つかこうへいの命日にあたる7月10日から3日間、つかこうへい没後10年追悼イベント 朗読 蒲田行進曲完結編『銀ちゃんが逝く』が上演される。演出は岡村俊一、蒲田行進曲が発表された 1980年から40年の時を超え、しかも紀伊國屋ホールで!
出だしは葬式のシーン、「銀ちゃんが死んだ」とヤス(植田圭輔)、そして「ハリウッドに行く・・・・・・メキシコに金を掘りに行ったことにしてくれと言われた」と続けていうヤス。そして・・・・・時間軸は戻る、「新撰組」の撮影が進む東映京都撮影所。 初の主演映画に意気込むスター俳優銀ちゃん。恋人である小夏(井上小百合)をヤスに押し付ける。小夏は妊娠3ヶ月、小夏をズベ公といい「スターに努力なし!」と言い切る銀ちゃん、こと倉岡銀四郎(味方良介)。
映画のヒットもあり、物語はあまりにも有名だ。そしてその続編として発表されたのが、この1987年『蒲田行進曲』の完結編として発表された『銀ちゃんが、ゆく』だ。ヤスは銀ちゃんが大好き、いやそれ以上の想いを抱いている。状況としては小夏を押し付けられたのだが「押し付けられたわけじゃない」と言う。心優しいヤス、小夏はヤスと一緒になって幸せを感じるが、心は銀ちゃんに。そんな小夏をヤスはもちろん察していた。
銀ちゃん、小夏、ヤスの関係を軸に、歌舞伎界の大御所の一人息子中村屋喜三郎(細貝 圭)、銀四郎の出生の秘密のカギを握る義理の弟、ケン(綱啓永)、そして監督(久保田創)の人間模様もしっかりと描かれている。ヤスは小夏の出産の費用を稼ぐために危険な階段落ちもいとわない。小夏は無事に長女を出産、銀ちゃんはその子にルリ子と名付ける。映画スターである浅丘ルリ子から取った名前だ。皆に可愛がられるルリ子、ところがルリ子は不治の病に。そこで銀ちゃんがとった行動は・・・・・・。
エモーショナルな名台詞が数多く散りばめられ、そのたびに観客は胸が熱くなる。何度も出てくるヤスのセリフ「銀ちゃん、かっこいい!!」、ヤスの愚直なまでの銀ちゃんに対する想いがストレートに発せられる。銀ちゃんとはライバル関係にある中村屋喜三郎、挑発的な銀ちゃんの言葉、貧しい家庭からここまでこれた銀ちゃんと生まれた瞬間から”銀のスプーン”をくわえていた中村屋喜三郎、生まれは全くの真逆であり、この対比、しかし中村屋喜三郎は言う「人間は奇跡を起こせる生き物」と。監督はことあるごとに「テレビ上がりの」と銀ちゃんに言われるが、ラスト近く、なぜ自分が映画界に入ったかを語る。そして映画への熱い想いを抱いている銀ちゃん、「映画は役者の心と心がつながっている」「俺は活動屋だ!」と叫ぶ。何を言われようと、どんなことがあろうとも銀ちゃんへの愛を貫く小夏。すべての登場人物が愛おしく、そして熱い血潮が流れている。ただ、ただ、彼らの熱量に圧倒される、それは、物語で描かれている登場人物に対して、そしてそれを演じる俳優陣に対して、だ。映画に賭ける人々の熱意は、そのまま演じている俳優の熱量とシンクロする。
その一挙一動、発せられるセリフの一つ一つに観客は心が揺さぶられ、感銘をうける。”つかマジック”、観客のみならず、キャスト、スタッフ全員がこのマジックに酔いしれる。つかこうへいがこの世を去って10年、しかも7月10日は命日にあたる。つか作品演出に定評のある岡村俊一、何もない舞台で発せられる熱とパワーは、まさにつか作品、と思わせてくれる。セリフに「生きた証」という言葉が出てくる。まさにつかこうへいが確かにこの地球にいた、その魂は実はまだまだ、ここにある。ところどころ、今時の”ご時世”を散りばめる(ソーシャル・ディスタンス、とか)ところは、つかこうへいが生きていたら、きっとそうするかも?と思える部分。
時代が変わろうとも、状況が変わろうとも変わらないものがある。そう、「人は幸せになるために生まれてきた」のだ。
ゲネプロ前に会見が執り行われた。登壇したのは味方良介、井上小百合、植田圭輔、演出の岡村俊一。「コロナの影響で、ガイドラインにしたがって、こういう形になりました」とコメントしたが、本来なら抱き合うシーンは・・・・もちろん、しない。さらに「この命日に何か演劇を届けようと」といい、そして「『俺の命日に何やってんだ』という声が(笑)」と語ったが、つかこうへいと深いつながりがあった岡村俊一らしい発言。そして「短い期間・・・・・10日しか稽古できなかったけど、俳優はすごい生き物だな、と」と俳優陣の成長と進化に大絶賛。つか作品は基本、舞台セットはない。そこにあるのは人間のエネルギーだけだ。
