《インタビュー》ナイスコンプレックス N32 フリーカル『YAhHoo!!!!』2021 作・演出 キムラ真 ヤンスケ役 柏木佑介

この作品は2018年にナイスコンプレックス初のオリジナル音楽劇として誕生し、この2021年で3回目の上演となる。東日本大震災の原発被害により、強制退去させられた福島県浪江町を舞台に、残された動物たちと故郷に戻れない人間たちの葛藤を歌と祭と演劇で描く。

主演・犬の妖怪ヤンスケ役には、柏木佑介、ヤンスケの飼い主・優治役に浅倉一男。 優治の婚約者には、富田麻帆。 さらに三上俊、 松本寛也(秋田県出身)、早乙女じょうじ(福島県出身)、後田真欧((文学座),福島県出身)、赤眞秀輝(ナイコン)、濱仲太(ナイコン)ほかがキャスティング。 脚本・演出は劇団の主宰でもあるキムラ真(宮城県出身)、「いつか浪江で上演!」を目指している。
過去には東京に加え、福島県いわき市でも上演。今回の2021年版も東京といわき市での上演予定、少しずつ、浪江町に”接近”。 今年は震災から10年、風化させないためにも【悲劇】だけではない【希望】の物語を紡いでいく。
ヤンスケを演じる柏木佑介さんと脚本・演出のキムラ真さんのインタビューが実現した。

――今回3回目の公演ですが、今までの手応えはいかがでしょうか。

キムラ:福島の話なんですけれど、震災の話というよりは「形がなくなってしまったふるさと」というお話。いろいろな形でなくなってしまった東北、そこには待っている人がいる。人でなくても動物だったり、森だったり。それは今も待ち続けているんだよ、というのが大きなメッセージなんです。
福島県の浪江町という場所が舞台で、そこは今でも帰宅ができない場所がある町なんです。昔を取り戻すという意味では、知ってもらうことがいちばん。浪江に住んでいた人が戻れるだけでなくて、昔あったお祭りの様に、福島以外の人も集まって来る、それを実現させる事は奇跡のような出来事だと思いますけれど、舞台でちょっとした奇跡を起こせるのであればそれが波状していつか必ず叶うんじゃないかなと思ったんです。
これまでの2回の上演で、浪江という街を知らなかった人たちも知ってくれるようになったので、小さな奇跡は起きているのかなと。なので続けていきたいです。いつか浪江で本当にお祭りをやれるようになるまで。初演からおよそ1万人くらいの方に観て頂き伝わっていることで確かに手応えを感じます。

――それでは、出演が決まった時の感想は?

柏木:僕は別作品でキムラさんと出会っていて、個人的にその演出ぶりに惚れたんですよ。すごく魅力的な演出だなと。初演の時の話になりますが、キムラさんとまたいろいろなことができること、成長できるということにワクワクしていました。
それに、僕はこの作品を初めてやるときに、知らなければと思って浪江に行ったんです。ここにいる、待っている動物の役をやるんだなと思いながら車を走らせました。更に(演出で)お客様が舞台に上がってくれるという奇跡を目指したいというところはなかなか難しいと思いました。初めはそれができるイメージがわかなかったので、不安もありました……。でも僕が初めて主演させていただける作品だったので、うれしかったですね。

――この作品に登場するのは、かつて人間に飼われていた動物たちの化身(妖怪)なんですよね。ヤンスケは地震が起こる直前の記憶しかなくて、ご主人様を待ち続けるという――

キムラ:当時、それこそ大事な「モノ」、動物だったり家だったり。そういうのを残してきた人にとって「どうしてこんな悲しいことを思い出させるんだ」となるかもしれない、実際そういう演劇もあるし。でもこの物語はそうではなくて「そっか、彼らは待ってくれているんだ」と。残してきた人には罪の意識がありますので「あなたたちは悪くないんだよ」と少しでも感じて貰えたらいいなと、救うとまではいかなくてもね。

――その中心にいるのが、犬の妖怪となったヤンスケ。ファンタジー的な要素を交えながらのお話ですが、リアルすぎるとちょっと心情的に難しいかもしれませんが、当時を知る人にとってはファンタジー的な作品なのがよかったのではないかと思います。

