ジャパニーズミュージカルの金字塔であるミュージカル「生きる」が満を持しての再演となる。しかも黒澤明生誕110周年の節目、この作品で小田切とよ、渡辺一枝役の一人二役に挑戦する唯月ふうかさんに初演の手応えや作品について語っていただいた。
――初演の手応えをお願いいたします。鹿賀さん回は小田切とよ役、市村さん回は渡辺一枝役。一人二役は大変だったとは思います。
唯月:一人二役はこの作品で初めての経験でした。役の切り替え、それぞれの役の特徴を仕草や声のトーンで表現することはすごく難しくて苦戦しましたが、初演を見たお客様が、熱心に何度も繰り返し観に来て下さって………年齢層も幅が広く、初演は開幕するまではどんな感じでお客様に届けられるのか、どんな反応なのか、とても気になりましたが、開幕してからは、すごく好評だったので嬉しかったです。
――『生きる』は黒澤明監督映画作品が非常に有名ですね。2005年に『タイム』が発表した「史上最高の映画100本」にも選出されていますね。もちろん事前に映画を拝見していらっしゃると思いますが、ミュージカルに出演する前の『生きる』の印象は?
唯月:モノクロ映画を見たのがこれが初めてでしたので、白黒のせいか、全体としては暗いイメージでした。これをどんな風に表現したらいいのかなと思いましたが、映画の中でもひときわ明るいのが小田切とよちゃんでした。舞台上でも「太陽のような」と亞門さんがおっしゃっていました。
――もう一つの役、主人公の息子の妻・一枝、彼女から見ると主人公はお舅さんで、お嫁入りをしている立場。とよさんと一枝さん、キャラクターが真逆な印象もありますが、一枝さんが夫に「私とお義父さん、どっち!」って詰め寄るシーンもあって、ただ単純に夫の後をついていくキャラクターではないですよね。
唯月:結構、意思がはっきりしていますね。
――キャラクターの違いとか、またこの二人の共通している点は?
唯月:違うところですが、とよちゃんは「なんとかなる!」みたいな感じで生きているので、職場も「やめちゃった!」「でも大丈夫!」、楽観的な考え方を持っていますね。一枝さんは、前向きな気持ちもありますし、旦那さまに対して「これから家を背負っていく」みたいな意思があって。その意思が強くて強い女性であり、選択を早く求めているような感覚もありますね。だからとよちゃんの方がゆっくり時間が進んでいるような感覚かもしれません。でも似ているのは、自分は「これを目指している」、「これをやってみたい」、「こういう日本になりたい」、「こういう生活がしたい」っていう理想に対して賭けていくような感覚………2人とも、その時代に生きた女性なので、今の日本でも、年齢より大人っぽい考え方なのかな?そういうところは似ているんじゃないかなって思います。
――あの時代は、これから高度経済成長期に入っていく、そういう時代に向かっていくちょっと直前の、においもちょっと感じますね。
唯月:そうですね。一枝さんにすごく当てはまると思うんです。お義父さんのことも、息子さんのことも「うじうじしてないで早く!やってよ!」みたいな感覚。男性を尻に敷く、じゃないですが、この時代の感じと一枝さんの方はリンクしていると思います。それに対してとよさんは、いつの時代でも、自分の考え方を曲げたりはしないと………彼女はマイペースなんじゃないかなって思いますね。
――とよさんは、多分、今の時代にいてもきっとこのままの感じかもしれないですね。
唯月:思いますね!自分の世界で生きている感じがします。
――一枝さんはご主人がいらっしゃる、ご主人を立てつつ、旦那さんより半歩さがっているところにいつもいる。でも、ご主人に尽くしてはいますが、それでも自我も出す。役の切り替えは大変だったと思うんですが、どういう工夫をされていますか?
