「伝統芸能」×「niconico」×「最新技術」が融合したニコニコ超会議の大型企画の一つ「超歌舞伎 Supported by NTT」。2016 年に初開催、今年で5回目となる。2020年4月に予定していた公演は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受けて中止になったが、ニコニコ超会議初の夏開催に合わせ、超歌舞伎、実施!
『今昔饗宴千本桜』は、2016年の「超歌舞伎」初開催から始まり、2019年4月に再構成をして上演、さらに8月には京都・南座で開かれた「八月南座超歌舞伎」でも公演されるなど、超歌舞伎の記念碑的な作品。
平安時代を舞台に古典歌舞伎を代表する名作のひとつである「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」、そして初音ミクの代表曲で、いまや国民的な楽曲といっても過言ではない「千本桜」の、それぞれの世界観をもとにして誕生。
今回の『夏祭版 今昔饗宴千本桜』では、オンライン公演の特性を生かした歌舞伎を”観る”のではなく”参加する”感覚が味わえるようなカメラワークで魅了。更に、あっと驚く演出が随所に散りばめられた作品として装いを新たにしてお届け。なお、本公演は豊島区の協力により、池袋の東京建物 Brillia HALL にてお客様を入れずに開催。
19時の開演前から多くのコメント、「電話屋」「こんばんわ」「トイレ行くなら今のうち」などなど。「88888888」もたくさん!19時になり、客席が映し出される。ニコニコ動画のキャラクターのぬいぐるみが”ソーシャル・ディスタンス”で座っている。
無観客での開催、場所は豊島区のBrillia HALLなので「豊島屋」の文字も流れる。それ方金屏風の前に中村獅童、恒例の挨拶、しかし、今年は勝手が違う、無観客、本当は拍手が起こる場面であるが、ここは「88888888」で。
力強く「盛り上がらないわけがございません!」ときっぱり。「生配信・・・・・・みんな!コメント待ってるぜ!もっと、もっと!もっと、もっと!ありがとう!こっちからもモニター見てるからな!」と見えない観客に向かって叫ぶ、「心の目だ」という書き込み、PC画面を見ている多くの”目”、19時08分、視聴者は52397人、そして待ちに待った初音ミク、登場し、口上を。
19時10分、オープニング、曲がかかる、映像が美しく迫力満点、これから始まる”本編”を期待するにふさわしい。そして物語が始まる。2016年の初めての超歌舞伎の『今昔饗宴千本桜』、2019年版では技術の進化には目を見張るものがあった。そして2020年、予想だにしなかった新型コロナウイルス感染症の蔓延、それも世界的規模、日本中から、いや海外からも多くの人々が訪れ、楽しんでいた春のニコニコ超会議が中止になり、満を持してのオンラインでの開催、それの目玉が、この超歌舞伎だ。しょっぱなから初音ミクの可憐で艶やかな舞い、動きがより滑らかで、思わず見入ってしまう。
ストーリー的にはこの2020年ならではの話題、それは”病”。今回の「夏祭版」では、「青龍」が”疫病”の力を操るという設定が加わり、ヒーローとヒロインが、苦しい戦いを経て、全国の皆さまの力を借りて疫病のもたらす苦難に打ち勝ち、最後には神木「千本桜」に桜が咲き誇るという展開だ。
江戸時代の人々にとって歌舞伎は”現代劇”、巷での話題や世相を歌舞伎にしていたが、そのまま歌舞伎にすると、時には幕府からチェックが入るので、他の時代に置き換えるのはよくあること。それを考えるとこのコロナ禍、これをいち早く物語に取り込むのは歌舞伎の得意技。そういう意味においてはここは歌舞伎らしいところだ。
そして幾つかのサプライズ演出、カメラワークが臨場感をUPさせる。通常では観られないアングル、これは配信ならではの見え方だ。客席で見る目線ではなく、舞台上であたかも間近で観ているかのような見え方、また、天井からのアングルもあり、全体もよくわかり、また細かい表情や目の使い方もはっきりとわかる。映像演出も前回より洗練、進化、青龍が火を放つシーンは圧巻。こういったテクノロジーを駆使した場面もさる事ながら、アクロバット的な動き、アナログ表現も”これでもか”的なチャレンジ、これが超歌舞伎の真骨頂。また、中村獅童が!一人三役に挑戦、なんと青龍も!青龍と初音ミクの戦いのシーンは必見。
また青龍はダイナミックな映像で出てくるが、アナログ的表現でも!従来の歌舞伎的な表現と最先端テクノロジーの融合、2019年版よりさらに進化した感もあり、瞬きできないくらい。もちろん、”電話屋”得意の分身の術も健在。澤村國矢、中村獅一が、なんと佐藤忠信に!Wで!ラスト近く、中村獅童の佐藤忠信も!中村蝶紫の落ち着いた演技と熟成された艶、1時間があっという間。物語が終われば、お決まりの!リアルに客席に観客が座っていた時はペンライトを振り回し、中村獅童がシャウトする。これをオンライン生配信で!カメラに向かって「もっと、もっと!」と煽る、それに応えるように多くのコメントで埋め尽くされた画面、キャスト総出で踊る、踊る、踊る!
