 カヴァラドッシには日本でもおなじみのスピントテノール、 メーリ、 スカルピアには、 奥深く感情のこもった声で魅了するソラーリ、 指揮者にはヴェルディやプッチーニの名演で名高いカッレガーリを配し、 緊迫したドラマが展開することでしょう。
『フィガロの結婚』は、 ウィーン国立歌劇場の常連指揮者、 ピドの新国立劇場初登場。 キャストには、 スザンナに臼木あい、 ケルビーノに脇園彩と日本人のスターが並び、 海外からの実力派たちと丁々発止の、 ドラマティックでワクワクするアンサンブルを聴かせてくれることと思います。
『こうもり』の指揮は、 アメリカ人としては珍しく、 イタリアのメジャー劇場でオペラ指揮者としてキャリアを積み国際的に羽ばたいたフランクリン。 得意のオペレッタで香しい響きをもたらすことでしょう。 主役二人には名歌手にして名優を招聘。 アイゼンシュタインは、 バイロイトでも活躍、 ドイツリートの世界でも名高いバリトン、 シュムッツハルト。 舞踏会で情熱的な仮面の女性に変身するロザリンデは、 元帥夫人やジークリンデを歌うかと思えば、 オペレッタも得意に歌い演じるケスラー。 皆様をウィーンの少しばかりアンニュイで、 底抜けに洒脱な世界にお誘いし、 大いに湧いていただきましょう。
『ワルキューレ』には飯守泰次郎マエストロを再び指揮台にお迎えして、 極め尽くしたワーグナーの世界をお聴きいただきたいと思います。 マエストロの深い解釈を表現するために、 もう今更説明の必要もない、 テオリン、 キルヒ、 シリンス、 そして極め付けに我らが藤村実穂子と、 最高の歌手の方々が集まることになりました。
『ルチア』は二人の女性にご注目を。 一人は指揮者スペランツァ・スカップッチ。 ウィーンを始め世界の大劇場で注目を集め、 リエージュのワロニー歌劇場音楽監督としても重責を果たす話題の指揮者。 スペランツァという名は、 なんと’希望’という意味なので、 彼女が指揮台に上がるのを見るだけで、 ゾクゾクしてくることでしょう。 タイトルロールはルング。 今『ルチア』『アンナ・ボレーナ』『ファウスト』のマルグリート、 『椿姫』などを歌ったら、 中音域から遥か高音へと彼女ほど音質が変わらず気持ちよく上がっていく歌手には、 そうやすやすとはお目にかかれません。 彼女の声に、 ‘希望’の星はどのようにオーケストラを駆り立てていくでしょうか。
『ドン・カルロ』はカリニャーニの指揮。 ペルトゥージ、 ガンチ、 マリーナ・コスタ=ジャクソン、 キウリ等の重厚なキャストの一角を占めるのは、 ロドリーゴ役で全編を締める高田智宏。 『紫苑物語』の主役を朗々たる声で歌った若武者が、 ヴェルディのオペラで帰ってきます。
オペラパレスの新シーズンで、 思わず息を飲む瞬間をいくたびと味わっていただきますよう、 皆様のご来場を心よりお待ちしております。
[吉田都 次期舞踊芸術監督からのメッセージ ]
2020/2021 シーズンより新国立劇場の舞踊芸術監督に就かせていただくことになりました。
この劇場とは 1997 年に開場記念公演『眠れる森の美女』でオーロラ姫を踊らせていただいたご縁がありますので、 今回の拝命は身の引き締まる気持ちがあるとともに、 ご縁ある場所での新たな活動 を楽しみにする思いもあります。
新国立劇場バレエ団はこの 23 年間でめざましい発展を遂げてきました。 これは歴代の芸術監督の強い信念、 そしてダンサーたちの情熱と鍛錬の賜物です。 こうして積み上げてこられたことを大切にしつつ、 私が海外で学んできたことを惜しみなく伝えることで、 新国立劇場バレエ団のさらなる進歩を目指して参ります。
