大竹しのぶが日本演劇史に燦然と輝く不朽の名作に挑む! 高橋克実、段田安則、風間杜夫 豪華共演の舞台、いよいよ11月2日初日!!公演前日に会見と公開舞台稽古が行われた。
『女の一生』は昭和20年4月の終戦直前に、森本薫が文学座に書き下ろし、 杉村春子が初演、生涯に947回にわたって主人公の布引けいを演じ続けた名作。 明治38年(1905)から昭和20年(1945)までのある女の40年間を描いている。また、1964年には今日マチ子主演で映画化もされており、堤栄二役で田宮二郎が出演を果たしている。
激動の時代を逞しく生きる主人公の布引けいを、舞台女優として円熟味を増している大竹しのぶがつとめ、そして、けいがひそかに想いを寄せる堤家の次男・堤栄二に高橋克実、堤家を支える叔父の堤章介に風間杜夫、けいの夫となる長男・堤伸太郎は今回演出も手ける段田安則が演じる。その他、宮澤エマ、林翔太、銀粉蝶という豪華実力派キャストが顔を揃えた。
明治・大正・昭和を生き抜いた“女の一生”、初日の前日、会見が執り行われた。
登壇したのは、大竹しのぶ、高橋克実、段田安則、宮澤エマ、林翔太、銀粉蝶、風間杜夫。
まずは挨拶。
「いよいよ明日、幕が開きます。こういう状況だからこそ、劇場っていいなって思ってもらえるように精一杯頑張りたいと思います。」(大竹しのぶ)
「わかりにくいですけど、高橋克実です(カツラ着用なので)。是非、いろんな方に・・・・それぞれ役割、パートがあるので、しのぶさんの足を引っ張らないように精一杯頑張ろうと。明日初日です!よろしくお願いいたします」(高橋克実)
「演出という…緊張と責任感で身が潰れております。今日はしゃべる気力もない状態で喋っています。ぜひ、明日、初日でございます!50パーセントではございますが、本当にいい本です、今の時代にピッタリです、高橋がいいセリフを言います。ぜひ、ご覧になっていただきたいと思います」(段田安則)
「森本さんの素晴らしい本で、これは大竹しのぶが演じます。伝説の舞台女優になっていくであろう大竹しのぶが!演出が段田安則、デリケートな演出は大いに評価されると思います」(風間杜夫)
「『女の一生』、戦後にできた本、背景を知って、戦時中に上演したこととか…本は分厚くて、プレッシャーに負けないように頑張りたいと思います。皆さまについていこうと思います」(銀粉蝶)
「(ここにいることが)本当に嬉しくって。(コロナの影響でいろんな舞台が)中止になってしまったので、舞台に立って、ソーシャルデイスタンスではありますが、お客様の前で演じること、本当に嬉しくって、緊張と喜びで一杯です。今回はそうそうたる皆様と一緒に!毎日、稽古場から緊張で。この作品の持つ、どんな状況下でも生きていくというのが、様々な人の生き様がありまして、見ている側も演じている側も、ものすごく、活力を得られる作品。ぜひ、劇場に!」(宮澤エマ)
「今回、こんなに素敵な作品で、豪華な皆様と出させていただける、夢のようで、これは僕にとって財産になるな、と。こう見えてもジャニーズです。ジャニーズ魂を!この舞台にぶつけたいと思います!」(林翔太)
それから質疑応答。
今の気持ちを聞かれて大竹しのぶは
「杉村春子さんが演じ続けたいと思われたという意味が本当にわかります。そのくらい素晴らしい本で、いいセリフがたくさんあるので。緊張感はそんなにないです。いいお芝居を伝えられるように」と語る。
また段田安則に演出家としての見所は?の質問、「文学座の宝物みたいな作品で、僕がやっていいのか、というのがあります。新しい、大竹しのぶの『女の一生』、少女時代から16歳から60歳前ぐらいを演じますが、これが無理がない。なかなかいないと思います。これがまずの見所だと思います。稽古を重ねてまいりました。明日、お客様の前で上演できるという楽しみが大きいです」としみじみと語った。
キャストから見た演出家・段田安則については
「ダメだしという言葉がお嫌いで褒めだしをするんだと。とおっしゃってたんですが、ダメだしのない日がなかった。ダメだしの量は群を抜いて1位だと思うんです。ダメだしを明日全てをクリアーできるのかというところ、ここは乗り切りたいと思います」と高橋克実が語り、それを受けて大竹しのぶが「昨日も、高橋克実さんの声が・・・・『こういう風にやればいいんだよ』っていう演出家の声が。夜遅くまでやってました。細やかなことを演出してもらえるのが、すごく楽しい」と笑顔でコメント。
