『すくってごらん』は、女性向け漫画雑誌『BE・LOVE』にて2014年第10号から2015年第2号まで連載された大谷紀子によるコミック。銀行の東京本店から奈良県大和郡山市にある支店に左遷させられる形で転勤した元エリート銀行員が、金魚すくいとそれを取り巻く人々との出会いを通じて成長していく姿が描かれる。
映画では主人公のKDS銀行の銀行員である香芝誠(尾上松也)が東京本店から左遷の形で転勤してくるところから始まる。肩を落とし、がっくりした姿で歩いていると背後から金魚を積んだ車が。運転していたのは王寺昇(柿澤勇人)、車に乗せてもらい、ようやく街にたどり着くが、そこは…金魚の街だった…。ファンタジックで不思議な光景、そこで香芝は金魚すくいの店を営む生駒吉乃(百田夏菜子)に出会う。出会った男性なら誰もが惚れてしまうと評判の美人。香芝は淡い恋心を抱くようになる。
映画らしい表現で綴る作品、この脚本を手がけた土城温美さんに脚本執筆のことや作品、キャストさん等について語っていただいた。
ーー原作はコミックですが、原作の印象や感想をお願いいたします。
土城:まず、「金魚すくい」が競技であり、大会なども開かれているということすら知らなかったので、それを題材に取り上げていることがとても面白いと思いました。そして、主役の香芝自身が、そういった競技とは無縁の男であることから、どんな化学反応が生まれるのかな?と読み始めからとてもワクワクしましたし、香芝が金魚すくいにのめり込んでいくのと同時に、こちらも物語にのめり込んでいく…という感覚で読ませて頂きました。そして何より、大谷先生の描かれるキャラクターはとても魅力的で、誰もが「可愛げ」を持っていて、それぞれが読み手の心をくすぐって来る、という印象でした。ですので、脚本化するときにも、それぞれが持っている可愛らしさを活かせたら…と常に考えていました。そして、印象的なセリフも多かったので、映画にも、ところどころ、大事な場面で使わせて頂いております。
また、金魚すくいの場面も含めて、とても躍動感があり、作品自体もリズミカルな感じがしましたので、そのあたりから、監督の『音楽をたくさん使った作品にしたい』、というアイディアも生まれたのでは…などと思いました。
ーー映画の方はかなりファンタジックですが、脚本執筆にあたって、工夫したところや楽しかったところなどをお聞かせください。
土城:とにかく脚本作りが、最初から最後まで楽しかったです(笑)
もちろん、構成や推敲にあたっての苦労はとても多く、何度も打ち合わせを重ねて練っていきましたが、その作業も「これがどう映像になるんだろう」と想像しながらだったので、毎回ワクワクしていました。
ただ、脚本としては、構成も映像表現もなかなかぶっ飛んでいるだけに(笑)原作にあるキャラクターの良さを活かしつつ、彼・彼女たちが人間としてどのように変容、成長していくかについてはきちんと、見る側の腑に落ちるようにしたいと思って書きました。
それから、初めて本格的に作詞をさせて頂いたことも、とても楽しかったです。
作詞家のMioさんのお力を借りながら、バラードからラップ、王道ポップスまで、様々な曲にチャレンジできたのは、素敵な体験でした。もちろん、作品のカラーに沿いながら、セリフとは違う形で心情や状況を表現するのはとても難しい作業ではありましたが、鈴木さんの音楽が世界観を作って下さっていたので、それを指針に歌詞も膨らんでいきました。
ーーキャストも尾上松也さんはじめ、個性的な方々が揃いました。キャストさんの魅力などをお願いいたします。尾上さんはプライド高いバンカー、百田さんは謎めいたキャラクター、柿澤さんは飄々とした感じで三者三様で印象的でした。
