劇団スタジオライフ 『VAMPIRE LEGENDS』寂しい魂と魂が呼応し、寄り添う

原作は『カーミラ』 (Carmilla) 、アイルランド人作家ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュが1872年に著した怪奇幻想文学またはホラー小説。スタジオライフではこの作品を過去2回上演、今回は原作と同じ設定の女性版とメインキャラクターを男性に置き換えた男性版と2つのバージョン、現在上演中だ。
男性版はヴァンパイアの名前をゼーリヒとし、主人公のローラをジョージという名前に改変、また、原作では父親が出てくるが、男性版では母親になっている。
原作は主人公の19歳の頃に起きた話を、回想して手記にしたもので、舞台もそれに沿って主人公(ローラ/ジョージ)のモノローグで始まる。
舞台上はセットや小道具は何もない。照明がほの暗い。不思議な体験を話す主人公。目が覚めたら美しい女性(男性)が立っていた。その幻想的な姿、不思議に思いつつも不安になる。そしてほぼ原作通りの流れでストーリーは進行していく。主人公を心配する父(母)、近所に住み親交のあるシュピールドルフ将軍から主人公の父(母)へ手紙が届く。彼の姪(甥)が死んだという内容。主人公の友人になるはずであった。それから、馬車の事故、乗っていた人物を客人として迎え入れる。その人は…美しくミステリアス、不思議な温かさを感じる人物。その姿に驚く主人公。美しいその人はカミーラ(ゼーリヒ)と名乗った。カミーラ(ゼーリヒ)は「12年前に夢の中で会ってからその顔を忘れたことはなかった」と言い、主人公(ローラ/ジョージ)も「12年前に夢の中でも現実でも会ってからその顔を忘れたことはなかった」という。
主人公は片親で長らく孤独に暮らしていた。同い年の話のわかる友もいない、そんな境遇でその美しい人・カミーラ(ゼーリヒ)に心を奪われるのにそう長くはかからなかった。
不思議な縁で引き寄せられていく主人公とその客人。観客は知っている、その客人こそがヴァンパイアであるということを。主人公のモノローグ(回想)と交互に物語は進行する。孤独を抱えていた主人公であるが、実はヴァンパイアもまた、孤独であった。ヴァンパイアであるが故に”表”に出ることはできない。その寂しい魂と魂が呼応し、引き寄せられ、寄り添う。ヴァンパイアは日本語で”吸血鬼”、人の血を吸うことでその命をつなぐ。よって人類の敵とみなされる。よって、シュピールドルフ将軍を始め周囲の人々の反応はごく普通だ。しかし、主人公は、そのような先入観も情報もなく、純粋に目の前にいる彼女(彼)を愛するようになる。
[女ヴァンパイア・カーミラ版より]

ヴァンパイア、正体不明だが、その姿は主人公の心を虜にする。そしてミステリアスだが、不思議な温かさをたたえた眼差し、しかし、その正体はいわゆる”人類の敵”。ラスト近く、カミーラ(ゼーリヒ)の正体が明かされる。
ミステリアスでホラー、そしてサスペンス的な要素もあるこの作品、原作にも幾つか判明していない謎があるが、その謎は謎のまま。そこが、この物語の不思議なスパイスとなっている。そして公演パンフレットに演出家の言葉が記載されているが、初演と再演は大人数で上演、そして男性版のみであったが、今回は女性版、つまり原作に沿った形での上演と、いわば”W”。登場人物も絞り込み、6人で物語を紡ぐ。カミーラとゼーリヒは松本慎也が演じるが、その演じ分け、カミーラの時はどこか浮世離れした雰囲気をたたえて妖艶な笑みを浮かべる。ゼーリヒの時は決して歳をとらない、この世のものではない、それでいて年若い青年の無垢な空気感を出している。そのカミーラ(ゼーリヒ)に相対する主人公のローラ(ジョージ)、ローラは山本芳樹、ジョージは曽世海司。どちらもカミーラ(ゼーリヒ)とのバランスが良く、スタジオライフのメインキャストらしい貫禄もある。この二人は主人公の親も演じており、そこも注目したい。また、主人公の家庭教師を演じる伊藤清之がキュートでローラ(ジョージ)の乳母を演じる大村浩司とのやりとりもチェック。

[男ヴァンパイア・ゼーリヒ版]

