《トーク》『いつか〜one fine day』 脚本・作詞・演出 板垣恭一 プロデューサー 宋元燮

「いつか~one fine day」は、2019年に東京・シアタートラムで初演されたオリジナルミュージカル。2021年6月に待望の再演を果たす。原作は韓国のイ・ユンギ監督による映画「ワン・デイ 悲しみが消えるまで」(原題「One Day」)。妻を病気で亡くした保険調査員・テルと、交通事故で植物状態にある女性・エミの物語が展開される。
テル役の藤岡正明とエミ役の皆本麻帆は初演から続投、そして新たに松原凜子、西川大貴、藤重政孝、大薮丘、浜崎香帆、土居裕子がキャスティングされた。この作品の脚本・作詞・演出の板垣恭一さんとconSeptプロデューサーの宋元燮さんのインタビューが実現、初演の手応えや作品創りについて語っていただいた。

――前回の手応えはいかがでしょうか?

宋:新作ということもあって、序盤はどんな作品になるんだろう?という感想をみなさん持たれていてようですね。日本が舞台背景ということから、公演が始まった時はお客様もちょっと疑心暗鬼になりながら観られていたようです。1週目が過ぎたあたりで口コミも広がり、たくさんのお客様に入っていただけました。特に印象に残っているのは、初日、お客様がカーテンコールのときに立ってくださって、それも後ろの方から。後ろから波が起こってスタンディングが起きたとき、キャスト陣はようやく「受け入れてもらえたんだ」と手応えを感じたそうです。苦労したことは、実はそんなになかったんですよね。板垣さんも桑原さんも、特に板垣さんとは一年以上ディスカッションをした結果作品としては、カンパニーとしていい作品になることは確信を持っていたので。本当にいい座組だったのではないかと思います。

板垣:自分で書いておきながら、観たことがない芝居を作ってしまったな、と思いました(笑)。苦労……は、やはりそれほどした記憶はないですね。原作のまんまだとミュージカルにはならないことを伝え、宋さんから原作者に確認してもらったら「いかなる改変をしてもよい」というお答えだったので。それでは、ということで、映画には存在しないキャラクターを入れたり、映画では小さい役だった人にバックボーンを与えてみたりしました。

宋:ディスカッションのときもそんなに根詰めたという感じではなかったですね。

――有名な作品ではなく、全くのオリジナルで、ゼロから立ち上げるのは本当に大変ですよね。

宋:我々にとっての「商品」を伝える術はほとんどありませんからね。舞台は幕が上がってみないと。そういう意味で苦労したのは、強いて言うなら宣伝まわりですね。楽曲を最初に発表するまでは本当にお客様が何もわからない状況でしたからね。

――稽古場での印象は、王道なミュージカルというよりは、ストレートプレイとの融合的な表現だなと思いました。

板垣:あらためて再演するときに考えると、(桑原)まこちゃんの影響が大きいと思います。彼女は詩に対して曲をつけているから、日本語がちゃんと聞こえるように、日本語に合うメロディーを書いたという事実が大きいんですよ。なので、いかにミュージカルと普段認識されているものが「輸入モノに日本語をはめたもの」であるかのかが分かります。あともう1つ特徴がありまして、実は現代日本を舞台にした芝居ってすごく少ないんですよ。僕自身は現代日本を描きたかった。演出家だから、違う時代のものも、海外のものももちろんやりますけれど。でも、演劇をやるからには現代日本と関係があるものをやらないと、やる意味がないともいつも思っています。今回は脚本を書いたうえでそれに対して曲をつけてくれた、まこちゃんの才能があったからこそで、そこまで芝居と音楽が寄り添えたという結論なのかなと。ストレートプレイとミュージカルの融合というよりは、これが日本語のミュージカルの1つのあり方という提示だと感じています。

宋:「日本のミュージカルの転換点になるかもしれない」と、そういう評価も実際いただいています。板垣さんと取り組み始めてやっている作品に関しては、海外から持ってこようが日本で作ろうが、ミュージカルなのかストレートプレイなのか、ということをあまり考えずに観てほしいという気持ちがあったんです。あくまでも芝居というものの中に音楽があるということを提示したかったし、ジャンル分けとして捉えてほしくなかった。また、ミュージカルドラマシリーズとしては基本、現代を舞台にしたもの以外は上演したくないという気持ちも強かったです。やはり新作を作る時は我々の日常の中にある話からどうやってエッセンスを拾ってくるかということをトライしようということでお話しているので。『いつか』ももちろんそうですし、これから上演予定の12月の『GREY(グレイ)』という作品に関しても、現代の日本を描くということに注力したいなと思っています。

――それでは、稽古の状況はいかがでしょうか。

板垣:キャスト8人中、6人が変わったんです。そういう意味でも面白くなっていますよ。キャストが変われば芝居が変わる、といったところでしょうか。僕はどういう演技にするかについては、キャスト自身で考えてほしいと思っていて。もちろんルールを提示したりということはありますが。セリフを使って内面をどう組み立てるか、どのタイミングで動くのかというのは役者に帰する問題だと思っているので、なるべく具体的なことを言わないように気をつけています。稽古で前回と同じことを言っていてもキャストが異なるので芝居が全然違うんです。それを受けて前回から続投のお2人も演技も変わるし。そこはやはり楽しいですね。立ち上がりとしてはいい感じだと思います。

――確かにこの作品のキャラクターは、立ち位置が示されているものの、演じる俳優さんによって変わってきますよね。

板垣:輸入もののミュージカルだとキャストが変わっても段取りは変わらないんです。だからこそ一人ひとりの俳優の違いを楽しめるという点もありますが。今回、キャストが変わったのを受けて、音楽も1曲変えていたりします。西川大貴くんがやるなら、ということで。それで何が起きるかを楽しみにしたいです。