「伸太郎という難しい役をご自身で見せてくださいました、ご自分のお芝居を完璧に、その間に演出、よくやるな(笑)、僕は演出しようなんて、これっぽっちもありませんから」風間杜夫が笑わせた。さらに「見事に役者と演出家、やって稽古場でやり通していました」と語る。銀粉蝶は「伸太郎という役をやって、しかも演出家としては細やかで繊細で鋭く!すごいなと。伸太郎、ちょっと弱い息子というかわいらしさ、安心しました(笑)」と笑顔で。宮澤エマは「すごくやさしいし、指摘の仕方がすごくいたわってしてくださるので・・・・・嘘は絶対にみのがしてはくださらない。マスクをしてお稽古をしていたのでなかなか表情がわからなかったのですが、伝えられないもどかしさも。舞台上でマスクを取った笑顔が愛らしくって!こんな顔してたの!!って(笑)。」と演出家・段田に100パーセントの信頼を寄せる。林翔太は「この中で最年少ですが、段田さん、高橋さん、しのぶさんと年上の役をやらせていただいてます。段田さんから、前回も共演させていただいたのですが、『今回はガサツなおっさんで行こう!』と。細かい演出、セリフの言い方一つずつ指導してくださいました。段田さんのおかげで、役ができたんじゃないかな」と感謝すること、しきり。
また10代から演じるに当たって大竹しのぶは「昨日学生服の二人(段田安則、高橋克実)を見て、愕然としたんですが!でも、自分はおさげを結っている、すごい世界に入ったなと」とコメント、ここは必見。また高橋克実が「髪の毛をなぜつける芝居、やろうと思ったのですが・・・・・やりつけていない」と笑いを誘った。
また段田安則演じる伸太郎と夫婦になるわけだが、微妙な空気感が流れる夫婦である。「この作品は、夫婦であり続けること、人生を続ける意味がなるほどなと思います。本当に良い芝居だと思います。こういう夫婦っていっぱいいるんだろうな、でも人生を続ける、それぞれの人生を抱えていて・・・・それが素敵なんです。泣かされるセリフばかり」と語った。
和やかに会見は終わった。
舞台は1幕ののみが公開された。
出だしは昭和20年(1945年)、荒れ果てた焼け跡。そこに一人の女性(大竹しのぶ)が座っている。ちょっと茫然自失な様子、そこへ一人の男がやってくる。彼は堤栄二(高橋克実)、お互いに誰だかわからないまま、この景色のひどさを語り合う。そして女性が歌を歌い出した。その曲で栄二は布引けい(大竹しのぶ)と気がついた。「この庭、この石灯籠」と言い、けいも気がつく、「栄二さん!!」、それからクレジット、「作 森本薫」「女の一生」の文字。
そこから時間が遡る、明治三十八年 正月の夜、1905年。日清戦争の勝利にわく日本。賑やかな人の声、若い男女が日の丸を振る。堤家、この物語の主たる場所。女性は堤ふみ(宮澤エマ)、男性は野村精三(林翔太)、当時としてはありふれた光景。そこへ堤章介(風間杜夫)がやってくる。「戦争に勝って無責任に喜ぶのは」と言い「厄介なこと(清との戦争)に足を突っ込んだ」とシニカルな発言。現代からみれば、確かにそうだが、この時代、大衆は戦争に勝利したことを単純に喜んでいた。「アジアの一員としてこれでいいのか」とも言う。
しかし、正月、居間の空気はウキウキ気分、学生服の二人が入ってくる、堤栄二(高橋克実)と堤伸太郎(段田安則)。しず(銀粉蝶)の誕生日に伸太郎は肖像画を栄二は櫛をプレゼント。そしてふみの歌を聴きに皆、奥へ入っていった。誰もいない居間、そこへいかにも身なりの貧しい下げ髪の布引けいが・・・・座敷に上り込んでふみの歌に聞き入っていた。そこへ!栄二が!泥棒と思った栄二、言い争いになり、力いっぱいけいを突き飛ばしてしまう。そこへ伸太郎が。けいは自分の境遇を話す。両親が他界したこと、おばさんの家に住んでいるが、ひどい扱いを受けていたので抜け出してきたことを勢いよくしゃべる。そこへ章介としずが戻ってきた。家に帰るように諭されるも、実はけいは追い出されていた。帰ろうとするけい。栄二はしずに送った櫛をけいに渡す「君にあげるよ」と。けいは感極まって泣き出す。いままでのけいの不遇さ、それがこともあろうに櫛をもらう。追い出されてしまったことを告白するけい。ここからけいの”人生”が本格的に動き出す。
