『日本一わきまえない女優「スマコ」~それでも彼女は舞台に立つ~ 』4月27日20時より無料公開

約100年前のパンデミックで起きたこと
差別、不倫、感染、疑惑、絶賛、まだ女優が女性を演じられない当時、スキャンダルだらけの女優・スマコは、一途に愛と舞台を生きた戦う女性だった

明治から大正にかけて活躍し、日本の女優第一号ともいわれた女優・松井須磨子は、愛する人を当時世界的に大流行していたスペイン風邪で失うこととなっても、なお舞台に立ち続けようとした。『そこまで彼女を突き動かす原動力は何だったのか』『彼女は何を思い、舞台へ上がったのか―?』そんな女優・松井須磨子の、強く、儚い 生き様を描いたリーディング演劇を紡ぎ出す。
本プロジェクトの中心となるのは演出家・宮本亞門、そして主演は大和田美帆が務め、。2人のもとに有志のキャスト、スタッフが集まった。クラウドファンディングに挑戦し、2日間で目標達成したが、広がり続けている。

▼総合演出・宮本亞門 コメント
緊急事態宣言下だからこそ見て欲しい、演劇を無料配信します。約100年前一世風靡した大女優、松井須磨子は、スキャンダル、中傷、女性差別を受け、スペイン風邪のパンデミック禍で、自らの生き方を全うしました。その姿は、女優、大和田美帆の全身全霊の挑戦で、皆さんに「本気で生きる凄み」を感じてもらえると思います。是非、ご覧ください!

▼稽古場レポート

稽古初日。スタジオ収録は一週間後で新型コロナウイルス感染拡大防止のため、一回目はリモート稽古だった。キャストとスタッフ勢ぞろいで対面稽古でないので、全員マスクを外して、和やかな雰囲気で顔合わせが始まった。どうやらキャストは宮本亞門の一言から、一年前に最愛の人をコロナで失った大和田美帆への義に応じて、手弁当で参加しているようだ。なんと演出も監督も脚本も収録スタッフもプロデューサー達もみんなが手弁当である。全員がコロナ禍で大打撃を受けている演劇界にそれぞれメッセージを届けようという思いが挨拶の言葉に込められていた。しかしコロナ禍だからこそ、これほどの豪華メンバーが短期間で集まって一本の映像演劇を作ることができるのかもしれない。

宮本亞門は一年前の緊急事態宣言一回目の時に松井須磨子でリモート演劇を作ることを脚本の池谷雅夫に依頼して、そこから実現に向けて紆余曲折ありながら、クラウドファンディングでリーディング演劇を映像作品として無料公開することに至るまでの経緯が語られた。ほんとに予算がないんだな……って、ひしひしと伝わってくる。そして、最初の読み合わせが始まった。シーンが終わる毎に止めて宮本亞門が台詞の言い回し、役の感情、キャラクター、など細部にわたって演出をつけていく。役者も事前に台本が渡されているのもあってか、波岡一喜が最初の読み合わせで画面からはみ出てくるような粘着質ないやらしい刑事を演じて、大和田美帆演じる松井須磨子を追い詰めていた。土屋監督との縁で参加した津田寛治は、初めての宮本亞門演出を子供のように無邪気に喜んでいたが、ナレーターと朗読のト書き読み、そしてワンポイントの劇場主の役で、しっかりと亞門ワールドで輝きを放っていた。撮影の合間を縫って稽古に参加した西岡德馬も憎たらしい坪内逍遥役を絶妙に演じ、共演者から嬉々とした笑いが起こる。大和田美帆は直情的かつ情熱的な松井須磨子を演じ、島村抱月演じる福士誠治は須磨子との関係の距離を探っている。本妻の市子を演じるまりゑの情念深い演技、そして、共演者で一番若い堀井新太は須磨子を密かにお慕いしている付人の春男をコミカルに演じていた。その中で役人役を演じる水谷あつしに、もっともっと情けない小役人を演じて!と注文する宮本亞門。台本を見ながら演じるリーディング演劇ながら、すでに大正時代のリアルな空気感が出来上がろうとしていた。さらに土屋監督からカメラワークの指示と演出もあり、何か新しい表現が生まれるのではないか……と、心の中でワクワクする稽古初日だった。

