キジムナー、沖縄伝説のガジュマルの木に宿る妖精。沖縄県民なら誰もが知ってる存在である。沖縄の三線が響き、キジムナーが吹く笛の音色がそれに続く。オバアが叫ぶ、オバアにしかキジムナーは見えない。キジムナーの踊りが最高潮に達しようとした時、オバアが「踊りに心が入っていない」という。幻想的なシーンから現実の世界に。環境保全とリゾート開発反対運動のデモンストレーションのリハーサル。皆が心を一つにして…ではなく、皆、それぞれの思惑がある。東京に行きたいと思っている者やリゾート開発をして村起こしをしたい者、オバアの孫であるフミオは自然が大好きでキジムナーに憧れているが、同じ孫娘のミキは都会での華やかな生活を夢見る。この村の青年・マサキはリゾート開発推進派。
そこで不思議なことが…フミオはカルカリナの力で300年昔に、神木に斧を打ち込んだマサキ、大音響とともに消えてしまい、なんとフミオの後を追って300年前にタイムスリップ!二幕は、タイムスリップしたマサキが遭遇する出来事。場所はちょうどさっきまでいた場所、ただし300年前だ。つまり琉球時代、現代人であるマサキ、当時の人々からみれば、かなり怪しい。ポケットから携帯を取り出したり!それにおののく人々。そしてそこにいた人の中に…マサキによく似た人が!ここはちょっと笑えるポイント。また、現代に戻ろうとして未来に到着、同じ場所なのに荒廃した風景にはちょっと背筋が寒くなる。
SF的な展開にファンタジックな要素をからめ、そこに沖縄の伝承を取り入れた構成。音楽、沖縄独特の三線の音色、沖縄笛、太鼓、クライマックスの合唱、沖縄特有の旋律、楽曲、言葉、そして舞台上での沖縄民族舞踊、未来へつなげたい思い、大事なもの、自然、そして人が人を思う心、そしてわすれてはならないのが民族楽器。三線は、沖縄の代表的な楽器として知られている弦楽器。太さの違う3本の弦、胴の部分は木で作られ、そこに張られているのはニシキヘビの皮。かつて「琉球」と呼ばれていた時代に中国から伝わったと言われており、最初は琉球の宮廷で流行り、次第に沖縄庶民に広がったそう。また沖縄の笛は三線ほどメジャーな楽器ではないが、哀愁を帯びた音色で出だしのところで三線の後に響く笛の音色が奥が深く、物語の深遠さを想像させてくれる。普遍的なテーマと問題提起、演出的には終始、アナログでテクノロジーは使っていないところにこだわりも感じられる。我々は未来に向けて何ができるのか、何をすればいいのか、未来への道標。キジムナーはそれを見せてくれる、そんなオペラであった。
<イントロダクション>
オペラ「キジムナー時を翔ける」は、北海道出身でありながら沖縄に魅了され、生涯のほとんどを沖縄に捧げた偉大な作曲家である中村透の台本・作曲作。
1990年度文化庁舞台創作奨励特別賞(グランプリ)受賞。
2019年2月に急逝された中村透氏を偲び、2001年以来の公演で、三回忌ともなる2021年、追悼公演として新演出で上演。
リゾート開発による自然破壊に揺れる現代の沖縄を舞台に、沖縄伝説のガジュマルの木に宿る妖精“キジムナー”を通じて過去と未来にタイムトラベルし、今日的テーマである「人と自然のあり方」「伝統の尊さ」を現代に生きる我々に優しく問い掛けるファンタジックオペラです。現代感覚の親しみやすい音楽の中に、沖縄固有の旋律や方言などで沖縄の風土色を感じさせるこの作品は、これまでに「琉球楽器が見事に調和した多彩なオーケストレーション」「沖縄旋律の広がる終幕に熱い感動」等、新聞評で絶賛され、台本を手掛けた作曲家の手腕も称賛されました。
今回、キジムナー“カルカリナ”に、沖縄出身で美しい舞台姿と確かな歌唱力で人気を得ている日本を代表するソプラノの砂川涼子と、日本オペラのベテランでありどんな役をも歌いこなすテノールの中鉢聡が同役を担い、声種の異なる二人がそれぞれどのような妖精を演じるのかに注目。沖縄のオバアを演じるのは、その存在感で高い評価を得ているメッゾ・ソプラノ、沖縄出身の森山京子と松原広美、その他人気と実力を兼ね備えたキャスティング。指揮は初演以来度々この作品を成功に導いてきた日本が誇る巨匠・星出豊、演出は沖縄出身の演出家・故粟國安彦を父に持ち、今や日本を代表するオペラ演出家である粟國淳。
公演概要
日程・会場:2021年2月20日(土)、21日(日) 新宿文化センター大ホール
台本・作曲:中村 透
総監督:郡 愛子
指揮: 星出 豊
演出:粟國 淳
出演:
カルカリナ 砂川涼子(20日) 中鉢 聡(21日)
オバア 森山京子(20日) 松原広美(21日)
ミキ 長島由佳(20日) 西本真子(21日)
フミオ 芝野遥香(20日) 中桐かなえ(21日)
マサキ 海道弘昭(20日) 所谷直生(21日)
本多 押川浩士(20日) 田村洋貴(21日)
区長 泉 良平(20日) 田中大揮(21日)
マチー 金城理沙子(20日) 知念利津子(21日)
ジラー 照屋篤紀(20日) 琉子健太郎(21日)
合唱:日本オペラ協会合唱団 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
主催:公益財団法人日本オペラ振興会/公益社団法人日本演奏連盟
都民芸術フェスティバル2021参加公演
日本オペラ振興会公式HP:https://www.jof.or.jp