ニコニコの「ギフト」はあっという間に100万超、視聴者も21万超!最後の挨拶で中村獅童は「我々が感動いたしました」と感無量な様子で語る。「これは未来へのメッセージでもあります・・・・・・未来はこれからです・・・・・・今の子供達が豊かな人生を送れますように」と挨拶。書き込みは視聴者の感動のコメントで埋め尽くされた。そして締めは、もちろんこの言葉「また会うぜ、ありがとう!」超歌舞伎は終わらない。2021年も期待したい、いや、期待しかない。
ちなみにニコニコネット超会議2020夏、ネット総来場者1,773万8,806人を動員した。
<公演前:中村獅童オフィシャルインタビュー>
Q:4月の幕張超歌舞伎、6 月の南座超歌舞伎が中止になってしまい、やっと開催することができるわけですが、今のお気持ちを教えてください。
中村獅童:中止になってしまい、楽しみにしてくださっていたファンの皆様、超歌舞伎ファンの皆様のご期待に答えるべく、 なにか我々もできないかということを自粛中に常々話し合いはしていました。ようやくこの日を迎えることがで きまして、ソーシャルディスタンスを保ちながら、安全第一で、また舞台に立たせていただけるということは、 本当に胸がいっぱいの思いです。
Q:期待してパソコンの前で待っている方がいっぱいいると思います。超歌舞伎は 2016 年から、いち早く生配信をしていて、その積み重ねがあると思いますが、自信はいかがでしょうか?
中村:今の時代にぴったりのコンテンツだと思います。 生配信は今まで我々がやってきたことの強みだと思っていますので、無観客にはなりますが、精一杯やりたいと思います。
Q:「千本桜」という作品への思い入れは。
中村:これがなければ今日の超歌舞伎は続いてこなかったでしょうし、また京都でもやらせていただいて、皆様にとて も評判が良かったので、夏祭り版として、(千本桜を)凝縮してブラッシュアップして、さらに練り直してやらせ ていただけたらという思いですね。
Q:昨年の南座を拝見しましたが、海外の方、年配の方などとても幅広いお客様がいらしていて、それを振り返ってもとても配信に向いているなと思いました。そのあたりいかがですか。
中村:京都でやらせていただくと決まった時は、京都の歌舞伎専門の劇場、「京都南座」ですからね、京都といえば往年 の歌舞伎ファンの方も大勢いらっしゃる土地柄ですから、こういったものがサブカルチャー好きの若者以外に、 昔からご覧になっている歌舞伎ファンの方に受け入れられるかどうかっていう不安な気持ちはあったんですが。 幕が開いたらもう幅広い世代のお客様が総立ちで盛り上がっていただけたので、我々に取りまして、一つの自信になりました。
Q:超歌舞伎といえば更新されている最新技術と、俳優さんたちとミクさんとのかけあいと、いろいろなものが更新され続けているという印象がありますが、今回に関してはどのような自信がありますか?
