ミュージカル『イリュージョニスト』は、英国プロデューサーと梅田芸術劇場が共同で企画し、東京にて世界初演となる新作オリジナルミュージカル。ワールド・プレミア公演 海宝直人ら実力派が集結!いよいよ初お目見え!
原作は、ピューリッツァー賞を受賞した作家、スティーヴン・ミルハウザーによる短編小説『Eisenheim the Illusionist(幻影師、アイゼンハイム)』で、2006年にはエドワード・ノートン主演にて映画化(2008年日本公開)。ウィーンを舞台に、天才幻影師と公爵令嬢の禁断の愛、傾国の危機が迫るオーストリア皇太子の苦悩、嘘と真実に翻弄される人間模様を、巧みなストーリー展開と華麗なトリックで描き話題となった作品を、日英共同企画の新作ミュージカルとして製作、世界初演が2021年1月18日に日本にて開幕予定であったが、カンパニー内にて新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認され、稽古を一時中断、状況を踏まえて検討した結果、当初予定していた演出プランではなく、演出内容を変更してコンサートバージョンの形で上演することになった。日本のみならず世界中の舞台芸術業界が危機的状況の中、イギリス、アメリカ、そして日本のクリエイティブスタッフが一丸となって幾多の困難を乗り越え、ようやく初日にこぎつけた。クリエイティヴチームは英国の演劇プロデューサーで、ウエストエンドのヒットメーカーとして名高いマイケル・ハリソン、脚本は、アウター・クリティックス・サークル賞の脚本賞にもノミネートされたピーター・ドゥーシャン、音楽はロンドンで最も注目される若手作曲家マイケル・ブルース。演出には、ミュージカル『タイタニック』、『グランドホテル』、『パジャマゲーム』等、日本でも定評のあるトム・サザーランドと世界で活躍する実力派スタッフ。キャストはアイゼンハイム役の海宝直人を始め、皇太子役に成河、公爵令嬢ソフィ役に愛希れいか、ウール警部役に栗原英雄 、そして 興行主ジーガ役を濱田めぐみと、日本を代表する実力派。まさに国際的にも水準の高いチーム!期待値は大いに高い。
舞台上にオーケストラ、中央に正方形の舞台、その周囲を木製のシンプルな椅子が取り囲んでいる。中央にウール警部(栗原英雄)が登場し、「世界を回す者が真実」と歌う。さらに「全ては幻」とも歌う。ふとシェイクスピアの「マクベス」や方丈記の一節が脳裏に浮かぶ。興行主ジーガ(濱田めぐみ)「この世は芝居」と続けて歌う。ダンサーたちが踊る、妖しく、艶やかに。赤、黒、ゴールドなどを基調にした衣裳がより艶めかしさを演出する。中央にアイゼンハイム(海宝直人)、イリュージョニストだ。イリュージョン、幻影、錯覚、幻、勘違いなどの意味がある。人間、あるいは大きな動物が出現、消失、変化、浮揚するなど、大掛かりな仕掛けを用いた奇術、イリュージョンを演じる奇術師をイリュージョニスト(illusionist) と呼ぶ。そこを頭の片隅においておくとその後の展開も「なるほど」と思えるし、映画を観ていれば、ストーリーは先刻承知。
アイゼンハイムの幼馴染である公爵令嬢、ソフィ(愛希れいか)、心を寄せ合った仲であったが、身分違いでその恋はかなわず、ソフィはオーストリア皇太子レオポルド(成河)の婚約者となっていた。
印象的なナンバーの数々、メインキャストの圧倒的な歌唱力、いやがおうにも心揺さぶられる。演出プラン変更で当初考えられていたものとは異なり、コンサートバージョン、ということだが、この中央の舞台があたかも能舞台のよう、もちろんセットはない。このシンプルさが物語をよりクローズアップさせてくれる。装置の転換がなく、雰囲気を盛り上げる小道具などがない分、歌、芝居だけで見せて行かなくてはならない。苦肉の策の演出なのかもしれないが、”Simple is best”という言葉がふさわしい。アイゼンハイムは歌う「私の仕事は人を欺くこと」と。しかし、欺くことは本当に悪なのか? 奇術師はあっと驚く仕掛けで欺くが、観客は拍手喝采する。哲学的でもあり、ちょっと考えさせられる。ソフィは人生が虚しいと歌う、自分自身が望まない結婚、それは自分自身を欺くことになるのでは?とも思う。ミュージカルナンバーの一つ一つが、観客の心に刺さってくる。そして、ストーリーも仕掛けが仕掛けを呼ぶ。アイゼンハイムとソフィの関係がわかり、”怒髪天を突く”というくらいに激怒する皇太子レオポルド。正義感が強く、熱い男。ハプスブルク帝国は傾きかけている、19世紀末となれば、20世紀に勃発する第一次世界大戦、その前夜、混沌としたヨーロッパの世界情勢。そして現代もまた、先行きが見えない時代、ついにレオポルドは剣を抜く。その夜ソフィが死体となって発見。彼女は誰に殺されたのか、ウール警部は捜査する。そして、彼がたどり着いた先は???アイゼンハイムは?レオポルドは?