それから4年後の明治42年(1909年)の晩春。明治も終わりに近づき、大正時代の1歩手前。伸太郎は清国の言葉に興味を持っていた。早い話が中国語。同じ漢字を使っているのに発音がまるで違う。よその国の言葉を知ることはその国の文化や人々を知ることに通じる、単なるコミュニケーションの道具ではない。堤家に引き取られたけいは拭き掃除などを一生懸命にやりながら伸太郎の話を聞いていた。次第に認められていくけい。
そこから4年後の大正4年(1915年)。けいはすっかり堤家の人間となり、家のために働いていた。闊達な気性を見込まれたのであり、それで長男である伸太郎と結婚することになったのであった。しかし伸太郎はけいが家のことよりも仕事に精を出しているのを注意する。しかし、けいは貿易のことや総子(服部容子)に心を砕いており、それを自分は頑張っている、と告げる。けいは自分のできることを一生懸命にやっている、それが今の自分にできること、と信じている。しかし、伸太郎は女性は家事をして家を切り盛りするものだと考える。この時代、それが一般的な考え方だ。けいは尋ねる、自分のどこがいけないのか。伸太郎は性格が合わないことや、堤家の人間として生きていくために自分と結婚したのかとけいに言う。
幕切れ、けいは舞台正面を向き、言う。「自分で歩き出した道ですもの。間違いと知ったら自分で間違いでないようにしなくちゃ」。深い言葉だ。どう解釈するかは観客一人一人に委ねられる。そこから波乱万丈のけいの人生、時代も日本を人々を大きく飲み込んでいく。1幕だけの公開であったが、その後のけいと伸太郎、栄二はどうなっているのか、また戦争の勝利にわき、日の丸を振り回していた二人、結婚するもその様子はイマイチな雰囲気、精三は髭をたくわえ、亭主関白っぽい風情、ふみは少々不機嫌そうな表情。そこからも、この二人の行く末がなんとなく想像できる。けいを主軸とした物語であるには違いないのだが、周囲の人々の生き様も注目して欲しい。
◆キャスト
布引けい:大竹しのぶ
堤 栄二:高橋克実 堤 伸太郎:段田安則 堤 ふみ:宮澤エマ 職人井上:森本健介 堤 総子:服部容子
堤 知栄:多岐川華子 野村 精三: 林翔太
堤 しず:銀粉蝶 堤 章介:風間杜夫
<物語>
明治38年(1905年)日露戦争の後―日本がようやく近代的な資本主義国の姿を整え、同時にその動向が世界の国々と絶ちがたく結び合い、影響し始めた時代。戦災孤児の境涯にあった布引けい(大竹しのぶ)が、不思議な縁から拾われて堤家の人となったのは、そんな頃である。
清国との貿易で一家を成した堤家は、その当主はすでに亡く、後を継ぐべき息子たちは まだ若く、妻のしず(銀粉蝶)が義弟・章介(風間杜夫)に助けられながら、困難な時代の一日一日を処していた。甲斐甲斐しい働きぶりを見せるけいは、しずに大変重宝がられた。同時にけいと同様に闊達な気性の次男・栄二(高橋克実)とも気性が合い、お互いに ほのかな恋心を抱くようになった。
そのけいの思慕とは裏腹に、しずは跡取りであるべき長男・伸太郎(段田安則)の気弱な性格を気がかりに思い、気丈なけいを嫁に迎えて、堤家を支えてもらう事を望んだ。しずの恩義に抗しきれなかったけいは、伸太郎の妻となった。
けいは正真正銘堤家の人となり、しずに代わって家の柱となっていく。担い切れぬほどの重みに耐えながら、けいはその「女の一生」を生きるのである。
時は流れて昭和20年・・・。二つの大戦を経る激動の時代を生きて、今、焼け跡の廃墟に佇むけいの前に、栄二が再び戻ってきた。
過ぎ去った月日の、激しさと華やかさを秘めて、二人はしみじみと語り合うのであっ た・・・。
<製作発表会の様子>
https://theatertainment.jp/japanese-play/63529/
<公演概要>
『女の一生』
<日程・会場> 2020年11月2日(月)~26日(木) 新橋演舞場
<スタッフ>
作:森本 薫 補綴:戌井市郎 演出:段田安則
美術:松井るみ 照明:服部 基 音響:井上正弘 衣裳:前田文子 ヘアメイク:河村陽子 演出補:郷田拓実 制作補:成瀬芳一 舞台監督:瀬尾健児 演出部:大野敏之、山内大典、佐藤たえこ、長井咲花 制作事務:中村恭子、泉野奈津子 制作:松本康男 本田景久 田村由紀子 小櫻真緒
公式HP:https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujyo_20201031/
取材・文:高 浩美