中村:無観客とはいえ魂をこめて、デジタルの世界でも生身の人間を相手にするのと同じように、全身全霊でぶつかっ ていく。これはもう僕に限らず出演者ひとりひとりの意気込みというのがお客様に通じているのかなと感じています。
Q:歌舞伎の懐の深さも感じますが。
中村:それは僕自身改めて勉強になったところで、我々のやっていることは古典的なことなんですが、デジタルの世界 に入っても古典的なことが通じるという、歌舞伎の奥深さというのはやはり新しいものを作ると常々感じることですよね。
Q:常に対応できる力があるということですね。
中村:僕はときには現代劇もやらせていただきますけれども、現代劇ですごい説明しなければいけない長い場面でも、 歌舞伎だとほんの一瞬で成立してしまうっていう、まぁ都合がいいですよね。ご都合主義なところが歌舞伎の面白いところだと思うので、そういったところも若い方に楽しんでいただけるといいですね。
Q:ミクさんについて一言
中村:ミクさんは公演を重ねるに連れどんどん踊りが上達しておりますので、並々ならぬ努力の塊だと思っております。
Q:今回は配役がみどころということですが
中村:僕自身、自粛中に時間がありましたから、いろいろと考えるところがあったんですけれども、よく捉えればなにか新しいことを生み出すチャンスだと思うし、変わるチャンスだと思うし、配役に関してはこれから将来の歌舞伎界において、お弟子さんと言われる方々ももっともっとスポットライトを浴びるようなことが増えればいいと思っております。今回はそういったひとつひとつの願いが込められた公演だと思います。
Q:一期一会、全身全霊についての思いを伺いたいです
中村:歌舞伎座ですと25日間興行の舞台になりますが、その1回1回は一期一会なんですね。今回はこの 1 回限りで すので、この数ヶ月の想いや、これからの明るい未来、明るい世界、世界平和、そういったことを一人ひとりが 祈りを込めて今回の舞台を
勤めたいと思っております。
Q:無観客でどのように舞台に挑もうと思っていますか?
中村:先程も初日通りの舞台稽古をやらせていただきましたけども、当然、無観客ですから、この芝居の醍醐味、魅力 はなんといってもお客様参加型だと思うんですね。お客様がゼロの中でやらせていただくというのはどういうこ とかと思ったんですけど、誰もいない観客席に向かって僕自身が煽ったりだとか、2 階席、3 階席に誰もいらっ しゃいませんよね。今までの、これが積み重ねてきたことかなと思ったのですが、皆様の涙、笑顔、ペンライト を持っての声援みたいなものが僕の目と耳に焼き付いていますから、そういったものが蘇ってくるんですね。こ れがやっぱり今までやらせていただいたことの強みなんだなと思っていて、僕自身やっぱり、無観客なんですが、 言い方おかしいですが、思い出したときに、僕自身が感動しました。
Q:視聴者の方へメッセージをお願いします。
中村:もうご近所のご迷惑にならない程度に、皆様も旅行に行けないですし、いろいろ大変な世の中ですから、せめてこの1時間ないくらいの、この芝居で大いに楽しんでいただければと思います。
<概要>
演目名:夏祭版 今昔饗宴千本桜(なつまつりばん はなくらべせんぼんざくら)
配信日時:2020年8月16日(日)19時00分~
出演者:中村獅童、初音ミク 中村蝶紫、澤村國矢、中村獅一 ほか
放送URL:https://live.nicovideo.jp/watch/lv327244090
脚本:松岡亮
演出・振付:藤間勘十郎
原作:「千本桜シリーズ」(KADOKAWA)
原案:黒うさ P/WhiteFlame
著・イラスト:一斗まる
劇中歌:千本桜(作詞・作曲:黒うさ)
主催:ニコニコ超会議実行委員会
共催:豊島区
製作:松竹株式会社/株式会社ドワンゴ
制作協力;クリプトン・フューチャー・メディア株式会社
超特別協賛・技術協力:NTT
©超歌舞伎 Supported by NTT
取材・文:高 浩美