秋の気配も深まる晴れの日、9月29日、渋谷の劇場CBGK シブゲキ!!で、
今年で4回目となる、ゾンビとアートパフォーマンスをテーマに行われる
フェス『ゾンビフェス THE END OF SUMMER 2020』が開催された。
ホストの入江雅人の呼びかけで、ダンサー・入手杏奈、ギタリスト&シンガーソングライターの塚本功、のレギュラーメンバーが出演、そして落語の立川志ら乃が緊急参戦する形で開催された。
例年、コント、活弁、漫才、スタンダップコメディ等々、多彩多様なパフォーマーが参戦し彩られるフェスだが、今年は、新型コロナウィルスの影響で、上演自体危ぶまれる状況であった。
しかし入江はこのような時期だからこそ、劇場で共に過ごす特別な時間を創りたいと今年の開催を決断した。
未曾有のウイルスに世界が翻弄されている今、
感染のパンデミックを引き起こす”ゾンビ”をフィーチャーしたゾンビフェスの意味も、
図らずも増したのかもしれない。劇場は抗菌作業を済ませ、換気等空間の安全を確保、観客が安全に観劇できる環境を確保した上で、入場時には検温、消毒が行われ、約50%の観客での上演となった。
オープニングでは入江雅人が登場。観客への謝辞とともにスタンダップコメディで出迎え、
続く入手杏奈のオープニングダンスで華麗にスタートした。
最初の演目は、入江雅人の一人芝居演目『月夜のゾンビ』。
東京がゾンビのパンデミックに陥る中、山奥から家族の待つ三軒茶屋まで戻ろうとする主人公の物語。
森の中疾走する入江の姿に、気づくと観る側も鬱蒼とした森の中で、ゾンビに出くわす恐怖感を味わっている。
入江の一人芝居は、観る者を情景の中に引き込む力を持っている。
次は入手杏奈のダンス。ゾンビをダンスで表現するという異色の世界観の中で、
体を自在に駆使し、長い髪と白いワンピースをたなびかせしなやかに舞う入手は、
ゾンビと妖精の間のような不思議な存在感を放ち、観客を魅了した。
次は、入江雅人の一人芝居『映研のゾンビ』。
廃部が決定している映画研究会の顧問の教師が、最後の公演に向けて生徒を指導していくうちに….。
コミカルで元気を貰えるような生き生きとした入江の描写。入江がたった1人で演じているのに、
何百という学生たちが見えてくるようだ。
次に登場したのが立川志ら乃の新作ネタ下ろし『ゾンビをぬかにつけてみた』。
江戸時代、ゾンビになった夫をぬか漬けにするという奇想天外な物語。
志ら乃の語り口とともに新感触の世界を堪能した。
次の登場は、ギタリスト&シンガーソングライターの塚本功。
秋の切なさを実感するような音色のギター演奏。
最後は、入手杏奈との即興コラボレーションが披露され、
ダンスとギターの美しい絡み合いにうっとりとする瞬間だった。
そして、最後を飾る演目は、入江雅人による一人芝居『帰郷』。
このフェスでは必ずラストに登場する風物詩であり、夏の終わりに見るのにぴったりの郷愁胸に迫る一作だ。
ゾンビのパンデミックが広がる日本で、ゾンビ化してしまった故郷の幼馴染と最後の夏を共に過ごす中年男の物語。
毎年定番の演目ながら、観る度に涙を誘い、その年ごとに演じ方も観客の受け止め方も変わりながら解釈も変わってゆく。
今年は特に例年に無い実生活との不思議なシンクロを感じる観客もいたかもしれない。
今年は出演アーティストが4組となり演目も絞られたが、一つ一つが粒立ち、濃度の濃い公演となった。
ゾンビという架空の存在を遊ぶように発想し表現される創作の楽しみが詰まったゾンビフェス。
来年も期待したい。
このコロナ禍の中での、ゾンビフェスに、観客も、観劇の充実感を持って温かい拍手を送っていた。
<概要>
『ゾンビフェス THE END OF SUMMER 2020』
2020年9月29日(火)19:00開演(18:00開場)
会場:CBGKシブゲキ!!
[出演]入江雅人、入手杏奈、塚本功、立川志ら乃
撮影:市川唯人(入江雅人、入手杏奈)