2020年1月11日 東京・かめありリリオホールにて、舞台KERA CROSS 第二弾『グッドバイ』が初日を迎えた。「KERA CROSS」とは、演劇界を牽引する劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の過去の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが演出するシリーズ企画であり、2019年上演の『フローズン・ビーチ』(鈴木裕美演出)に続き、今回が第二弾となる。演出を担当するのは生瀬勝久。映像、舞台問わず活躍する人気俳優であり、長きに渡り数々の舞台で脚本・演出を担当してきたクリエイターでもある。
その生瀬勝久が、「KERA作品を演出するならば、是非この作品を手掛けたい」と熱望したのが『グッドバイ』。太宰治の未完の遺作小説をベースに、KERAがその先の物語を描き完結させ、自身の演出で2015年初演。数々の演劇賞を受賞した傑作コメディだ。
演劇界の話題をさらったことも記憶に新しいこの作品を、今回、生瀬勝久率いるこのカンパニーはどんな作品に創り上げるのか、大きな期待が集まる。
物語の舞台は終戦直後の東京。混乱期の中、田島周二(藤木直人)は、文芸雑誌「オベリスク」の編集長という顔とは裏腹に、闇商売で大儲けし、妻(真飛聖)や娘たち(MIO、YAE)を地方に疎開させたまま、何人もの愛人を渡り歩くという不埒な放蕩生活をしていた。しかしそんな田島も、愛人たちとの関係を清算し、妻子を東京に呼び寄せようと思い始めたもののうまい方法が見つからない。そんな折、文士の連行(生瀬勝久)がある策を田島に提案する。それは愛人たちのもとに、とびきりの美女を「妻」として同伴し、関係をあきらめさせる、という奇策であった…。
田島はその策を実行すべく、ひょんなことで知り合った女・キヌ子(ソニン)に、「妻」役を頼み込むが、キヌ子は無類の大喰らいで怪力、がめつい女で、何かと金を要求してくる。この二人が、愛人たちを訪ね歩き、どのような顛末が待っているのか…。
舞台上には、眼前に広がる原稿用紙。そして“原稿用紙”が開くと、その奥には色彩鮮やかな別世界が広がり始め、パノラマのようだ。生のヴァイオリン演奏(杉田のぞみ)が、時にドラマティックに、時に抒情的に劇場を包み込む。
この作品は、一人一人の登場人物が個性に溢れ魅力的なことも、大きな見どころの一つだ。
一見、優男でそつが無さそうに見え、その実、常人とはかけ離れた倫理観の持ち主である田島という男を、藤木直人は絶妙な多面性で表現し、不思議な魅力を放っている。不道徳な田島がチャーミングに見えてくるから不思議だ。
ソニン演ずるキヌ子は、言動が粗野な中にピュアさと人情味を覗かせる。キヌ子の逞しさは、終戦間もない混乱期に東京で力強く生きた人々の空気を運んでくるようだ。
真飛聖演ずる静江は、田島という厄介な男の妻として、また、幸子(MIO)と福子(YAE)という可愛らしい娘たちを持つ母としての、酸いも甘いもかみ分けた度量の深さを感じさせる。大櫛を演ずる朴璐美は、医者としての冷静沈着さと、その奥に見え隠れする田島への想いを、口跡鮮やかに演ずる。美容師の青木(能條愛未)、挿絵作家の水原(長井短)、百姓の娘・よし(田中真琴)、愛人それぞれの個性が際立ち、その一人一人と、田島とキヌ子が絡む“攻防”には目が離せない。
男性達のキャラクターも必見だ。オベリスク編集部員・清川(入野自由)の仕事への情熱と田島への崇拝はどこまでも熱く、挿絵作家・水原の兄・健一(小松和重)は妹を気遣う優しい兄でありながら危うさを孕み、そして、“偽装妻”企ての張本人、文士・連行の人を食ったような軽薄さも油断ならない。
この人々がどのようにドラマの渦を創り出すのか楽しみだ。
さらに、この作品では多くの俳優が本役以外にもいくつかの役を演ずる。そのキャラクターたちも見逃せない。
強烈なキャラクター達のめくるめく応酬と、色鮮やかに展開する美しい舞台美術にうっとりしながら、眼福感と祝祭感に身を浸す、新春に相応しい贅沢なコメディ作品となった。
撮影:引地信彦
撮影:引地信彦
撮影:引地信彦
撮影:引地信彦
撮影:引地信彦
撮影:引地信彦
初日を迎え、演出の生瀬勝久、キャストの藤木直人、ソニンからコメントが届いた。
●演出・連行役 生瀬勝久コメント
KERA CROSSに参加するにあたり、KERAさんの作品の中で、
一番好きな戯曲である『グッドバイ』を演出出来るなんて、
プレッシャーよりも、心踊るほうが優っています。
素敵なキャスト、最強のスタッフが揃いました!
劇場でお待ちしております。
●田島周二役 藤木直人 コメント
太宰治さんから始まって、KERAさんが後に書いたものを、生瀬さんが演出する、こんな豪華なリレーはないと思いますし、単純に楽しめる、笑える作品なので、令和になって初めて迎える新年の笑い初めにぜひ『グッドバイ』を選んで欲しいと思います。
●永井キヌ子役 ソニン コメント
稽古場で作ってきた空気を、劇場で、いよいよ今度はお客様と共に作って行く時が来たと興奮しています。
短い時間でカンパニー皆で切磋琢磨してきた稽古時間は、沢山の旅をしてきました。
個性溢れるメンバーが繰り広げる『グットバイ』の世界を、これから各地周るその日のお客様に寄り添い、ご堪能していただけるように演じて参ります!
お客様と笑って暖かい時間を共に作りたいです!
公演は、1月11日~13日 かめありリリオホールを皮切りに、山形、新潟、広島、大阪、香川、愛知、福島、2月4日~16日の東京・シアタークリエまで、全国9か所を巡演。
公演の詳細は、KERA CROSSオフィシャルサイト(https://www.keracross.com )で確認してほしい。
<公演概要>
KERA CROSS 第二弾『グッドバイ』
原作:太宰治(「グッド・バイ」)
脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:生瀬勝久
出演:
藤木直人、ソニン、真飛聖、朴璐美、長井短、能條愛未、田中真琴、MIO、YAE
入野自由、小松和重、生瀬勝久
【東京公演】1月11日(土)~13日(月・祝) かめありリリオホール
【山形公演】1月16日(木) 山形市民会館
【新潟公演】1月18日(土) 長岡市立劇場 大ホール
【広島公演】1月21日(火) JMSアステールプラザ 大ホール
【大阪公演】1月23日(木)〜26日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【香川公演】1月28日(火) レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール
【愛知公演】1月30日(木)〜31日(金)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【福島公演】2月2日(日) パルセいいざか
【東京公演】2 月4日 (火)〜16日(日)シアタークリエ
【STAFF】
美術:石原敬 照明:松本大介 音響:大木裕介 音楽:瓜生明希葉
衣裳:坂東智代 ヘアメイク:中原雅子 振付:林 希
演出助手:伊達紀行 舞台監督:菅野將機 宇野圭一
企画・製作=東宝 キューブ
【KERA CROSSとは】
ケラリーノ・サンドロヴィッチの数々の戯曲の中から選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいに創りあげる連続上演シリーズ。
第一弾 KERA ×鈴木裕美『フローズン •ビーチ』 (※終了)
第二弾 KERA ×生瀬勝久『グッドバイ』
第三弾 KERA ×河原雅彦
第四弾 KERA ×三浦直之(ロロ)
第五弾 KERA ×ケラリーノ・サンドロヴィッチ