そして俳優陣の挨拶、味方良介は「いやあ、もう劇場にいるって最高ですね。もう、泣きそうです。しかも命日に!どう届けるかが楽しみです。これを紀伊国屋ホールでやるのがとてつもなく嬉しい!200%でぶつかって!」と熱く、そしてしみじみと。そして「朗読劇だけど、進化形の朗読劇で・・・・・」とコメント。
どんな”進化形の朗読劇”かは劇場で!井上小百合は「10年前の今日、亡くなられて、この命日にこの劇場でお芝居ができる、奇跡に感謝します。私にとって演劇が生きる上で大事なものと感じました。葛藤もたくさんあったけれど、この日を迎えられてすごくうれしい」としみじみ。植田圭輔は「決まったのはずいぶん前のことですが、その間にいろいろと(状況が)変わって・・・・・できることを試行錯誤して皆様の前で披露できる!(つか作品に)出させていただくのは初めてです。出られることは人生の中で大きな意味があること、短い期間で配信もありますが、劇場に立っている意味、何かあると信じています魂、入れてますので!」と大いに意気込んだ。
当初、朗読劇として企画されたが、試行錯誤し、進めていくうちに・・・・・味方良介は「つかさんの作品を朗読劇でやる・・・・・・難しい、いや朗読でやるもんじゃない・・・・作品には文字を超越したものがある。稽古を重ねていって・・・・・新しい形の演劇だと思います」と語り、井上小百合も「どうやったらいいんだろう、どんな距離感で作っていけばいいのか、距離を取りながら」と語ったが、本来なら抱き合ったり、取っ組み合いをしそうな場面では、距離をとっていたのが印象に残る。植田圭輔は「これは挑戦でした」とコメント。そして「この時期に味方良介にあえてよかった!」と味方の方を見て語る。銀ちゃんとヤス、短い稽古期間でありながらも息のあったやり取り、努力の跡が見える。さらにコロナ対策は最大限!アルコールはそこかしこに。最前列はフェイスシールドが!
<関連記事:岡村俊一コメント>
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【蒲田行進曲とは】
つかこうへいの代表作『蒲田行進曲』は 1980年紀伊國屋ホールで発表された。 同年第 15 回紀伊國屋演劇賞を受賞。その後、小説として第 86 回直木賞を受賞、1982年映画化され、第6回日本アカデミー賞を独占した傑作中の傑作である。 そして 1987年『蒲田行進曲』の完結編として発表された『銀ちゃんが、ゆく』は 1994 年舞台化され、1997年新国立劇場小劇場の柿落とし公演として上演された。
【あらすじ】
「新撰組」の撮影が進む東映京都撮影所。 初の主演映画に意気込むスター俳優銀ちゃんが、子分の大部屋俳優ヤスに 自分の 恋人小夏を押しつけることから物語は始まる。小夏は妊娠しているのだ……。 ヤスは銀ちゃんに見せ場を作り、小夏のお産の費用を稼ぐために、 危険な「階段落ち」に挑戦する。 しかし、ヤスが命をかけて生まれた娘のルリ子は、不治の病に冒されていた。そし て小夏も、心の底からヤスを愛することはできなかった。 銀ちゃんは、自分の貧しく卑しい生まれの血のせいでルリ子が病気になってしまっ たのではないかと苦悩する……。
そして、新たな「新撰組」の撮影が始まる。 銀ちゃんは「俺の命と引き換えに娘の命を助けてくれないか」と祈る様な気持ちで 一世一代の「函館五稜郭の石階段落ち」に挑む。 果たして銀ちゃんの祈りは、娘の病に打ち勝てるのだろうか?
【イベント概要】
つかこうへい没後 10 年追悼イベント
朗読 蒲田行進曲完結編『銀ちゃんが逝く』
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
出演:
倉岡銀四郎 味方良介
小夏 井上小百合
ヤス 植田圭輔
中村屋喜三郎 細貝 圭
ケン 綱啓永
監督 久保田創
日程・会場 2020年7月10日(金)~12日(日) 東京・紀伊國屋ホール
チケット料金 :7500 円(全席指定・税込み)※未就学児入場不可
チケット一般発売: 2020 年 6 月 27 日(土)
チケット先行販売 :オフィシャル先行:2020 年 6 月 14 日(日)受付開始予定
お問い合わせ:Mitt 03-6265-3201(平日 12:00~17:00)
HP:https://www.ginchan-event.com/
※今後の新型コロナウイルス感染拡大の状況により、イベント実施を含めて変更になる場合も有り。
提携:紀伊國屋書店
制作:つかこうへい事務所
企画・製作:アール・ユー・ピー
取材・文:高 浩美