――もしも、今日、自分の手元にまさかの召集令状が来たら?――
原作は2007年に製作されたアメリカ映画「DAY ZERO」、物語の舞台は徴兵制が敷かれた9・11後のニューヨーク。堅い友情で結ばれた三人の男、仕事絶好調の弁護士、正義感の強いタクシードライバー、スランプ気味の小説家、この三人にまさかの召集令状が届く、出頭は30日後。生と死、勇気、愛、そのあり方について改めて考えさせられるドラマだ。映画自体は日本未公開、この物語をベースにした、オリジナルミュージカル「DAY ZERO」の公演が始まろうとしている。この作品の上演台本を手がけた高橋知伽江さんに作品誕生のきっかけや見どころ、テーマ等について語ってもらった。
「見てよかったな」と思っていただける形にするには、ミュージカルの方がより細やかに気持ちを伝えられるような気がするんです。
――これをミュージカル化しようと思ったきっかけをお願いいたします。映画自体は、日本で未公開、しかもレンタルも少ない状況ですが。
高橋:ほとんどの人が知らない作品だと思います。これは作曲家の深沢桂子さんが、たまたまレンタル店に行き、たまたま手に取ったところから始まったんです。
――たまたま、レンタル・・・・・・作品との偶然の出会いですね。
高橋:ちょうど、ミュージカル「手紙」の企画と同じタイミングで、深沢さんから「これ、やりたいんだけど」ってDVDを渡されたんです。最初に観た時点では、これは相当にセンセーショナルで面白い作品だなと思ったんです。だけど、今は妙に実感がありますね。スウェーデンで徴兵制が復活したし、フランスも復活を宣言している。こういうことってトランプ政権のもとではあるかもしれないという気がしますよね。なので、最初にミュージカル化しようと思った時よりは、より現実的な話になったなと思います。
――作品が発表された時点では“変わっている”とか、“ちょっと現実的じゃないよね”というものがありますが、5年先、10年先になるとリアリティが出てくるものってありますね。
高橋:確かにありますね。映画自体は初公開が2007年。映画の中ではいつの話とは描かれてないんです。たぶん、今ぐらいを想定した感じでしょうか?今回は上演するにあたって、ちょっと未来、2020年に設定したんです。
――2020年、東京オリンピックが終わったばかりとありますから、秋ぐらいでしょうか。
高橋:その通りです。東京オリンピックの話題を出すと、観ているお客様は「あ、2020年」とわかるし、ちょうどトランプ政権最後の年。いろんなことが起こりうる、ちょっと波乱を感じさせる年になるかな?と思って設定しました。
――2020年ってある意味、節目の年になるかもしれませんね。年号も平成じゃなくなっていますね。
高橋:あ、本当ですね。9・11で幕が開いた21世紀、ちょうど20年経っていますね。
――たまたま。
高橋:「手紙」は私が「やりたい、やりたい」って騒いだ作品なんです(笑)。これは深沢さんがすごくやりたいっておっしゃって。私たち2人でやるときは、それってミュージカルになりますか?っていう感じの原作を選んでまして(笑)・・・・・・私たちはミュージカルという手段を活用することによってメッセージをお客様に届けることを目指しているので、そういう意味では今回も「これってミュージカルになりますか?」っていう題材ですが、ちゃんとミュージカルになっています。
――実は台本読んで映画を観たのですが、逆に映画を先に見たら、「これって朗読劇の方が面白くない?」とか思っちゃうかもしれないですね。
高橋:あ、そうかもしれないですね。
――たまたま、台本を先に読んだんですが、読んだ印象では、歌が入ることによって、場面っていうんでしょうか、キャラクターの気持ちが凝縮されて、ポンと響いてくる。
高橋:そうですよね。そうしないと、心情をモノローグで語らなくてはいけなくなってしまうので、それはちょっと厳しいですね。
――モノローグだと、辛さが前面にくる感じになるかもしれませんね。
高橋:聞いている方も辛くなっちゃいますね。
――そういう意味ではミュージカル仕立てにしたのは、ありだと思いました。
高橋:重苦しいものにはしたくないっていう想いもあるし。シリアスな題材ではありますが、お客様にお金と時間を使って観に来ていただくので、やはり、観てよかったなと思っていただきたい。そういう意味でも、ちょっと辛い話ではあるものの、心のふれあいがあったりして、最後に爽やかなものをお届けしたいんです。そのためには、ミュージカルの方がより細やかに気持ちを伝えられるような気がします。
――歌のところはダンスとか入ってきますか?
