ダブルヘッダー特別公演『おおきく振りかぶって』『おおきく振りかぶって 秋の大 会編』、一生懸命に投げる、打つ!絶対に譲れない!

2020年2月、初演作舞台『おおきく振りかぶって』の再演とシリーズ第三弾となる完全新作舞台『おおきく振りかぶって 秋の大会編』同時上演するダブルヘッダー特別公演、という”特大”な公演。再演舞台の方は初演からの続投キャストの他に新キャストも。単行本では1~8巻までのストーリーとなっている。
舞台は初演と変わらず、野球場。八百屋舞台になっているので、立体的に見える。この作品の主人公である三橋廉(西銘駿)が西銘駿高校に入り、野球部に入部する。弱気で卑屈、すぐ泣く主人公。実は、これまでの野球漫画にはなかったキャラクター設定でスポ根要素ゼロ、こういった内容で多くのファンを獲得し、2006年、第10回手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞している。また、キャラクター同士の関係性も緻密に描かれており、試合の心理描写が細かい。また野球のルールもきちんと描かれているので、野球にいまひとつ詳しくなくても、十分に理解できる。
主人公のモノローグ、自分のせいだと責める。祖父の経営する群馬県の三星学園野球部でエース投手だったが、チームメイトからは「『ヒイキ』でエースをやらせてもらっている」と疎まれ続け、そんなことから卑屈な性格になった。そして西浦高校に入学、野球部は発足したばかり、部員が足りないことから、あれよあれよという間に入部、エースになってしまった。しかも寄せ集め的な部員、監督は若い女性、名前は百枝まりあ(渡邊安理)だが、熱意は人一倍、しかも腕っ節も強い。そしてあっという間に!練習試合をやることになった。しかも三星高校!相手の選手はかつてのチームメイトという因縁の対決。キャッチャーの阿部隆也(大橋典之)は三橋の類稀なる才能に気づき、「本当のエースにしてやる」と三橋にいうのだった。

テンポよくストーリーは進行、軽快なオープニング曲に乗って全員のダンス、ヒップホップ的な動きを基調としたノリの良い動き、明るく前向きになれる楽曲だ。
舞台上で野球の試合をどう見せるのか、ということが初演時の話題であったが、今回も初演時のアイディアに従った柔軟な動き、塁に出る、ピッチャーが投げる、バッターが打つ、塁に向かって全力で走り、スチールする、改めて、野球を舞台で表現することの面白さがわかる。初演では「舞台は二度目」と言ってた西銘駿だったが、今回は堂々たる座長ぶり、役者としての成長を見せるが、物語の主人公の三橋廉とシンクロするところも。阿部隆也演じる大橋典之は昨年は音楽劇「ハムレット」に主演、堂々たる演技で観客を魅了したが、そういった経験が糧になっている様子で、三橋をしっかりとサポートする姿勢は納得のいく出来栄えであった。

女性マネージャーの百枝まりあ演じる渡邊安理の”仁王立ち”や”生絞りジュース”もなかなかに男前。成井豊のアナログな演出も健在、試合描写は映像なし、スコアボードもアナログそのもの。映像演出も可能な作品であるが、そこをあえてアナログ手法に徹するところがこだわりも感じ、また作品の世界観にマッチする。試合に負けたチームの心情、三星高校の選手たち、三橋に対してネガティブな感情と考えを持っていたが、試合を通じて、そこのわだかまりが溶けていく様は、観ているこちらもほっとするやら、原作を知っていても、である。そして、次の試合シーンは前年度優勝の桐青と対戦。幾度となくピンチが訪れる。相手チームにとっても負けられない戦い、両者ともに一丸となって『勝ち』を取りにいくところは、単純に胸が熱くなる。また、合間に武蔵野第一高校の榛名元希(神永圭佑)と阿部隆也の関係性が示される。榛名元希は2年生ながら「大会屈指の左腕」と新聞に取り上げられるような選手でチームの中心的な存在、プロ入りが目標でシニア時代は阿部と対立、どんな試合でも80球までしか投げず、全力投球すればいつ怪我してもおかしくないことを理由に本気を出す価値が無いと思った試合では1球も全力投球しない。そんな榛名と阿部の考え方、どちらがどう、ということではなく、性格や考え方の相違を示す場面。

試合を通じて三橋はもちろん、阿部や他のチームメイトも様々なことに気づき、成長する。三橋は阿部を信じることで、少しずつ自信を得ていく。阿部は「お前は一生懸命、投げろ」という。無心になってサイン通りに投げる三橋、3アウトを取った時の感動、それでもちょっと怖いと思う、それを素直に「怖い!だけど誰にも譲れない!」という。負けん気もむくむくと沸き起こり、エースへの道をひたむきに走っていこうと思う瞬間だ。エモーショナルな言葉、自分だからできること、自分にしかできないことを少しずつ見出していき、それをサポートする阿部。単なるピッチャーとキャッチャーという関係を超えていく。そんなところがこの「大きく振りかぶって」の魅力であろうか。何度観ても新たな感動と元気がもらえる、そんな再演であった。
なお、『おおきく振りかぶって 秋の大会編』との”ダブルヘッダー”公演、覚えることが2倍、キャスト陣の踏ん張りは大いに評価。