単なるホラーではなく、どこか愛おしく感じてしまう舞台、登場人物も悪人はいないし、ヴァンパイアも、孤独を抱えつつ、芯は優しい人物に感じる。新型コロナウイルス感染症防止のためにキャストを絞ったそうであるが、キャストを絞り込むことによってより濃密な舞台になっている。公演は30日まで。
[女ヴァンパイア・カーミラ版・男ヴァンパイア・ゼーリヒ版/共通登場人物]

<公演概要>
日程:2021年5月20日~30日
会場:ウエストエンドスタジオ
原作:ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
脚本・演出:倉田 淳
キャスト:
[女ヴァンパイア・カーミラ版]
松本慎也:カーミラ
山本芳樹:ローラ
曽世海司:ローラの父
緒方和也:シュピールスドルフ将軍
大村浩司:ペロドン
伊藤清之:ラフォンテン

[男ヴァンパイア・ゼーリヒ版]
松本慎也:ゼーリヒ
曽世海司:ジョージ
山本芳樹:ジョージの母
緒方和也:シュピールスドルフ将軍
大村浩司:ペロドン
伊藤清之:ラフォンテン

■登場人物-
≪女ヴァンパイア・カーミラ版≫
[カーミラ]
物語の発端となる人物。乗っていた馬車が事故に遭い、安静の為ローラの館で世話になる少女。
美しく妖艶なヴァンパイア。
[ローラ]
父と暮らす孤独を抱えた少女。事故に遭った客人カーミラに寂しさを慰められ、心を惹かれてゆく。
[ローラの父]
妻を亡くし、森深い城で娘ローラと暮らす。事故に遭った少女カーミラを城に招き入れる。

≪男ヴァンパイア・ゼーリヒ版≫
[ゼーリヒ]
物語の発端となる人物。乗っていた馬車が事故に遭い、安静の為ジョージの館で世話になる青年。
美しく妖艶なヴァンパイア。
[ジョージ]
母と暮らす孤独を抱えた青年。事故に遭った客人ゼーリヒに寂しさを慰められ、心を惹かれてゆく。
[ジョージの母]
夫を亡くし、森深い城で息子ジョージと暮らす。事故に遭った青年ゼーリヒを城に招き入れる、慈悲深い女性。

≪カーミラ版・ゼーリヒ版同一人物≫
[シュピールスドルフ将軍]
ローラの父(ジョージの母)と親交がある。姪(甥)をローラ(ジョージ)の友人にと紹介しようとするも直前に亡くしてしまう。甥(姪)の死の原因にある疑いを持っている。
[ペロドン] ローラ(ジョージ)の乳母
[ラフォンテン] ローラ(ジョージ)の家庭教師。

『VAMPIRE LEGEND』上演記録
■初演
1998年『ヴァンパイア・レジェンド』
原作:ジョセフ・シェリダン・レ・ファーニュ「カーミラ」 脚本・演出:倉田 淳
女性吸血鬼の物語「カーミラ」を、男性版に置き換えた作品。
期間:11月12日~23日
於:東京芸術劇場小ホール2

■再演
2006年『ヴァンパイア・レジェンド』
原作:ジョセフ・シェリダン・レ・ファーニュ「カーミラ」 脚本・演出:倉田 淳
『ドラキュラ』と2作一挙上演
於:東京 アートスフィア 2月25日~3月12日
於:大阪 梅田芸術劇場 シアタードラマシティ 4月7日~4月9日

【スタジオライフとは?】
「Studio Life」とは
1985年結成。1987年から、男優が女性役をも演じるという手法をとり、現在は男優40名、女性演出家・倉田淳1名のみで構成されている演劇集団。その耽美な世界観と、演出家 倉田淳の独創的な脚色力と美しく繊細な舞台演出が話題を呼び、20代~40代の女性を中心に圧倒的な支持を得ている。

〈代表作〉
「トーマの心臓」(原作:萩尾望都/脚本・演出:倉田淳)
「11人いる!」(原作:萩尾望都/脚本・演出:倉田淳)
「死の泉」(原作:皆川博子/脚本・演出:倉田淳)
「はみだしっ子」(原作:三原順/脚本・演出:倉田淳)
「TAMAGOYAKI」(作・演出:倉田淳)

公式HP:https://studio-life.com