《インタビュー》石黒賢「時の行路」神山征二郎監督作品に出演して

「ハチ公物語」「ふるさと」などで知られる神山征二郎監督第30回監督作品「時の行路」、2008年のリーマンショックの経済不況のあおりを受けて派遣切りで解雇され、そこから労働組合に入り、立ち上がる物語。
主人公・五味洋介を演じる石黒賢さんに作品について、また主人公の生き様や家族の絆についてお話しをお伺いした。

「一丸となって困難に立ち向かう姿は誰しもが、どこか身近な問題として置き換えて考えていける話なのではないかと感じました」

――出演が決まって脚本をお読みになった感想などをお聞かせください。

石黒:家族の為に懸命に仕事をする中、不況のあおりを受け一方的に切り捨てられてしまう主人公が、困難に立ち向かう姿、彼を支える家族との愛、仲間との絆の物語に共感しました。そして神山監督とまた御一緒できるという事が出演を決める大きな決め手でした。

――物語は事実に基づくフィクションですが、演じるにあたって、考えたことや感じたことは?
石黒:私自身、子を持つ親として、子供の願いを叶えてあげたいという親心や、家族の幸せを思い仕事をする主人公に重なる思いがありました。「派遣切り」で一方的に憂き目にあい、当初は組合活動に消極的だった主人公の周りに、一人、また一人と同じ思いを持つ仲間が増え、励まされ、一丸となって困難に立ち向かう姿は、誰しもが、どこか身近な問題に置き換えて考えていただけるのではないかと感じました。

――作品を拝見した印象ですが、最初はごく普通の家族思いの一生懸命に働いている良きお父さんだったのが、リーマンショックでいきなり雇用止めにされてしまう、そこから物語が進むにつれ、少しずつ内面が変わっていくという印象を受けました。演技や設定について難しかったところや逆におもしろかったことは?
石黒:一つは方言です。主人公が青森県八戸出身なので、前もって方言指導の方からCDをいただいて繰り返し聞いて覚えました。また、実際に八戸でのロケがあった際には、予定より少し早く現地に入り八戸の色々なところに出向きました。地元の方々の会話を聴くことで、よりリアルなイメージが掴めたと感じます。物語の佳境で裁判官にとうとうと窮状を訴えかけるシーンがあります。この場面では、芝居の感情と方言とのバランス、折衝点をどの辺に見出していくのかが、難しくも、非常に演じ甲斐のあるシーンとなりました。

「川上麻衣子さんとはデビュー作『青が散る』以来、36年ぶりの共演となりました…あっという間に時が戻り、どこか学生時代の同級生に会ったかのような心地よさ、安心感を抱きました」

――共演の方々についてお願いいたします。
石黒:中山忍さんとは、以前連続ドラマでご一緒した事があったので、夫婦関係を構築する作業は難しい事ではありませんでした。川上麻衣子さんとは、デビュー作「青が散る」(1983年・TBS)以来、36年ぶりの共演となりました。不思議なもので30数年ぶりに会いましたが、あっという間に時が戻り、どこか学生時代の同級生に会ったかのような心地良さ、安心感を抱きました。妻・夏美の父親役の綿引勝彦さんとは、ご一緒するシーンは数少なかったのですが、その中でとても印象的な出来事がありました。物語の最後に、妻が亡くなった後に妻の実家を訪れ、お父さんと再会する場面があります。私の中でどういう風に演じようかと非常に悩んだシーンでした。何度かテストして撮影本番を待つ合間、綿引さんが声をかけてくださり、アドバイスをくださいました。綿引さんには、テストで相対する私の演技をみて、私の迷いが伝わってしまったのでしょう。アドバイスのおかげでイメージが定まり、本番に臨むことができました。先輩に感謝しています。

――お子さん役のお二人がフレッシュで、4人揃うと本当の家族のようになりますね。
石黒:子供役の彼らはまだ経験は少ないかも知れませんが、だからこその良さがあると思っています。経験を重ねると、どうしても上手く演じようと考えてしまいますが、デビュー当時の様に、真っ新で欲のない演技をしたいと思うことがあります。技術が身に付いた分、全てを払拭して演じることは容易ではないと思いますが、あの頃のように演じたいと常々考えています。妹役の村田さくらさんは、お母さんが亡くなった後は泣き芝居が多く、とても大変だったと思います。しかし一生懸命に何度もトライして、質を落とさずに演じてくれました。そして、松尾潤くん演じる息子が私のアパートを訪ねて来るシーン、息子を見送る駅での別れのシーンは、私の中で非常に印象的なものになりました。私はどの作品でも、家族を演じる時は休憩時間を家族で過ごすようにしています。子役の子供たちと一緒にロケ弁を食べながら「今、学校でどんなもんが流行っているの?」、「何して遊んでいるの?」など、家族のようにコミュニケーションをとるようにしています。

――最後に観に来てくださる、あるいは最後までインタビュー記事を読んで「観に行ってみようかな?」と思ってくださった方へ。
石黒:映画の良さはやはり、劇場の閉ざされた空間で、物語に没頭できる貴重な体験だと思うのです。作品の中に、どこか自分自身に照らし合わせながら、どの世代の方でも共感できるキャラクターがいるのではないかと思います。また何よりも観ていただいた後に、観てくださった方の心の目線が5度でも10度でも上を向くように、という思いを込めて演じました。家族への思い、仲間との絆、そして不条理に立ち向かう勇気、ぜひその思いを感じ取っていただければ、ありがたいと思います。

――ありがとうございます、公開を楽しみにしています。

 

<物語>
青森・八戸でリストラにあった五味洋介(石黒賢)は妻の夏美(中山忍)と子供達(松尾潤、村田さくら)を実家に残し、静岡の自動車メーカーの工場の旋盤工として仕送りを続けていた。洋介は派遣社員であったが、ベテラン旋盤工として職場でも信頼され、充実した日々を送る合間に家族を三島に呼び、ともに暮らせる将来を夢見て頑張っていた。しかし、ある日、突然リーマンショックに端を発した非正規労働者の“大量首切り”により職場を追い出されてしまう。洋介は理不尽な仕打ちに抗し、仲間と一緒に労働組合に入って立ち上がる。しかし、洋介や妻たち、支援の人々の願いは届かず、会社と裁判所は冷酷だった。そんな折、闘病中の妻が倒れたという知らせを受け、洋介は郷里へ向かう・・・・・・。

 

【映画概要】

作品タイトル:「時の行路」
監督:神山征二郎

出演:石黒賢、中山忍、松尾潤、村田さくら、渡辺大、安藤一夫、綿引勝彦、川上麻衣子、日色ともゑ

公開日程・劇場:
東京 上映中~4月3日(金) 池袋 シネマ・ロサ
大阪 4月11日(土)~24日(金) 第七芸藝術劇場
広島 4月10日(金)~23日(木) 広島サロンシネマ2
全国にて順次公開。

公式HP:http://www.tokinokouro.kyodo-eiga.co.jp

 

©「時の行路」製作委員会

取材・文:Hiromi Koh