キムラ:今年、2011年からちょうど10年目にあたりますが、3月11日にテレビで震災のスペシャルドラマをやっていたんです。そこでは津波の瞬間を、大事な人を失った瞬間をすごくリアルに描いていた。僕は東北出身なので、実家が流されているのですが、それを観たときに過呼吸気味になってしまったんですね。これまでそんなこと一回もなかったのに。忘れたくない一方で、思い出したくなかったんでしょうね、その瞬間を。その一方、故郷を思い出す時はいいことばかり。それが、ふるさとの情景であったり、お祭りだったり。東北の人間だけでなく、どんな人でもそうだと思うんです。誰もが思えるふるさとの物語を作って行きたかったんです。

――実際、演じてみていかがでしょうか。

柏木:稽古がはじまったら先程お話した不安は杞憂でした。僕の役は、暗い雰囲気を明るくするのが使命なので。愉快な妖怪たちもそこにはたくさんいたりして。人を、動物を、生き物をハッピーにしていくのがヤンスケ。今の世の中にもとてもハマるんじゃないかと思うんです。観ると元気になる作品だと思います。

――しかもちょうど今、新型コロナウィルスの件もあります。舞台は軒並み中止になったり、連日ニュースでも暗い話題ばかり。というところでの、この作品を上演する意味はあるのだなと思いました。

キムラ:この作品は「復音劇(フリーカル)」。もともとは音楽が好きで、お祭りを取り入れようというのが始まりなんです。歌が上手くなくても踊りができなくてもいい、そんなお祭りの延長線上として舞台をやりたいなということで、復音劇(フリーカル)というジャンルを新たに作ったんです。芸術って人それぞれだし。扱うテーマもデリケートなものですし。だから、妖怪に扮した演者たちが楽しく踊って、人間も一緒になって、子供からお年寄りまでみんな一緒に参加でき楽しめる。その中で大切なテーマがしっかり存在する。それが僕が思う「復音劇(フリーカル)」です。

――お祭りってたしかに、みんな参加できるものですしね。

キムラ:選ばれた人だけがやれる、ではなくて誰でもやれるという…。

柏木:歌唱力を求められたら僕は選ばれなかったでしょうね(笑)。

キムラ:柏木佑介にとって初めての主演舞台作品というのは僕にとっても大きくて、柏木佑介の代表作として語られるようになったら嬉しいですね。初めてのジャンルですから。浪江でいつか大きなフェスをやった人間として、一番上に書かれる名前は「柏木佑介」と。

――ゆくゆくは浪江で上演させたいという野望があるわけですね。

キムラ:『YAhHoo!!!!』という作品が認知されるだけでなく、浪江や東北の沿岸部の復興というのも考えているんです。浪江には駅側と海側があるんですが、駅側は何とか復興が少し進んで家が建ったんですが、海側がやはりまだまだ。僕としては祭りを海側でやりたい。舞台を観てくれた人が「訪れる人が多ければそれだけ活気が出る」って言ってくれた事があって、祭りをやって浪江に人を集めたい。僕らの動きは小さいことかもしれないけれど、例えば3年後とか明確にしたうえで上演を決めたいなと思っています。

――目標があると進む力ができますね。いろいろな動物のキャラクターについては、やはり考えた上で種類が決まったのでしょうか。

キムラ:犬、猫、牛、馬、豚、鳥、猿。実際に浪江で取材をして決めました。人間に関しても「特別」ではなく「普通」の人という設定です。「お祭りをやる」という事は、物語上は誰しもが同じ境遇になったらできることです。なかなか当たり前のことができない状況ではありますが、お姫様も勇者もいないけれど、普通の人ががんばればヒーローになれる、という物語になっています。

――次回の公演に向けての抱負はいかがでしょうか。

キムラ:今年は新型コロナウィルスという問題がある中での上演になります。今までやってきたいちばんの目玉……すなわちお客様が舞台に上がるということができないので、お祭りの瞬間は撮影をしていただこうかと。それを拡散していただければ。お客様が作品の一員となってお祭りを盛り上げ、客席から動かなくても参加できることがテーマ。今年用の脚本に直しているので、今まで楽しんできた方でも、震災がテーマだから重いかなと思っている人でも問題なく楽しめるエンターテインメントになっていることを、お伝えしたいですね。