高橋:本格的なダンスではないですが、ちょっと入ってきます。
「人生にはタイムリミットがある」ということ、それは全ての人生に当てはまる。
――登場人物が、三人の男、三者三様、弁護士、タクシードライバー、小説家。それぞれの生き様があり、それぞれの自分の都合というものがありますね。仕事や家庭などの自分の都合があって、そこに『○○日後には来い』という召集令状が来る、そこで改めて自分のことを振り返っているんだなと。映画では30日後ですね。
高橋:1幕物にするために3週間にしました。台本化するときに全く違う環境にある三人がどうして友情を保ってきたのかっていうこと、そこを考えて埋めていきました。お客様は登場人物の誰かが、ちょっと自分に似ている?と思うんじゃないかと・・・・・・もしかしたら一人じゃなくって、この人の一部とこの人の一部かもしれませんが。たとえ、日本に徴兵制がなくても、女性だから兵隊にとられなくても、何か共感できるものが見出せると思います。これって赤紙が来たっていう話ですが、それだけではないんです。私が思ったのは、「人生にはタイムリミットがある」ということ、それは全ての人生に当てはまる。若いときや元気なときは意識していないのですが、それを意識しなくてはいけない時ってきますよね。『自分の人生のタイムリミット』と向かい合った時に人は何をするのか、何を伝えようとするのか、何を守ろうとするのか、何を打ち明けようとするのか、そういう話だと思うんです。なので、すごく特殊な話として観るのではなく、誰にでも当てはまる話として観て欲しい。その時の三者三様の反応と、それを巡る女性たちの反応の中により共感できるものを見出せるんじゃないかな?と。彼らは普通の人たちで、その反応は『まあ、あるな』と理解できるものです。アメリカらしいものも出てきますが、ドラッグとか特殊なものに逃げようとする心理もわかりますよね。向き合うことが怖い・・・・・・設定が特殊に思えるかもしれませんが、実は誰にでもある話だと思っています。
――弁護士の彼は昇進も決まっている、仕事も順調、ここであんな戦場に行きたくない、今までの自分が台無しになると動揺する。この気持ちはすごくわかりますね。
高橋:わかりますよね。
――小説家の彼は「後、○日しかない、自分は何かやりたいのか」って書き出していくんですよね、それもわかります。
高橋:やり残したことを考えるとわかりますね。
――あれもやりたい、これもやりたい。一個ずつ実行していくのもわかりますし、タクシードライバーの彼は行くんだって言ってますね。皆さん、自分の考えと自分の都合で動いている。
高橋:彼らを理解できないことはない。でも、自分だったら、どうするかな?って思いました。
――召集令状が来るっていうきっかけは重いですが、最後の駅で待ち合わせするまでの心理状況、っていうのは割とみんな持っているものじゃないかな、と。
高橋:そうですよね。彼らだってすぐに決意できるわけではない。心が揺れて揺れて、というのがありますから。三週間に凝縮された人生の話だと思うんです。
――召集令状が来なければ、多分、ダラダラと生きていってしまう三人なんですよね。
高橋:そうなんですよね。
――多分、深く考えずに。
高橋:なんとなく、他人事的な感じで・・・・・。飢えた子どもたちのニュースを見て「はあ〜」って気の毒に思っても、テレビを消したら忘れてしまうことはありますよね。ところが、これが(もし)自分のことになったらどうするか、問いかけてくるドラマ、現実の話なんです。
音楽はギター1本、この試みは小さい劇場だからこそ、やれる面白さに挑戦したい
――演出家の吉原光夫さん、キャストの方も、多方面から入ってきていますが、皆さん、どんな感じでしょうか?
高橋:すごく優秀なキャストさん!「もう歌えちゃうの?」みたいな(笑)。こういう創作ミュージカルを作る時は稽古をすると同時に作品自体を一緒に作っていく・・・・・・稽古しながら曲を変えたり、台本を変えたり、「やっぱり、ここはコーラスじゃなくてソロにしよう」等、いろんな変更がありますが、皆さん協力的なので、いい雰囲気です。音楽は生演奏で、ギター1本です。一つだけ楽器を使う場合、普通はピアノなんです。ギター1本で歌うことは全員が未経験でこの、ギターでやるっていうのは深沢さんのアイディアです。小さい劇場でやるので、ピアノが場所をとってしまうというスペースの問題もありまして・・・・・・ギターでやるという試みは、小さい劇場だからこそできる面白さです。そこに挑戦したい、ということで中村康彦さんにお願いしています。
――アコースティックギターですよね。
高橋:はい。
――ギターの音色は新鮮ですね。あたたかみもあります。
高橋:新鮮です。意外にロックテイストな曲も大丈夫ですし、もちろん叙情的なところも大丈夫。中村さんには稽古中ずっと付き合っていただいてまして・・・・・・歌うところだけじゃなくて、イントロとか、BGMも入れてとか・・・・・・それをこの稽古場でやってもらっているので実に贅沢!
