つかこうへい没後10年になるが、彼の傑作の一つ「飛龍伝」が「飛龍伝2020」と銘打って開幕した。1973年に発表され、翌年上演、つかファンの間で名作、と愛されてきた作品だ。そして1990年に富田靖子主演で銀座セゾン劇場で上演、ショーアップされ、劇場に長蛇の列ができたほどに大ヒットした。2020年、そしてつかこうへいと縁があり、彼の作品を知り尽くしている岡村俊一が演出を手がける。
開演前は昭和の歌謡曲が流れている。この「飛龍伝」の時代に近い曲、あるいはこの時代を描いている曲、あの時代の空気感が劇場に充満する。
そして幕開き、機動隊ら・・・・・突然にどどどーっと。大音量、そしてヒロイン登場!バックには「飛龍伝2020」の文字が!
基本的には銀座セゾン劇場で上演されたものと変化はないが、演出面では、やはり照明の使い方や、バックにタイトルロールを出してくる、振付が変わるあたりは、演劇は”時代とともに変わっていく”部分、そして変わらないところは作品の普遍性を感じる。セリフに「新宿御苑」「サクラの会」が飛び出し、こういうところはきっとご本人が生きていたらきっとこうしただろう、というのが感じられる。当時、初日と千秋楽、変化していく様子を見るために何度も通うファンもいた、と言う。
ヒロイン・神林美智子(菅井友香)、そして岩手から上京し、全共闘作戦参謀の桂木順一郎(味方良介)に出会う、そして機動隊員、四機の狂犬病の山崎こと、山崎一平(石田明)の3人を軸に物語は進行する。
怒涛のような、予測がつかない展開の面白さ、荒唐無稽さ、絡み合う人間関係と感情、しかしつか作品の面白さはそれだけではない。次から次へと役者が発する”言葉”、セリフである。「俺が欲しいのは青春だ!」「革命は綺麗事」「無益な血を流す必要があるのか」など、全てのセリフが観客に刺さってくる。桂木は美智子を一平の部屋に潜入させる作戦をとる。ところが山崎は美智子に好意があり、美智子もまた山崎に心が傾いていく。しかし、美智子と山崎は敵同士、全共闘と機動隊、そしていよいよ最終決戦に・・・・・・。
脇のキャラクターも個性的でしかもバックボーンがある。それを思わせるセリフも出てくる。悲しい過去がある者もいる。人間の弱さや強さ、情に流されてしまう気持ち、そして志を遂げたいと思う気持ち、そういった人間の感情をクローズアップして見せる。負の感情や闇の部分も包み隠さない。だから時代を超えて共感できる。また、セリフにはところどころ自虐的なものもあり、それをダイレクトに、ストレートに観客に投げかける。「日大6万、バカばっかですが数が多い・・・・」など、また一平も学歴がないことをはっきり言う。そういった差別を語ること、現在ではあまり考えられないが、つかこうへいの作品にタブーはない。70年に安保改定が行われるのに対してそれに反対する学生運動「全共闘」を描いているので、”これは言わない方が”と忖度するところがあっても不思議ではないし、むしろそれが一般的な考え方だ。しかし、「飛龍伝」はそういったタブーなども平気でセリフにする。そこが清々しいところであり、つかファンはそこに愛やカタルシスも感じることができる。
基本的に舞台には何もない、つか作品の特徴であるが、文字通り、自分の体だけが頼り、ヒロインを演じる菅井友香、そして石田明や味方良介、そして全ての出演者の熱演、ゲネプロであるが、全身汗!、そして熱く演じる。「飛龍伝」はきっとこれからも上演され続けるのだろうという気にさせてくれるパワーがみなぎっていた。
ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは菅井友香、石田明、味方良介。通常は背景のパネルはポスタービジュアルだったりするのだが、大きなつかこうへいのモノクロ写真。スタッフらのつかに対する思いを感じる。
「決まった時は本当に信じられなくって、歴代の女優さんもそうですし、偉大なつかさんの作品ですし、『飛龍伝2020』という舞台、しかも亡くなられて10年という時に挑戦させていただける、誇りを持って、つかさんが伝えたかったことをしっかりと舞台を通してお伝えできるようにしたいです(「優等生!」「全部言ってもらいました」と周りの2人の声)」(菅井友香)
「(菅井友香について)すごい!成長がすごいです!最初は『どうなることか』と思っていた。声がね、最初は『モスキートーン』っていうかね。聞こえへんがな。それが、今は『飛行機通ったのか』、ぐらい(笑)、『ウワーーーー』っていうてました。それぐらい声が出るようになった。どんどん・・・・公演が始まってからもよくなってくると思います!」(石田明)
「多くを語るわけではないのですが、自分がやることで周りをひきつける、周りに示す、『神林美智子がきちんといるな』というのを見せてくれる女優さんになったなと。アイドルではなく女優として、今立っている姿を間近で見れて嬉しいですね。最初は『どうなることか』と思ったのですが、どんどん上がっていく、好きになっていく、みんな。もっと好きになっていくと思います」(味方良介)
そして、石田明が「『このブタ!』っていうセリフがありますが、瞬間に笑って『言えないです』心が綺麗すぎて(笑)。これが今は・・・・ボロカスに言ってます」
