《インタビュー》『新・幕末純情伝』 FAKE NEWS 演出 河毛俊作

類まれなる劇作家・つかこうへい。もしも存命なら今年で70歳になる。この生誕70周年特別公演として名作「幕末純情伝」を「新・幕末純情伝」とし、サブタイトルを“FAKE NEWS”として上演する。主演の沖田総司役に北原里英、相手役となる坂本龍馬に味方良介、その他、旬の若手俳優が集結。演出はつか作品を知り尽くしている河毛俊作。そんな河毛氏につか作品との出会いから今回の作品について等、存分に語ってもらった。

ハイカルチャーな演劇に喧嘩売ってるところがあった。いろんなことに対してね。そういう革命的な凄みっていうのかな・・・・・・そういうことですね。

――初めてのつかこうへい作品体験は?いつでどの演目でしょうか?古い話で恐縮です。

河毛:正直、どの作品が最初だかわからない(笑)、VAN99HALL(注)とか、そういうところだったような気がするんです。あまりにもたくさん観ているんで、ただ、70年代の、ある時代の熱気みたいなものに対しての自分が漠然と持っていたイメージみたいなものが全部、裏切られた。その想いはすごくしましたね。僕はどっちかっていうと映像畑、映像の好きな人間だった。世代的には、東京キッドブラザースとか、そういうものがちょうど出てきた時代に僕は高校生とか大学生の最初の頃だった気がするんです。つかさんの芝居ってそれまでのものとは全く違うものという印象です。最初に「これ、何なんだろう」って思って戸惑って。あの一種の外連味っていうのかな?すごく下世話なものとすごく志の高いものが行ったり来たりしてるみたいな、モード感があった。モードっていう言葉を使ったのは、例えば貴族や王様が着るようなすごく上流階級が着るようなゴージャスなものとブルージーンズに代表されるような労働者のワークウエア的なものの間を行ったり来たりする永久運動、そんなようなものを感じた。すごくうらぶれているようで、ゴージャスであり、でもセットがあるわけじゃない、ただの素舞台なんだけど、どこかあるゴージャス感があるかと思いきや、うらぶれている、かと思うと極めて革命的な反体制的だったりするっていう、そういう間を一定の音程で進んでいくんじゃなくって常にUPDOWN、UPDOWNしながら行くっていう、そういうところがあります。つかさんの主人公って「飛龍伝」も「幕末純情伝」もそうだけど、差別されているけど、実はお嬢様っていう設定って多いじゃないですか。そういうところが他の何とも違いましたね。貴種流離譚っていうんでしょうか、本来高貴であった者がどこかに流されたとか、そういうヒロインが多いですね。また、つかさんの脚本って当たり前だけど、つじつまがあってない。あんまり見たことがない人が見ると最初は「え?」ってなる。びっくりするけど、一回、つかさんの作品にはまると「つじつまなんてどうでもいいや」って。

――確かにどうでもよくなりますね。

河毛:うん。どっか演劇っていうもの、要するにハイカルチャーな演劇に喧嘩売ってるところがあった。いろんなことに対してね。そういう革命的な凄みっていうのかな・・・・・・そういうことですね。だから結果としてどういうことが起きるかっていうと、稽古をやってみて思ったんだけど、本の時点で感じたことでもありますが、古くならないんだよね。特に「幕末純情伝」は古くならない気がする。例えば「飛龍伝」は70年安保の歴史的な事実が多少古くなっちゃうっていうことはあると思うんですね。ただ幕末っていうバックボーンってもう古くなりようがないじゃないですか。

――これ以上。

河毛:うん。これ以上(笑)。フランス革命みたいなモンなので、そういう意味でも繰り返し、繰り返し、使われる“ソフト”なので、そこに基盤を置いているから、つじつまは合ってないんだけど、歴史的な文脈で見てみると、各々の登場人物たちの考えていることの基本が「こういう事だったんじゃないか」っていう何かがあるんですよね。坂本は坂本の桂は桂の、勝は勝の、そういう想いでやっていたんじゃないかっていうようなものがありますね。

――見てると「本当にそうだったかもしれない」って思えてきますよね。

河毛:そう。

――と、思ってしまう。

河毛:そう。今回、あえて「FAKE NEWS」とサブタイトルつけたんですが、歴史って基本的にはみんな、「FAKE NEWS」なんですよ、僕たちが教わった事は。それはその時代、勝利した者が歴史を上書きしていくわけだから、どっかに「FAKE NEWS」の部分が絶対にあってそれを事実だと思って僕たちは生きているっていう部分はありますけど。里英ちゃんも「本当に沖田総司は女だったんじゃないか」って言ってますし。

――歴史の授業で習ったりしますが、結局ベースにあるもの、革命や戦争が絡んでいたら、勝った人の立場で・・・・・・話、盛ってますね。

河毛:絶対に盛ってる!