唯月:台本の自分のところにマーカーの線を二人のところを対照的に変えて、‥‥‥仕草とか、とよちゃんは、跳ねて歩く感覚、ガツガツ進む感じでしょうか。一枝さんは、最初の頃は妊娠がまだ初期の頃なので、若い感じで、最後の方はお腹も大きくなって、妊婦さんとしてちゃんとやらないといけなかったので、一枝さんの方は所作を一つの物語の中でだいぶ変えていきました。
――今回は再演で旦那さん役も俳優さんが変わられましたが、今年の抱負とか、これから役者さんとして「こうなれたらいいな」とか。今まで出演された作品の中ではミュージカル『生きる』は、ちょっと違う異色の作品ですが、再演に向けての抱負と役者さんとしては「こういう風になれたらいいな」というのを。壮大な質問で恐縮です。
唯月:自粛がありましたし、お仕事も中断したりしました。このミュージカル『生きる』は主人公である役所の市民課長・渡辺勘治さんが、周囲から色々と言われながらも自ら変わっていく物語で「もう一度新しい人生を」とか「新しいことをやってみよう」と思うきっかけをくれる作品だと思います。だから、今、上演するべきものだと思っています。作品を見て、「今からでも遅くないんだ」とか「もう一回、やってみよう」っていう風な背中を押すような作品になっていて、この自粛の期間、私もいつ舞台に立てるのか、その時に生き生きとできるかどうかわからなかった、しかし、それができた時にはきっとすごく熱い気持ちがこみ上げてくると思います。また、お客様があらためてミュージカルに触れた時に、自分ももっとフラットな気持ちで、「こんなに楽しいんだ、こんな気持ちになるんだ」って作品ごとにお客様と一緒に空気感を共有したりできるような……お客様の背中や肩にちょっと寄り添えるような役者さんになれたらいいなって思います。
――主人公が日々、朝起きて決まった時間に髭剃って上着を着せてもらって、職場に向かって淡々と過ごしていて、それが何年も続いて、いつしか定年を迎えるというところで、自ら“チェンジする”・・・・・・主人公は初演と同じく市村正親さんと鹿賀丈史さん、大先輩、いや大大先輩!!
唯月:大大先輩です(笑)。市村さんとは、他の作品でお義父さん役としてご一緒させていただいたことがありまして、本当にお稽古の時から暖かく、見守ってくださって、市村さんご自身が出ていないシーンも「ここは、こうしてみたら」ってアドバイスをしてくださるんです。だから皆さんのことをずっと見守ってくださる、ちゃんと。それがすごく心強いなって思っています。物語の中ではとよとして、鹿賀さんを「こっち、こっち!」って振り回したり(大笑)・・・・・・とよにならないとなかなかできないという感覚なんですよ!心の中で「鹿賀さん、ゴメンなさい!」って!ガシガシ引っ張って(笑)、でも鹿賀さんはいつも「ありがとう」って言ってくださるので本当に「癒される」存在です。
――最後に。このインタビューを最後まで読んでくださった読者に向けて一言、お願いいたします。
唯月:「まだ、遅くないよ、まだ、今からでも大丈夫だよ」って声をかけたり背中を押せる、心がほっこりするような作品なので、共に生きましょう!
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。
【公演概要】
ミュージカル『生きる』
http://www.ikiru-musical.com/
https://horipro-stage.jp/stage/ikiru2020/
<キャスト>
渡辺勘治 役 市村正親 / 鹿賀丈史 (ダブルキャスト)
渡辺光男 役 村井良大
小説家 役 新納慎也 / 小西遼生 (ダブルキャスト)
小田切とよ 役 / 渡辺一枝 役 May’n / 唯月ふうか (ダブルキャスト)
助役 役 山西惇
川口竜也 佐藤誓 重田千穂子
治田敦 林アキラ 松原剛志 上野聖太 鎌田誠樹 砂塚健斗 高木裕和 福山康平
飯野めぐみ あべこ 彩橋みゆ 五十嵐可絵 石井亜早実 河合篤子 中西彩加 竹内真里
高橋勝典 市川喬之
<スタッフ>
作曲&編曲:ジェイソン・ハウランド
脚本&歌詞:高橋知伽江
演出:宮本亞門
<東京公演>
期間:2020 年 10月 9日(金)~28日(水)
会場:日生劇場
チケット一般発売日:8月 22日(土)
主催:ホリプロ TBS 東宝 WOWOW
後援:BS-TBS TBSラジオ
企画制作:ホリプロ
<富山公演>
期間:2020 年 11 月 2 日(月)、3 日(火祝)
会場:オーバードホール
<兵庫公演>
期間:2020 年 11 月 13 日(金)、14 日(土)
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
<福岡公演>
期間:2020 年 11 月 21日(土)、22 日(日)
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
<名古屋公演>
期間:2020 年 11 月 28 日(土)~30 日(月)
会場:御園座
作品公式 Twitter https://twitter.com/ikirumusical
ホリプロステージ公式 Twitter https://twitter.com/horipro_stage
ホリプロステージ公式★ https://horipro-stage.jp/
舞台撮影:引地信彦 ⓒホリプロ
取材・文:高浩美