稲垣吾郎主演 剛力彩芽etc.共演 木下グループpresents「No.9―不滅の旋律―」信じる心、音楽の力、未来永劫響き渡る調べ。

12月13日より稲垣吾郎主演 木下グループpresents「No.9―不滅の旋律―」が開幕した。この公演は好評につき、これが3度目となる。稲垣吾郎はベートーヴェン役は3回目。

舞台セット、天井のオブジェ、ピアノを彷彿とさせる。ゆっくりと舞台中央からベートーヴェン(稲垣吾郎)が歩いてくる、頭を抱えながら。ベートーヴェンは耳が聞こえない、これは周知の通り。音楽家でありながら、音が聞こえないにもかかわらず、彼が生み出した作品は世界中で愛されている。この作品は彼がどう生きたか、簡単に言ってしまえば、そういうことである。しかし、ベートーヴェンの生涯は波乱万丈、日本では漫画の神様・手塚治虫の晩年の未完の作品『ルードウィヒ・B』がある。
ピアノを見る、耳を当てる、そして叫ぶ「どいつもこいつも」とピアノを叩く。衝撃的な出だしだ。ピアノ職人のナネッテ(村川絵梨)、ヨハン(岡田義徳)夫婦はベートーヴェンの才能を見抜いており、理解を示していた。そしてベートーヴェンの弟、ニコラウス(前山剛久)とカスパール(橋本淳)もまた、兄の並々ならぬ才能を信じていた。しかし、複雑な生い立ちのせいか、感情の起伏が激しく、偏屈、周囲の人々と衝突する。ベートーヴェンの苛立ち、コーヒーが不味いという理由で女中を即解雇してしまうほどだ。

ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンが生まれたのは1770年。1789年、フランス革命が勃発。ベートーヴェンはこの時、ボン大学にいた。そして1792年に戦乱がボンに及ぶと、ドイツの音楽首都であったウィーンに移る。それでベートーヴェンの心に共和主義的な感情が形成されていったのである。ベートーヴェンはモーツァルト、ハイドンとともに「ウィーン古典派の三大巨匠」と呼ばれているが、ベートーヴェンは明らかに”革命後”の人物、そういった時代背景はこの舞台にも描かれている。ナネッテの妹・マリア(剛力彩芽)はベートヴェンに興味を抱き、解雇された女中の後釜としてベートーヴェンの家に入り込む…。

癇癪持ちで難聴で、しかし類稀なる音楽の才能、そして時代の風を感じ取る感性。「フランス革命に万歳!」と言い、「世界に私の音楽を認めさせる」という。父親との確執、複雑なベートーヴェンを理解し、支えるのは並大抵ではない。父・ヨハン(羽場裕一)は歌手として大成することなく、呑んだくれ、息子の才能に気づき、息子の演奏が不出来だった時は、激しく彼を罵った。その体験がベートーヴェンを苦しめる。しかも弟が二人、ニコラウス(前山剛久)とカスパール(橋本淳)がいる。よって早くから彼は家計を支えなければならなかった。1幕では、そんなバックボーンやベートーヴェンを取り巻く人々の性格や立ち位置が描かれ、2幕の怒涛の展開に繋がっていく。

全編、ピアノの生演奏が響き渡る。ピアノの音色は”もう一人の主人公”のよう。虚と実を織り交ぜたストーリー展開、1幕でヨハン・ネポムク・メルツェル(片桐仁)がメトロノームをベートーヴェン宅に持ってくる下りがあるが、彼がメトロノームの特許を取った人物で、メトロノームを最初に使った作曲家がベートーヴェン、これは史実に基づいており、ベートーヴェンとメルツェルは友人同士でもあった。楽譜にメトロノーム記号が書かれたのもこのころなのである。ナネッテ・シュタイン・シュトライヒャー(村川絵梨)も実在したピアノ職人、重要なピアノ製作会社へと成長を遂げ、多くの特許を取得して世界的に有名に。このシュトライヒャー夫妻の活動はピアノ製造のみに留まらず、1812年以降は自らサロンを組織して演奏会を催し、とりわけ若い芸術家には自由な演奏の機会を設けた。夫妻の友人、客人にはルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンやヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテらがいた。また、この時代はピアノはスピーディーにバージョン・アップされ、新機能もどんどん追加された。ペダルが増えたり、音域が広がったり、アクション機構も多様に。ベートーヴェンはフィードバックやら希望やらを彼らに伝えていたが、それを思わせる台詞もあるので、ここは”なるほど”。1810年頃にはシュトライヒャーが開発した6オクターブの楽器を使ってピアノ・ソナタ第26番[告別]を作曲。またマリアは架空の人物である。そんなことを押さえておけば、舞台は俄然面白くなるはず。

あふれんばかりの音楽と彼の生きていた環境・時代。その狭間で揺れ動き、ますます精神不安定に。さらに聴覚障害が悪化していく。その苦悩、父親の暴力がトラウマになっており、しばしば、その記憶に苦しめられる。そんな状況下でも音楽はとめどもなくあふれてくる、彼の頭の中で。彼の最後の交響曲は世界中の人々の心を鼓舞する。音楽の持つ力、それを信じ続けたベートーヴェン。稲垣吾郎が渾身の演技でベートーヴェンを表現する。髪を振り乱し、苦悩したり、そして音楽で自分自身も勇気を持つ。音楽を信じる、己の信念を全うする、全身全霊で。偏屈で感情のアップダウンも激しい性格、こんな人がそばにいたら、きっと逃げ出したくなるくらいだが、それを差し引いてもあまりある音楽へのピュアな心。第九は不滅、未来永劫続いていく。

<公演概要>
公演名:木下グループpresents「No.9―不滅の旋律―」
[出演]
稲垣吾郎 / 剛力彩芽
片桐 仁 村川絵梨 前山剛久
岡田義徳 深水元基 橋本 淳 広澤 草 小川ゲン 野坂 弘 柴崎楓雅
奥貫 薫 羽場裕一 長谷川初範
演出:白井 晃
脚本:中島かずき(劇団☆新感線)
音楽監督:三宅 純
[東京公演]
日程:2020年 12月13日(日)~2021年1月7日(木)
会場: TBS赤坂ACTシアター
チケット発売中
お問合せ:キョードー東京 0570-550-799
主催:キョードー東京/TBS/イープラス/木下グループ
公式サイト:http://www.No9-stage.com
取材:高 浩美