推理する要素もあるが、なんといっても歌、ステージング。情景が浮かぶようなフォーメーション、そして正方形の舞台上で人々が交錯し、その周りに配置されている椅子にキャストが座ったり、あるいは椅子を動かしたり、そこでダンスをしたり、その複雑な動きで物語を際立たせている。本来の演出はどういうものだったのだろうか、と考えるのも一興であるが、このシンプルな見せ方!転換がない分スピーディだ。ラストはまさに”イリュージョン”、正義や真実、様々なことに思いを巡らせることができる。奥深い、深淵な作品だ。様々な困難を乗り越えてようやく初日にこぎつけたということだが、キャスト・スタッフ陣の気合いと舞台芸術に対する熱い想いも感じる。あっという間のおよそ2時間。公演日程は短くなってしまったが、劇場に行けるなら必見な作品。公演は29日まで。
なお公開ゲネプロ直後、主演の海宝直人から挨拶があった。「たくさんの山を乗り越えて、ここまでたどり着きました。三浦春馬さんを失い、どのような形で公演をするべきなのか、僕自身も悩み、(周囲と)相談させていただきました…この作品は真実、うそ、何が正義で何が悪か?を問いかけています。自分たちで考えることが必要となった今の時代に合っている」と語る。「この作品をご覧になっていただいて、自分で考える善悪が、もう片方から見たら違うかもしれないと考えてもらえるような機会になれば、と思います。短期間で作りましたが、その苦労を感じさせることなく、楽しんでいただけるような舞台をお届けしたい」と挨拶。緊急事態宣言が発令され、連日テレビで新型コロナウイルスについて聞かない日はない。現代のコロナ禍で、今まで気がつかなかった様々なことに気づかされている今日。”○○警察”という言葉も生まれた。”正義”を振りかざす、それが正しいと思ってしまう、そんな現代の事象とこの作品が脳内でシンクロする。様々な意味で今日的な作品だ。
<STORY>
舞台は19世紀末、ウィーン。栄華を極めたハプスブルク帝国の斜陽。イリュージョニスト・アイゼンハイム(海宝直人)は、興行主ジーガ(濱田めぐみ)と共に世界中を巡業していた。ウィーンでの公演中、偶然にもアイゼンハイムは幼い頃恋心を寄せ合った公爵令嬢、ソフィ(愛希れいか)と再会する。だが、ソフィはオーストリア皇太子レオポルド(成河)の婚約者となっていた。傾国の危機を救うために、過激な思想に傾倒する皇太子。ソフィはそんな皇太子の熾烈な正義感に疑念を抱いていた。ひそかに逢瀬を重ね、変わらぬ愛を確かめ合うアイゼンハイムとソフィ。だが、二人の密会を知った皇太子は、怒りのあまり剣を手にソフィの後を追う。その夜、ソフィは死体となって発見される。事件の真相を探るウール警部(栗原英雄)は、様々な証言から徐々にソフィ殺害の深層に近づいて行く…。目の前に見えているものは果たして真実か?それとも虚偽なのか?
■ 公演概要
公演名:ミュージカル『The Illusionist-イリュージョニスト-』
スタッフ:
[脚本]ピーター・ドゥーシャン
[作詞・作曲]マイケル・ブルース
[演出]トム・サザーランド
キャスト:海宝直人、成河、愛希れいか / 栗原英雄 / 濱田めぐみ / 新井海人、池谷祐子、岡本華奈、伽藍琳、工藤広夢、斎藤准一郎、杉浦奎介、仙名立宗、染谷洸太、常川藍里、當真一嘉、湊陽奈、安福毅、柳本奈都子
公演期間:2021年1月27日〜1月29日 全5公演
劇場: 日生劇場
企画・制作:梅田芸術劇場
主催:梅田芸術劇場・アミューズ
お問合せ先:梅田芸術劇場 0570-077-039
公式HP:http://illusionist-musical.jp/
公式Twitter: https://twitter.com/illusionist2020 (@Illusionist2020)
舞台撮影:岡千里