――そこは、自分たちがゼロから作った強みでもありますよね。

板垣:僕が書いていますから「じゃあ変えよっか」みたいなこともできます(笑)。

宋:輸入した作品だと契約の関係上、一字一句変えられない場合も多々ありますからね。『いつか』は群像劇として成り立っているところがあるから、キャストが変わることでやり取りのバランスも変化しますよね。おそらくその方の個人的な内面も出てくるでしょうし。

板垣:この作品では、あまり個人の内面を直接的には歌ってないんです。内面を語るときは、全キャストが同時に歌う形にしていて。

――内面をあえて歌わないというところで、お客様も好きに捉えられるという余白みたいなものが生まれますよね。

板垣:常々、物語はお客様が作るものだと思っているので。例えば人が死んだというシーンで涙するというところも人によって理由はバラバラですから。自分が死んだ時を想像しているのかもしれないし、親しい人の死をイメージしているのかもしれないし。一見同じリアクションをしていても捉え方がそれぞれ異なる。お客様の想像力の最大値に持っていくにはどうしたらいいのか、ということをいつも考えています。

――ところで、conSeptさんとして、作品選びのポイントは何でしょうか。

宋:ポイントとして探っているのは、現代のお話であるかということと、群像劇であるかどうか。さらにお客様に持ってかえっていただけるものが劇場の中で完結しないようにするにはどうしたらいいか、というところです。どの作品も「開いて終わる」ようにしていて。なにか自分の中にある物語を想像しながら帰っていただくように。そこに自分の中で方向性を決めていたんだと思います。その作品自体の意味もあるけど、劇場と劇場の外とをつなぐ作品が欲しいな、と。

――それでは、最後にメッセージを。

板垣:ミュージカルがあまり好きではない、という人にぜひ観てもらいたいです。お芝居を見慣れている人にとっては「なるほど」と思える部分を間違いなくお届けできる自信があります。たまたま、演劇を観てこなかったという人にも入門編としていい作品になっていると思うので、そういう意味でもお楽しみいただければ。

宋:いま、コロナの状況でなかなか劇場に足を運べない、という意見が大半です。渋谷という割とアクセスしやすい土地でやっているんですけれど。それでもいらっしゃるのが難しいという人も多いと思います。配信もありますので、今回は行けないなという人も、ミュージカルをあまり見慣れていない、敷居が高いと思っている人でも、リーズナブルな価格でお試し観劇もできますので、そこからでも一回、この世界に足を踏み入れていただいて、面白いと感じていただけたならぜひいつか、劇場で観ていただくきっかけになればと思っています。それぐらいの作品にはなっていると思うので、ぜひご興味お寄せください。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<2019年公演記事>

新作ミュージカル『いつか~one fine day』人は生まれ、死んでいく、だから、いつか・・・・人は何のために生きるのか。

<あらすじ>
保険調査員のテル(藤岡正明)は後輩・タマキ(大薮丘)の担当だった仕事を引き継ぐよう新任の上司・クサナギ(藤重政孝)から命じられる。それは交通事故で植物状態の女性・エミ(皆本麻帆)の事故の原因を調べるというもの。しかし、エミの代理人・マドカ(松原凜子)と友人・トモヒコ(西川大貴)は調査に非協力的で敵対。仕事が進まないなか、病死した妻・マキ(浜崎香帆)のことをまだ整理できずにいるテルに声をかけてきたのは、意識がないはずのエミだった。俄かには信じがたいと思いながらも自分にしか見えないエミと交流を重ねるうちに、事故の陰に幼い頃にエミを捨てた消息不明の母親・サオリ(土居裕子)の存在が浮かび上がってくる。

<配信情報>
『いつか〜one fine day 2021』全公演配信決定!
●3カメ(スイッチング)配信 :3,890円(税込)
6月9日(水) 19:00公演
6月13日(日)12:30公演
6月19日(土) 12:30公演・17:00公演
●1カメ(定点)配信:2,480円(税込)
6月10日(木) 19:00公演
6月11日(金)14:00公演
6月12日(土) 12:30公演・17:00公演
6月15日(火)14:00公演・19:00公演
6月16日(水) 19:00公演
6月17日(木)14:00公演・19:00公演
6月18日(金) 19:00公演
6月20日(日) 12:30公演

配信チケット販売:conSept movie
http://consept-movie.myshopify.com/
※5月28日(金)10:00より販売開始
※配信開始60分後までご購入可能です。
※配信開始から24時間アーカイブ視聴が可能です。

【conSeptオフィシャル YouTubeチャンネル】
https://www.youtube.com/c/conSept

【「いつか〜one fine day」リリックブック・】
ダウンロード:https://consept-movie.myshopify.com/products/lyricsbook

<概要>
日程・会場:2021年6月9日〜6月20日 CBGK シブゲキ!!
原作:映画『One Day』
脚本・作詞・演出:板垣恭一
作曲・音楽監督:桑原まこ
出演:藤岡正明 皆本麻帆 松原凜子、西川大貴、藤重政孝、大薮丘、浜崎香帆、土居裕子
演奏:桑原まこ(Key)、荒井桃子(Vn)、石貝梨華(Vc)、成尾憲治(Gt)
宣伝:Theatre at Dawn, llc
制作:横田梓水
制作助手:阿部楓
プロデューサー:宋元燮
後援:TBSラジオ
製作支援:SWING
企画・製作・主催:conSept
公式HP:https://www.consept-s.com/itsuka2021/
構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美
舞台写真(主催より提供)は2019年初演時のもの。