土城:この作品は、このキャストの皆さんだからこんなに楽しく素敵なものになったのだと思います。もともとミュージカルファンなので、松也さんのお歌のうまさについては知っておりましたが、今回、改めて歌声をお聞きして、その声自体がとても魅力的で、うっとりしてしまいました。そのお声で、私が書いた変な歌詞なども素敵に歌い上げてくださるので、それが面白くもあり、申し訳なくもあり、という気持ちになりました(笑)そして、香芝誠という何を考えているか分かりづらく難しいキャラクターを、魅力ある人間として演じ、彼がどう町の人々と交わっていくのか、目が離せなくなったのは、もともと松也さんご自身が持っている人間力のようなものが大きく影響していると思います。
百田さんはもともと、キラキラはつらつ、はじける笑顔、という印象を持っていたのですが、この作品の中では別の魅力を見せてくださったと思います。どこか寂し気で妖艶で憂いがあり、とにかく、美しい。そりゃ香芝も好きになっちゃうよね~と、納得の吉乃さんです。ピアノ演奏には、百田さんの人柄のようなものもにじみ出ているので、ぜひ、じっくり聞いてほしいです。
柿澤さんは、ミュージカルファンには嬉しすぎる配役でした。王寺はつかみどころがないけれど、誰もが心惹かれつぃまう魅力を持っているキャラクターなのですが、柿澤さんならではの表現で、それを体現してくださったと思います。歌やダンス、演奏はもちろんのこと、普段のちょっとしたしぐさなどにもときめいちゃいます。
石田ニコルさんは、近寄りがたい美人、というイメージを勝手に抱いていましたが、明日香のカラッとしたキャラクターをとても気持ちよく演じてくださったと思います。それが歌声にも表れていて、のびやかで心地よい声で、作品を彩って下さっています。そのほかにも、魅力的なキャラクターのキャストさんがいっぱいです。ぜひ、いろんな方に注目して、存分に楽しんでください。
ーー脚本家の立場から見どころを。
土城:松也さんも百田さんも「台本を読んだ時点では、イメージできなくてわからなかった」とおっしゃられていて、責任を感じましたが(笑)とにかく難しいことを考えずに、「感じる」つもりで映画館においでください。歌の部分も含めての物語ですので、歌詞にもぜひ、耳を傾けてみてくださいね。
そして、タイトルの「すくってごらん」って、いったい誰のこと?なんのこと?などと思いを巡らせながら見て頂くのも、一興かもしれません。
そのためには、一回じゃ分からないと思いますので、何度でも見てください!!
ーー最後にPRを!
土城:なかなか旅にも出られず、閉塞感の続く日々ですが、映画を見ている間だけは、別世界に飛んでいけるように思います。この作品は、特に映像演出が美しく、音楽も本当に楽しいですので、より一層、映画の世界に没頭して楽しめると思います。きっと、「こんな作品初めて」と思って頂けるはず!この春、桜もいいですが、真っ赤な金魚を愛でに、映画館に足をお運びくださいませ。
ーーありがとうございました。映画公開を楽しみにしています。
土城:どうぞよろしくお願いいたします!!
<概要>
公開日:2021年3月12日 TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開
3月12日(金)・13日(土) 公開記念舞台挨拶
[出演]
香芝誠:尾上松也
生駒吉乃:百田夏菜子
王寺昇:柿澤勇人
山添明日香:石田ニコル
川西:矢崎広 他
[スタッフ]
原作:大谷紀子『すくってごらん』(講談社「BE・LOVE」所載)
監督:真壁幸紀
脚本:土城温美
音楽:鈴木大輔
主題歌:生駒吉乃(Vo. 百田夏菜子)「赤い幻夜」(EVIL LINE RECORDS)
製作総指揮:酒巻正幸
製作:宮本純乃介、加太孝明、宮崎聡、羽東敏夫、長岡雅美、川上順平、巴一寿
企画・プロデュース:元村次宏
プロデューサー:梶原富治、瀬崎秀人
特別協力:井村屋グループ
配給:ギグリーボックス
制作プロダクション:ROBOT
製作幹事・企画:東通企画
製作:映画『すくってごらん』製作委員会(東通企画、キングレコード、ROBOT、ギグリーボックス、関西東通、奈良テレビ放送、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、第一通信社)
公式サイト:https://sukuttegoran.com