柏木:全く暗い話ではないんです。どんな人でも楽しめて。観終わったときにいろいろな感情を抱えたとしてもそれが暗い感情には決してならない。たくさん涙を流すかもしれないしたくさん笑うかもしれない。それでもハッピーになれるお話です。今の世の中、エンターテインメントが厳しい状況ですが、あたたかい作品の世界観がとても伝わる作品になっているので、ぜひ観てほしいと思います。みんなでいいお祭、いい作品を作っていきたいです。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

▼フリーカルとは▼
「歌って上手い人だけが歌うもんだっけ?祭りはそうじゃねぇ!楽しいから歌うんだ!」 その概念から生まれたナイコン独自の復音劇(フリーカル)。 誰もが歌っていい、踊っていい、参加しいていい、再び立ち上がる為の音楽劇。それを「フリーカル」と名付けました。本作では更に、客席とステージの壁を無くすことに成功。 過去公演の祭のシーンではお客様もステージに上がり歌い踊りました。

▼浪江でお祭をしよう▼
福島県に人を呼びたい、集めたい。「浪江でお祭をしよう!」、これがこの演目の最大目標です。 現在震災から10年が経ち、浪江にも人が戻って来ましたが元通りとはいきません。地元の人は「いきものが再び集まる場所」にする為に踏ん張っています。

≪あらすじ≫
福島県、浪江町。あの日から全く変わらない風景の中、遠い景色に叫ぶ声が聞こえる。 『ヤッホーー!!!!』 その声の主は言われている「もう人間は居ないんだ」
『ヤッホーー!!!!』 「居るよ!だって、僕の声にちゃんと答えてくれるから!」
木霊して返って来るその音を信じて、ヤンスケは今日もご主人様を待っていた。
この物語の主人公の名前は「ヤンスケ」。千切れた首輪に残された名前。彼は犬だ。そして、妖怪である。
急に人間たちが居なくなった場所がある。残された動物たちは、死んでしまいました。
そして、今日も妖怪として楽しく暮らしています。
あの日から10年。帰ってもいいよと言われたのに、人間たちは帰って来ません。妖怪たちは考えました。
そうか、ここが愉しくないから帰って来ないんだ。 ある日、ヤンスケを中心とした妖怪たちはお祭りを開催します。
福島から離れて暮らしていた浜花優治(ハマハナマサジ)は故郷に帰ろうとしていた。
入れるようになった場所に、戻れない現状。なくなったと思った場所は今も変わらぬ姿で存在する。
ただそこにあるのは、自分の知っている思い出とかけ離れた違和感。
ずっと引きずっている記憶。残してきた家族に会いたい。
ひかれ合う情の中で、見えない壁が想いを遮る。また昔に戻る事は出来るのか?昔ってなんだ?
何が起こったらハッピーエンドになるのか? 奇跡を超えた瞬間を、今求めあう。

<公演概要>
タイトル:ナイスコンプレックス N32 フリーカル『YAhHoo!!!!』2021
日程・会場:
[東京]
2021年6月4日(金)~6月6日(日) シアターサンモール (6月3日プレビュー公演)
[福島]
2021年6月12日(土)、13日(日) チームスマイル・いわき PIT
[出演]
柏木佑介/浅倉一男、富田麻帆
三上俊、松本寛也、早乙女じょうじ、後田真欧(文学座)、赤眞秀輝(ナイコン)、濱仲太(ナイコン)
<Aチーム>
わかばやしめぐみ(おぼんろ)、野口真緒、安孫子宏輔、林千浪(おとな小学生)、石川志織、彩未理加、 片山浩憲
<Bチーム>
紅林里美(ナイコン)、夏目愛海、渡部大稀、大久保悠依(ナイコン)、北野くるみ(ナイコン)、 早野実紗(ナイコン)、キムラ真(ナイコン)
[スタッフ]
作・演出:キムラ真
振付:美木マサオ(マサオプション)、ドラマトゥルク:大久保悠依 音楽作曲:橋本啓一、作曲原案:紅林里美、編曲&音楽作曲:市川真也(マサオプション) 舞台監督:今泉馨(P.P.P.)
主催・企画制作:ナイスコンプレックス
公式HP:http://naikon.jp
構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美