バレエ公演では古典作品の上演を中心に、 クラシックバレエの伝統を守りつつ、 大原芸術監督が推し進めていらっしゃる「テクニックだけではなく表現力の向上」を引き続き目指してゆきたいと考えております。 あわせて、 新国立劇場バレエ団の宝となるような新たな作品創りにも挑戦していく所存です。
まず 2020/2021 シーズンの幕開けとして『白鳥の湖』を新制作にて上演いたします。 新たな一歩を踏み出すにあたり、 古典バレエの名作中の名作を選びました。 今回のプロダクションはサー・ピーター・ライトのもので、 英国らしい演劇的要素が盛り込まれた重厚な作品となっております。 各配役のキャラクターもはっきりしており、 ダンサーたちには演じることの喜びを感じてもらえればと思います。
クリスマスシーズンの 12 月にはイーグリング振付の『くるみ割り人形』を、 新春の「ニューイヤー・バレエ」では新国立劇場バレエ団初演となるバランシンの『デュオ・コンチェルタント』、 久々の上演となるビントレーの人気作品『ペンギン・カフェ』、 そして古典バレエ『パキータ』抜粋の3作品をお楽しみいただきます。
2 月のトリプル・ビル公演「吉田都セレクション」では『テーマとヴァリエーション』に加え、 2つの新制作バレエを上演いたします。 現在世界各国で活躍している振付家デヴィッド・ドウソンが J.S.バッハのピアノコンチェルトに振り付けた『A Million Kisses to my Skin』。 もうひとつは巨匠ハンス・ファン・マーネンが A.ピアソラのタンゴとバレエを融合させた大人のバレエ『ファイヴ・タンゴ』です。 こちらのプログラムではダンサーたちのこれまでにない、 いろいろな面をご覧になれると思います。
5 月のゴールデン・ウィークにはお洒落でエスプリのきいた、 プティによる『コッペリア』を、 6 月にはルイザ・スピナテッリの格調高く美しい衣裳と美術も楽しめる、 牧阿佐美改訂版のグランドバレエ『ライモンダ』でシーズンを締めくくります。
ダンス公演では、 新国立劇場で生まれた名作の一つ『Shakespeare THE SONNETS』を新国立劇場バレエ団のダンサーを含めたキャストにより再々演いたします。 この作品は 2011年の初演以来、 中村恩恵と首藤康之の代表作として高い評価を受けてきました。 たった二人で演じるシェイクスピア作品の登場人物を、 今回は首藤氏と共に、 新国立劇場バレエ団のプリンシパル・ダンサーがダブルキャストで演じます。
3 月の『舞姫と牧神たちの午後 2021』は、 日本を代表する振付家・ダンサー達が競演するダンス・ コンサートです。 2005 年に同じ企画で上演された公演から生まれ、 幾度となく再演を重ねた 『Butterfly』(振付:平山素子&中川 賢)と「DANCE to the Future 2019」で発表された『Danae』(振付:貝川鐵夫)の2作品で、 新国立劇場バレエ団のダンサー達も参加いたします。
7月には実力と個性を持ち合わせたメンバーによる迫力ある群舞などにより、 日本を代表するコンテンポラリー・ダンスカンパニーとして活躍する Co.山田うんが登場いたします。 国内外で意欲作を発表してきた勢いのあるカンパニーの、 大人もこどもも楽しめる新作ダンス公演にどうぞご期待ください。
歴代の芸術監督が築き上げてこられた実績に恥じぬよう、 より一層、 皆様にご満足いただけるよう精一杯努めて参りたいと思っております。 新国立劇場のバレエ、 ダンス公演にたくさんのお客様がお越しくださることを心より願っております。
[小川絵梨子 演劇芸術監督からのメッセージ ]
2020/2021シーズンは、 私の芸術監督としての任期3年目となります。
本シーズンでは演劇を愛する皆様に加えて、 まだ演劇と出会ったことのない方々にも、 その多様性と豊かさ、 そして演劇ならではの面白さをお届けできればと願っております。
