スタジオライフの倉田淳が心を寄せた短編小説を劇団員が朗読をする。毎回登場するのは劇団員2人、しかも毎回組み合わせが異なり、朗読メンバーひとりひとり、それぞれがひとつの作品を担う。進行役は倉田淳が務める。時代を生き抜いて現在もその輝きを失わない小説たち。観劇したのは「接吻」(江戸川乱歩)と「水色の煙」(皆川博子)、朗読は藤原啓児と山本芳樹。トークセッションも開催する。
「水色の煙」は短編小説集「結ぶ」(創元推理文庫)に収められている小説。”小さかったあなたのために”と始まる。一人称で語られる。独特の世界観、そして言葉の独特のリズム、そのリズム感を大事に朗読、不思議な世界と設定、物語がどうのこうの、というより、流れるような言葉が音楽のように聞こえる。”煙”、幼いあなたのためにいろいろなものを煙に変えた・・・・・・マジックでファンタステイック。あれこれ考えずに、ただただ紡ぎ出される言葉に耳を傾けるだけでいい、ストレートプレイではなく朗読というスタイルが似合う作品。
「接吻」の主人公は公務員の山名宗三。勤め先の上司である村山から美しい女性を紹介されて結婚、名はお花。新婚ほやほやの宗三、愛妻弁当を持って職場にいき、そして一刻も早くお花が待っている自宅へ帰る毎日だ。ところがある日・・・・・お花が・・・・・・?!新妻が好きすぎて行き過ぎた行動に出てしまう主人公、純粋な愛情から、ではあるが、その妄想と嫉妬心は、くどいを通り越してなんだか可愛い。それを朗読にすることによって、さらに江戸川乱歩らしいトリックもあって観客の想像力も膨らんでいく、という相乗効果。そしてその描写もコミカルで、客席からもくすくす笑いが起こるほどであった。
シンプルな形の朗読であったが、読み手の個性と作品の相性も相まって、作品そのものにも興味が湧いてくる、そんな公演であった。
アフタートークでは、舞台で”同じ時間と同じ空気を共有することが大事”と山本芳樹がいい、皆、大きく頷いた。この”同じ場所で、同じ時間、同じ空気”をそこに居合わせたすべての人が感じる喜怒哀楽、これが演劇の醍醐味であるが、今はそれが難しくなっている。客席を通常の半分にしなければならない。満杯の客席が放つ熱量、これは演じる俳優にとっては、エネルギーになるのだが、満杯にならない満席、スカスカの状態。この回も客席はスカスカであったが、それでも客席からの熱量もあり、俳優からのエネルギーもある。そして、それをそのまま配信する。つまり、俳優が演じているのを配信するだけでなく、客席の空気感も配信する(身振り手振りで”これを配信!”と藤原啓児)。映像であるかもしれないが、映画ではなく、そこにあるのは演劇である。コロナ禍で多くの公演が中止になったり、延期になったりしている状況、ただ、この公演を観ると、困難な状況に変わりはないのだが、そこを乗り越えて何かが生まれる。トークは和やかな雰囲気で進んだが、この先の未来は案外いい方向に進んでいくのでは?と感じられた。
劇場の衛生対策であるが、検温、手の消毒は当たり前、靴底の消毒、客席はソーシャルディスタンス、マスク着用、そこからさらにフェイスシールドなどの着用、観客の手荷物は床に置かずに椅子に置く、舞台と客席の距離も十分にとっての公演。やれることはすべてやる、という徹底ぶり、良い舞台の前に劇場の安全安心。
<概要>
タイトル:Jun企画『言葉の奥ゆき ~回帰~』
上演期間:
2020年7月18日(土)~24日(祝)
配信期間:
2020年7月26日(日)~8月16日(日)
会場:ウエストエンドスタジオ(〒165-0026 東京都中野区新井 5-1-1)
[アクセス]西武新宿線「新井薬師前駅」より徒歩 7 分
JR 中央線・総武線、地下鉄東西線「中野駅」より徒歩 15 分
[キャスト]
藤原啓児、倉本 徹、笠原浩夫、石飛幸治、大村浩司、曽世海司、楢原秀佳、山本芳樹、青木隆敏、関戸博一、松本慎也
[スタッフ]
演出:倉田 淳 美術・照明・舞台監督:倉本 徹 演出助手・照明操作:中作詩穂 音響操作:鈴木宏明 協力:竹下 亮(OFFICE my on) 宮本紗也加 東 容子 小泉裕子 企画制作:Studio Life
≪URL≫
『言葉の奥ゆき』公式サイト:http://www.studio-life.com/stage/cfevent202007/
Twitter 劇団公式: @_studiolife_
Twitter Studio Life THE STAGE: @GE_studiolife
Facebook: https://www.facebook.com/studiolife1985/
≪お問い合わせ≫
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文:高 浩美
舞台写真:スタジオライフ