――役者さんの動きに合わせて、その日ごとにタッチを変えていけそうですね。
高橋:そうかもしれませんね。
――随分、昔にフラメンコ、習いましたが、ダンサーと奏者の呼吸っていうんでしょうか、息を合わせるということが大事で、それで一体感を出すんですね。ちょっと似ている気がします。
高橋:ギタリストも伴奏者として舞台上にいるのではなく、ニューヨークの街角にいる人として、ドラマの一部になっています。
――フラメンコもダンサーとギタリストが一体にならないと成立しないので、ちょっと似ているかもしれないですね。
高橋:稽古にずっといらしていただき、セリフも聞いて芝居の流れの中でやってくださっているので、一体感は出せると思いますね。
――すごい一体感はありますね。
高橋:そうかもしれないですね。街角にピアニストはいないですからね。ちょっとチャレンジですが、今のところはうまくいってますね。
――映画がなかなかレンタルできませんが、これがきっかけで映画も脚光をあびるといいですね。
高橋:版権を取るために映画のプロデューサーに連絡をしてもらった時に、そのプロデューサーが「映画はちょっと時代が早すぎたな」とおっしゃったそうです。今、これが着目されるっていうのは、ちょうどいいタイミングに来たのかなって。
――時代が追いついたんですね。
高橋:はい。
――映画が作られた2007年ぐらいだと、9・11がまだ、生々しい。
高橋:アメリカですもんね。
――逆に9・11が若干、遠のいた今の、混沌とした、サイバー攻撃も発生したりする時代のほうが、こう言う話はリアルに感じるかも?
高橋:そうかもしれませんね。
――最後に締めを!
高橋:タイトルからして政治的な内容や反戦の話ではないかって身構えてしまうかもしれませんけど、これは3週間に凝縮された「人生」の話なので、きっと登場人物の人生に共感できると思います。
――キャストの方々も楽しみですね。
高橋:そうですね。ちょっと違うタイプの人たちが集まっていますが、ピッタリと役にはまっています。見終わった後に誰かと語らずにはいられないと思います。「自分だったらどうかな?」とか、「あの人の言ったこと、よくわかるよね」とか、逆に「あれはどうかと思った」等あるかもしれないけど、すごく濃密な1時間40分を味わっていただけると思います。笑えるところと、泣けるところがあるので、エンターテイメントとして楽しんでいただけると思います。お楽しみに!
オリジナルミュージカル「DAY ZERO」 Based on the screenplay DAY ZERO by Robert Malkani
【概要】
オリジナルミュージカル「DAY ZERO」
Based on the screenplay DAY ZERO by Robert Malkani
上演台本:高橋知伽江
作曲・音楽監督:深沢桂子
演出:吉原光夫
出演: 弁護士 ジョージ・リフキン:福田悠太(ふぉ~ゆ~) タクシー運転手 ジェームス・ディクソン:上口耕平 小説家 アーロン・フェラー:内藤大希 パトリシア他:梅田彩佳 モリー・リフキン他の妻:谷口あかり カウンセラー他:西川大貴
ギター:中村康彦
プレビュー公演:
日程:5 月 25 日(金) 18:30
5 月 26 日(土) 15:00
5 月 27 日(日) 13:00
劇場:水戸芸術館ACM劇場
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
お問い合わせ:水戸芸術館チケット予約センター 029-225-3555
東京公演:
期間:2018 年 5 月 31 日(木)~6 月 24 日(日)
劇場:DDD 青山クロスシアター
主催:シーエイティプロデュース
お問い合わせ:チケットスペース 03-3234-9999
愛知公演:
日程:6 月 26 日(火) 18:30
劇場:刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
主催:キョードー東海
お問い合わせ:キョードー東海 052-972-7466
大阪公演:
日程:6 月 28 日(木) 19:00
29 日(金) 13:00
劇場:サンケイホールブリーゼ
主催:サンケイホールブリーゼ
お問い合わせ:ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888(11:00~18:00)
オフィシャルサイト StageGate :https://www.stagegate.jp
文:Hiromi Koh