二回目の稽古を覗かせてもらった。この日は稽古場で役者・スタッフ全員にPCR検査が行われ、稽古中もキャスト・スタッフはマスクを常に着用。検温・消毒・換気と細心の注意を払った対策が取られていた。
そんな中、役者から本番の衣装が持ち寄られて衣装合わせが始まった。えええ~!これだけのメンバーで自前の衣装を持ってきたり貸し合ったりするってなんか小劇場の劇団みたいで新鮮!なんて心の中がどういうわけかキラキラした気分に…(笑)。福士誠治と波岡一喜が20代の頃に共演した思い出話に華を咲かせる中、宮本亞門と土屋監督が役のイメージに合った衣装を決めていく。
そしていよいよ、最初で最後の立ち稽古! シーン稽古では土屋監督がカメラワークと役者配置が説明され、そこに台本を持った役者が様々なアプローチをして、宮本亞門がさらにアクティブな演出をつけていく。台本を持ってのリーディング演劇なのに、台本があるようないような、熱気ある芝居の掛け合いが繰り広げられる。舞台演出家と映画監督によってシーンが彩られていく稽古場は今まで見たことがなくて、新鮮で面白かった。何よりも宮本亞門が特段に嬉しそうで、シーン稽古が終わったら、少しの休憩を挟んで、マスクを着用したまま初の通し稽古。筆者は稽古中に宮本亞門が全く水を飲まないことを心配していたが、それを忘れるほど作品が立体的になり、全シーン出ずっぱりで挑む大和田美帆の熱演も相まって50分の通し時間があっという間に過ぎ去った。とにかく、宮本亞門の大和田美帆に対する演出は注文が多くて細かい。大和田美帆には松井須磨子を演じる重圧もあるはず。さらに手練手管・経験豊富な俳優陣と対峙して挑むわけで、それでも、パワフルに通し稽古を乗り切った。
通しの後、キャスト・スタッフの熱気が換気で冷却されていくのがよくわかった。やはりリモート稽古では体感できない稽古場の醍醐味があるのだな…と、わかっていながらも体感してつくづく思う一夜になった。

そして、三回目の最終リモート稽古。スタジオでの本番収録がもう明後日に控えているが、そこはさすがさすがで、役者陣は見事に芝居を仕上げていた。
対面ではないが大和田美帆演じる松井須磨子の喜怒哀楽に胸が熱くなり、福士誠治演じる島村抱月の須磨子への愛と演劇に対する情熱が伝わってきた。たった三回の稽古で二人は愛憎入り混じる純度の高い濃厚な男女を表現していた。
短い人生を妥協せず、わきまえない女として日本中からバッシングされても、精一杯女優を演じ続けた松井須磨子の生き様は、演劇を知る人も演劇を知らない人も年齢も性別も問わず、全ての心に強く美しく刻み込まれるに違いない。ぜひ松井須磨子の楽屋を見届けてもらいたい。力強い希望を持てるようになるはずだ。
最後に、このリーディング演劇はきっと新しい表現を打ち出せるはず――エンターテインメントが持つ無限の可能性を信じられる、そんな期待感が高まる稽古場だった。

=あらすじ=
大正7年11月夜。とある芝居小屋の楽屋。壁には松井須磨子主演『カルメン』ポスターと【本日初日】の貼り紙。
芸術座の見習い劇団員、一ノ瀬春男とともに楽屋で支度をする松井須磨子。その隣にはひとりの男の姿が。
そこへ刑事・曽根崎徳夫と若い役場の中年・矢代廉太郎がやって来て、須磨子に島村抱月を殺害したのではないかと尋問を始める。
抱月とは須磨子が、愛した男で、つい数日前にスペイン風邪で命を落としていた。
「愛する人間の葬式を終えたばかりだというのに舞台に上がるのか?」、「お前がかかっていたスペイン風邪を故意に抱月へ感染させたのではないか?」と言いがかりをつける二人。さらには抱月の本妻・市子もやって来て、「お前が抱月を殺した、舞台に立つ資格などない」 と須磨子に迫る。
スペイン風邪という流行り病によって、愛する人を失っても、舞台に立ち続けようとする女優 松井須磨子。
彼女を突き動かすものは、一体何なのか?そして、須磨子の隣にいる男は、はたして誰なのか?
日本の女優第一号ともいわれた松井須磨子の、【強く】、【儚い】、 その生き様を鮮やかに描く ―。

<概要>
日本一わきまえない女優「スマコ」~それでも彼女は舞台に立つ~
公開期間:2021年4月27日(火)20:00~ 2021年12月31日(金)
視聴方法(YouTube/公開期間は無料視聴が可能):
https://youtu.be/JXG1RGNhSOg
※4月27日(火)20時公開
◆出演者
大和田美帆、福士誠治、波岡一喜、堀井新太、まりゑ、水谷あつし、西岡德馬
/津田寛治(ナレーター) ※德は旧漢字
◆スタッフ:総合演出:宮本亞門
脚本:池谷雅夫
監督:土屋哲彦
プロデューサー:橘阿鴻
◆クラウドファンディング実施期間(【READYDFOR】を利用)
2021年4月8日(木)12:00 ~ 5月7日(金)23:00
プロジェクトページURL:https://readyfor.jp/projects/sumako_project
◆主催:2021『スマコ』~それでも彼女は舞台に立つ~ プロジェクト