ゲネプロ前に会見が執り行われた。登壇したのは、西銘駿(三橋廉役) 大橋典之(阿部隆也役) 神永圭佑(榛名元希役) 佐伯亮(秋丸恭平役) 成井豊(脚本・演出) 特別ゲスト Base Ball Bear(小出祐介、堀之内大介、関根史織)
MCから質問があり、それぞれ回答。
Q:見所。
「三橋の成長がすごく感情移入できます。仲間との出会いと存在を日々感じてたくましくなっていくのは見応えがあります。西銘駿くんは熱いものを持っているので!オープニングダンスとエンディングダンス、再演の方は『ドラマチック』で新作は『夏空』チーム感あふれるフォーメーションです。かっこよさが出ているのでぜひ!」(佐伯亮)
Q:野球経験があるそうですが。
「小学校3年生から中学の途中までやってまして右投げ、右打ちのキャッチャーだったんです。演じる役は左投げの左打ちのピッチャーで正反対の役。左投げはなかったので、そこがすごく苦労しました」(神永圭佑)
Q:三橋と阿部の関係について。
「互いの信頼度が変わっていきます。最初は三橋に自分自身をを認めさせて引っ張っていく感じだったのですが、三橋と組むことの大切さに気がつき、手を取り合って・・・・・・。最初は足し算だったのが、掛け算に変わって相乗効果が増えていきます」(大橋典之)
Q:カンパニーの雰囲気について
「最初はぎこちなかったですが、稽古していくうちに、高校が舞台なので、ふざけ方とかが、みんな高校生っぽくなっていって、笑いの絶えない稽古場で楽しかったですね」(西銘駿)
Q:2作分の稽古で苦労したところ
「役者がいろんなことを忘れるところ(一同、笑い)。1本目を稽古して2本目の稽古をして1本目に戻ると忘れている!まあ、合計4試合あるので。7週間、稽古期間がありましたが、最後の2週ぐらいで固まってきましたね。最初は思い出すのが大変でした。」(成井豊)
それから、Base Ball Bearのメンバーが登場。
「うちのバンドの2年目の楽曲なんですが、『大きく振りかぶって』に使っていただくために結構、みっちりと・・・・・」(小出祐介)
「3ピースのバンドになっていますが、まさか舞台に使われるとは!思っていなくて!」(関根史織)
「高校時代、1年の時に!たまたま決勝までいきました!『大きく振りかぶって』自体が高校時代を、当時の思い出、特に高校1年の時の・・・・ドンピシャで自分の胸にぐさっと。青春を思い出す!」(堀之内大介)
それから質疑応答。ちょっとやらかしたことは?について
「場当たりの時にではけを間違えました(笑)、ゲネプロから緊張感を持ってないと思いました。7週間で2作品は大変です!試合シーンは景色が変わらないので・・・・(「メモ、全部書いた!」と佐伯亮)」(西銘駿)
「3アウトからの攻撃に移る時に会話とかが他のシーンとかぶっちゃう、他の試合と(笑)」(佐伯亮)
「本番では絶対に(間違えないように)!」と西銘駿が締めて会見は終了した。

舞台「おおきく振りかぶって」、早くもDVD化決定!発売は6月6日!

【概要】
公演名:ダブルヘッダー特別公演『おおきく振りかぶって』/『おおきく振りかぶって 秋の大会編』
原作:ひぐちアサ「おおきく振りかぶって」 (講談社「アフタヌーン」連載)
脚本・演出:成井豊
出演:西銘駿 大橋典之 渡邊安理 白又敦 大野紘幸 安川純平 竹鼻優太 中村嘉惟人
湯本健一 齋藤健心 亀井賢治 澤田美紀 筒井俊作 / 神永圭佑 佐伯亮 島野知也 /
越智友己 永岡卓也 松本祐一 / 西川俊介 鶏冠井孝介 吉田英成
日程:2020年2月14 日(金)~2月24日(月)
会場:池袋・サンシャイン劇場
料金:特別観戦シート 9,200円(税込) ※前方席・非売品特典付
一般観戦シート 7,700円(税込)
公式ホームページ http://oofuri-stage.com/
公式ツイッターアカウント @oofuri_stage
©ひぐちアサ・講談社/舞台「おおきく振りかぶって2020」製作委員会