まず、 シーズンの幕開けには、 フランスの国立劇場であるオデオン劇場からの招聘公演『ガラスの動物園』。 演出は、 今、 世界で最も人気を誇る演出家といっても過言ではないイヴォ・ヴァン・ホーヴェ氏。 主演はフランスの国民的女優イザベル・ユペール。 2020年の3月にパリで開幕する話題の新作を、 新国立劇場からお届けいたします。
続いて、 鵜山仁氏演出による『リチャード二世』。 2016年に上演した『ヘンリー四世』に繋がる物語で、 この作品をもって2009年からのシェイクスピアの歴史劇シリーズがついに完結いたします。 さらに公演後の11月には、 本シリーズの完結を記念して、 シリーズの過去の作品を特別限定上映いたします。
12月には、 昨シーズンからの「子どもも大人も一緒に楽しめる企画」の第三弾として『ピーター&ザ・スターキャッチャー』。 ピーター・パンの前日譚を描いた人気小説を舞台化し、 トニー賞をはじめ多くの賞を受けた作品です。
4月、 5月、 6月は、 「人を思うちから」シリーズと題しまして、 日本の多くの人々に愛され続ける名作を連続上演いたします。 シリーズ【其の壱】は、 三好十郎作『斬られの仙太』。 本作はフルオーディション企画でもあり、 全てのキャストをオープンオーディションいたします。 演出には上村聡史氏をお迎えすることがかないました。 【其の弐】は、 『東京ゴッドファーザーズ』。 今 敏監督の傑作アニメーション映画の初の舞台化となります。 2021年の東京に舞台を移し、 演劇ならではの切り口で人の情と勇気の物語を蘇らせます。 演出には新国立劇場初登場となる藤田俊太郎氏。 【其の参】は、 井上ひさし作『キネマの天地』。 人々に愛され続ける日本の上質な名作を、 30代40代の演出家3人が現代の視点を持って描き出します。
7月は、 短編フェスティバルを開催します。 短編の演劇作品を劇場という形にこだわらず、 新国立劇場内のあらゆるスペースにてフェスティバル形式で上演いたします。 普段、 演劇に接することの少ない方々にも、 気軽に劇場に足を運んで頂ける、 お祭りとして楽しめるイベントを目指します。
演劇と言っても様々なものがあります。 その多様性は大切ではありますが、 その中でも、 生きた人間がそこにいる演劇は(必ずしもいつもハッピーエンドではなく、 輝かしい世界でもなく、 日々の癒しや単純な喜びにはならないかもしれませんが)、 人が生きる上できっと必要な、 人間らしさへの共感性があります。 人間の物語としての演劇とその豊かさを少しでもお伝えできれば幸いです。
公演以外では、 一年間をかけて作品作りを行う「こつこつプロジェクト」の第二期がスタートいたします。 昨シーズンからの「ロイヤルコート×新国立劇場劇作家ワークショップ」は引き続き進行中で、 2020年にロンドンでのリーディング公演を予定しております。 その他、 ギャラリープロジェクトでは、 「中高生のためのどっぷり演劇3days」、 「演劇のおしごと」シリーズ、 「演劇噺」シリーズを引き続き実施してまいります。
本シーズンもどうぞよろしくお願い申し上げます。
<新国立劇場について>
新国立劇場は、 日本唯一の現代舞台芸術のための国立劇場として、 オペラ、 バレエ、 ダンス、 演劇の公演の制作・上演や、 芸術家の研修等の事業を行っています。 オペラパレス、 中劇場、 小劇場の3つの劇場を活用し、 年間約300ステージの世界水準の主催公演を行っています。
公式HP: https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_016649.html