――それを我々は教わっている、だから全てがFAKEであり・・・・・・。

河毛:FAKEの中にリアルがあってリアルの中にFAKEがあるみたいな、それって言い換えると、それって演劇そのものじゃん!って(笑)

――演劇そのものですね。

河毛:うん。

――だから、今、現代でつか作品をやる意義ってあるんじゃないのかなって思いますね。

河毛:そうですね。だから現代社会、例えばトランプ大統領とか見てもプーチン大統領を見てると、なんとなく、つかさんの芝居に出てきそうな人ですね。

――確かに。

河毛:現実がつかこうへいに追いついたって(笑)、そういうことを感じたりしますね。

――トランプ大統領が出てきた時ってなんか不思議な感じ、しましたね。

河毛:アメリカ人以外の世界中の多くの人は誰も真面目にあの人が大統領になるとは思ってなかったと思うんだ。俺、絶対に!「えーー」みたいな。そういう時代に改めてつかさんの、こういう芝居をやるっていうのは意味があるなと言う気がしますね。

多少の何か破綻があったとしても、時代に突きつけるエネルギーを感じさせてくれるような作品になればいいなと思っています。

――色んなキャストさんがいらして、非常に面白い座組ですね。

河毛:北原さんに関しては、初めての本格的な舞台で、あと、素材としては、つかさんの、この芝居に合ってる女優さんだなと言う気がして・・・・・・目と唇、つか芝居には大事じゃないですか、目と唇!なんとなくそう思っていて・・・・・・なんか、強さと弱さのアンバランスみたいなのが、なんか、つかさんの芝居のヒロインとかヒーローってどこかバランスを崩した人の方がいいような気がする。何か、歪みがあるっていうんでしょうか、美しさの中にノイズが入っているっていうのが結構、重要。そういう意味で非常に魅力的な人だなと。味方君に関して言うと、彼の「熱海殺人事件」は二度観たんだけど、直近で観た「熱海殺人事件」は、ここ数年で観た中でも、素晴らしかった!前回は桂小五郎をやって、ステップアップっていうのかな?坂本龍馬・・・・・・どんな龍馬をやりきってくれるのか、逆にこっちが楽しみ。龍馬っていうのはやる人のキャラクター、演者の個性に合わせて、こっちも作っていくところがあるから・・・・・・一人で見せるところがたくさんある。味方君は、どういう色気を見せてくれるのかを楽しみにしています。今回、役としては桂小五郎が難しくなっている。若い田中涼星君がどこまでやりきってくれるのかも注目です。

――最後に締めのPRを。

河毛:つかさんがもしも生きていたら、自分の芝居をどんどん、変えていったじゃないですか。常につかさんの芝居は生き物なんです。躍動し続ける「幕末純情伝」っていうのかな?「幕末純情伝」っていうのは古典のように形を綺麗に見せるんじゃなくって多少の何か破綻があったとしても、時代に突きつけるエネルギーを感じさせてくれるような作品になればいいなと思っています。抽象的な言い方で申し訳ないですが、そういうことが大事なんじゃないかなと思います。

――つかさんが生きていらした時、一つの作品が本当に見るたびに・・・・・・。

河毛:変わっていく。妙な変わり方をして「え?!」っていうのもあるんだけど(笑)、でも、それがつかこうへいっていう人だから。あの人は人生そのものが芝居みたいなところがあるからね。それを僕は想像の中でフォローするっていう言い方は変だけど、何か、つかさんが生きていたら、こういう「幕末純情伝」やったかもしれない・・・・・・いや、やらないな、俺と価値が違うから、もしもつかさんが観たとしても、「良かった」って言われないものを作りたい。

――逆に。

河毛:そうそう。

――それもまた、楽しみですね。

河毛:うん。でも、どっちにしろ、クリエイターとか、ものを作る人間の一番の喜びっていうのは自分が見たことのないものを作りたいってことですから。自分が観たことのない「幕末純情伝」を作りたいってことですね。

――そこですね。

河毛:うん。それがどういうものになるかは観てのお楽しみ、ご覧になっていただいてのお楽しみってことになっちゃうんですけどね。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

(注)VAN99HALL:東京・青山に1973年オープン。1974年8月つかこうへい作品「初級革命講座〜飛龍伝」上演。その後、「ストリッパー物語」「熱海殺人事件」が上演された。1976年には野田秀樹作・演出の「走れメルス」が上演された。1978年株式会社ヴァンヂャケットの倒産により閉場。

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【概要】
『新・幕末純情伝』 FAKE NEWS
期間:2018年7月7日(土)〜7月30日(月)
会場:紀伊國屋ホール

作:つかこうへい
演出:河毛俊作
出演:
沖田総司役:北原里英、坂本龍馬役:味方良介、土方歳三役:小松準弥、桂小五郎役:田中涼星、新撰組隊士二宮役:増子敦貴、岡田以蔵役:松村龍之介、勝海舟役:細貝 圭
久保田創 大石敦士 須藤公一 山田良明 榛葉恵太 大西けんけん 岡元次郎 佐藤賢一

公式サイト: http://shin-bakumatsu2018.com

提携:紀伊國屋書店
協力:つかこうへい事務所
制作:アール・ユー・ピー プラグマックス&エンタテインメント

主催:エイベックス・エンタテインメント

文:Hiromi Koh