稽古について菅井友香は「最初は『ワーーー』って言われることがなくって、みなさんの声量に驚きました。ずっとみなさんのセリフが脳内に・・・・結構あったのですが、それが、今は心地いいし、素晴らしい俳優さんを間近で見られた、贅沢すぎる稽古場で刺激を受けました。みなさんにお芝居で恩返ししたいなと思って精一杯やっています。稽古場で・・・・・(笑)(「目をそらしてたよね」と2人)」、石田が「座る位置が挟まれてたよね、俺たち、普通に着替えるんで(笑)・・・・ごめんね」といい菅井友香は「今は慣れて・・・・・(笑)、絶大なる信頼のあるみなさんで」とコメント。またあるシーンがあって「僕に関していうと、ほぼ記憶がないんです、しゃべりすぎて体力ないんで、使いすぎて、後半はほぼ死にながら喋っています」と石田明が体力勝負な話を。「だから愛をもらわないと立てないくらいです」と石田明が続ける。菅井友香は「石田さんは、すごいです!」といい、石田明は「今日ぐらいは気体になってます、見えない!」と周囲を笑わせた。「(滑舌について)始まって見ないとわからないです(笑)、直前までいっぱい練習しようと」と菅井友香。またグループのキャプテンと芝居の座長との違いを問われて「初めての経験で未熟すぎる私をサポートしてくれて。本当に感謝の気持ちでいっぱいです、気配りとかもっとしたい、もっと力をつけないと。今回の座長の経験を生かしてグループに持ち帰ってもっともっと」と菅井友香。
最後に
「できる限りのことをやるだけですので、つかさんにはお会いできなかったですけど、お芝居ができたら、そしてお笑いらしく、笑いを取るところは存分にとって!面白いものにしたいと思います」(石田明)
「つかさんの作品を何作かやらせていただきましたが、会えなかった悔しさがあります、それをバネにしてできることとできる以上のことをやって『飛龍伝』という作品を後世に伝えていけるように頑張ります」(味方良介)
「いろんな、たくさんの挑戦がある舞台ですが、この『飛龍伝』を通してつかさんが伝えたかったことを世代を超えてお届けする使命があると思います。楽しみにしててください」(菅井友香)
会見は和やかに終了した。
<作品について>
1973 年に発表された『飛龍伝』は 1974 年青山・VAN99 ホールで(平田 満、故・三浦洋一、等)の出演者 3 人のみで上演され、80 年には紀伊國屋ホールで、つかこうへい3部作の中の1本として上演され、つかこうへいの隠 れた名作として愛された。
そして 1990 年、当時、銀座セゾン劇場のプロデューサーであった岡村俊一 との出会いによって、大劇場用にショーアップされた群衆劇へと変貌し上演 され、その年、読売文学賞を受賞し、つかこうへいの代表作となった。
それ以降、『熱海殺人事件』『幕末純情伝』と並ぶ、つか氏の代表的な作品として愛され、これまで幾度となく上演され続けている。 これまで『飛龍伝』の神林美智子といえば、名立たる女優たちが憧れ続けて きた大役である。初代-富田靖子、2代目-牧瀬里穂、3代目-石田ひかり、4 代目-内田有紀、5代目-広末涼子、6代目-黒木メイサ、7代目-桐谷美玲。 そして今回、8代目神林美智子を演じるのは、2016 年「サイレントマジョ リティー」で CD デビュー、その後も 2017 年「風に吹かれても」2018 年 「アンビバレント」2019 年「黒い羊」で日本レコード大賞優秀作品賞を連続 で受賞するなど、今、最も活躍するアイドルグループ 欅坂46キャプテン菅井友香!
<物語>
春、駿河台方向から聞こえてくるシュプレヒコールの中、一人の少女が進学 のため愛と希望を胸にいだき上京した。 四国高松から上京した神林美智子(菅井友香)である。 しかし、時代は学生運動の真っ只中、やがて美智子は、全共闘作戦参謀の 桂木純一郎(味方良介)に出会い、その理想と革命に燃える姿に憧れ、恋に落ちる…。
やがて、美智子は全共闘 40 万人を束ねる委員長に、まつり上げられてしま う。
11・26 最終決戦を前に、作戦参謀部長の桂木の出した決断は、美智子を、 女として機動隊員の部屋に潜入させる事であった…。 そして、その機動隊員とは、四機の狂犬病の山崎こと、山崎一平(石田明)だっ た…。
革命の夢と現実と、美智子を愛する者達に翻弄されながら、 11・26 最終決戦の日は近づいてくる…。
【公演概要】
「飛龍伝 2020」
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
出演:菅井友香(欅坂 46)
石田明/味方良介/細貝圭/小柳心/久保田創/小澤亮太/ 須藤公一/大石敦士/吉田智則 ほか
東京・新国立劇場 中劇場
2020 年 1 月 30 日(木)~2 月 12 日(水) 1 月 29 日(水)プレビュー公演
大阪・COOLJAPANPARKOSAKA TTホール
2020 年 2 月 21 日(金)~23 日(日)
お問い合わせ Mitt 03-6265-3201(平日 12:00~17:00)
大阪公演:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
公式 HP→ http://www.rup.co.jp/
協力:つかこうへい事務所
企画制作:アール・ユー・ピー
主催:ニッポン放送/Y&N Brothers/サンライズプロモーション大阪(大阪公演)
取材・文:Hiromi Koh