2018年にナイスコンプレックス初のオリジナル音楽劇として誕生し、この2021年で3回目の上演となる本作。東日本大震災の原発被害により、強制退去させられた福島県浪江町を舞台に、残された動物たちと故郷に戻れない人間たちの葛藤を歌と祭と演劇で描く。
主演・犬の妖怪ヤンスケ役には、柏木佑介、ヤンスケの飼い主・優治役に浅倉一男。 優治の婚約者には、富田麻帆。 さらに三上俊、 松本寛也(秋田県出身)、早乙女じょうじ(福島県出身)、後田真欧((文学座),福島県出身)、赤眞秀輝(ナイコン)、濱仲太(ナイコン)ほかがキャスティング。 脚本・演出は劇団の主宰でもあるキムラ真(宮城県出身)、「いつか浪江で上演!」を目指しており、過去には東京に加え、福島県いわき市でも上演。今回の2021年版も東京といわき市での上演、少しずつ、浪江町に”接近”。 今年は震災から10年、風化させないためにも【悲劇】だけではない【希望】の物語を紡いでいく。
前説はキムラ真が行う。熱くなりすぎて少々時間が押す!!「お祭りのシーンは撮影OK、クラップOK、見守るだけでもOK」とアナウンス。プレビュー、Aチームを拝見した。
犬の遠吠え、一人、また一人、キャストが登場する。「ヤッホー」と叫べば、その声がこだまする。「あの日からずっと聞こえていた」という。あの日、それは10年前のこと。
そしてオープニング、人間も動物も!いや、正しくはかつて動物だった妖怪。ニュースで見聞きした観客もいるかもしれないが、ペット、家畜、一緒に避難したくてもできなかった。そのまま置いていくしかなかった。その後ろめたさ。この物語のメインキャラクターである浜花優治(浅倉一男)は独白する「10年だからいろんな映像が流れた…僕は過呼吸になった」と。忘れたわけでは無論、ない。映像で記憶が蘇る。老人が”昔話”のように語る。老人の名は根本シャクジ(赤眞秀輝)、目が悪い。妖怪たちを感じることができる。
それにしても妖怪たちは明るい。歌ったり、踊ったり!皆、仲が良く、まるで家族のよう。元飼い犬のヤンスケ(柏木佑介)は飼い主が大好き、きっと帰ってくる、また会えると信じている。だが、ヤンスケの飼い主・浜花優治は故郷に帰りたいと思うが、なかなか踏み出せない思いを抱えていた。福島・浪江から離れて暮らしていた、被災し、仙台へ。だが差別に遭い、神経質になっていた。仙台で教員になり、結婚を考える相手もできた。だが、大好きだったペットを置いてきてしまったことや相手の両親から結婚を反対されてもいたが、結婚を考えている彼女・西洋木蔦(富田麻帆)と意を決して故郷へ向かう。そこで見たものは?感じたことは?が、大体の流れ。
明るいヤンスケ、彼を取り巻く妖怪たち。皆、それぞれのバックボーンがある。彼らが置いていかれ、命を落とした事情は胸が痛くなる。置いていかれて死んでしまった、あるいは殺処分された、みんなに自分を食べさせたetc.また、猿のアオイ(三上俊)、殺処分から逃げて生き延びた。妖怪ではないが、憎悪を抱いて生き続けていた。ヤンスケたちに人間の本性をぶつけるが、その姿はきりりと痛むものがある。
どうにか浜花優治は西洋木蔦と先輩の風露草太(早乙女じょうじ)と浪江へ向かう、その道中、そして到着。その過程での心模様、そして彼はついにあるものを発見する。
基本は浜花優治とヤンスケを中心として物語は進んでいくが、サイドストーリーも見逃せない。ラスト近く、お祭り!そもそも祭りは本来は神を祀ること、その儀式を指すもの。また、命・魂・霊・御霊(みたま)を慰めるもの(慰霊)でもあったりする。ヤンスケはここがつまらないから祭りを行えば、人間が、大好きな飼い主が帰ってくると信じる。また、ラスト近く、優治も祭りを提案する。また2幕で観客はタイトルの意味するところを知る。
扱っている題材は重いが、明るく、そして熱気とエネルギーに満ちた物語、そして登場人物(妖怪)たち。ヤンスケ演じる柏木佑介は犬の仕草が可愛く、そして笑える。ヤンスケを取り巻く元動物たち(妖怪)も湿っぽさがなく、からっとしていて愛おしい。優治を取り巻く人々、優治に寄り添う木蔦、優治に協力を惜しまない草太、皆、本当に”いい奴!!”。希望に満ちたエンディング。毎年の上演を目指しているが昨年はあえなく中止に。その分、パワー倍増、原発、震災、まだ終わったわけではなく、問題は山積み、さらに昨年からのコロナ禍。そこでめげない逞しさが全てのキャラクターにみなぎっている。力のこもった歌!明日はきっと晴れる、そう信じる心。大きな作品ではないが、元気とパワーをもらえる舞台であった。
プレビュー公演の前に挨拶。
[柏木佑介]
「今回の公演は知っていただくのがテーマ。知っていただくと盛り上がれる!楽しんでいただけるように!見どころですが、AチームとBチームあるのが初の試みで、グループ感、家族感があります、人間関係もできています。どの公演も楽しんでいただけます」
[朝倉一男]
「家族の幸せを感じています。ネット配信もあります、初の試み。いろんな方に、世界の方に愛を伝えたい!見どころですが、ヤンスケとの愛の深さ!富田麻帆さんと理想の夫婦感で!」
[富田麻帆]
「去年やりたかったので、今年やっとできる!新しいメンバーを迎えて新しい『YAhHoo!!!!』を。見どころですが、最後のお祭りシーンは撮影はOKです。初の試みです。こういう楽しみ方もあるんだと思っていただければ。心の中でたくさん『ヤッホー!!』を。見どころは妖怪シーン、しっかり楽しめます」
[早乙女じょうじ]
「いろいろ考えて…2年経ってまた、この作品に対する感じ方が変わりました。震災の作品は見たくないという方もいらっしゃると思います。配信もあるので、よかったら。配信は止めることもできます。人それぞれです。浪江の人たちが見たらどう思うか、この作品に関わることで伝えられることもあります。全世界へ届け!」
[安孫子宏輔]
「福島県福島市出身です。高校卒業の時に震災を体験しまして、出身地を言えない、悲しいことがいっぱいありました。とても大切な作品です。福島はこんなに楽しいんだよって叫んでいる作品です。心が熱くなる作品です。このお祭りにたくさんの方に来ていただきたい。やれることは全部やりたい、たくさん観てください」
[渡部大稀]
「福島出身です。震災を経験したからこそ、セリフが深まりました。このご時世だからこそ、伝えられるものがある。歌が大好きな人が多くって!歌は見どころです。熱く歌って踊ります!はい!」
[キムラ真]
「劇団公演、大好きなみんなに集まってもらって!オリジナル作品、僕も東北出身です。どうやったらここに戻ってこられるだろうかというところから始まっています。震災は東北以外の方々はコロナの状況、自分に置き換えて考えて欲しいです。少しでも笑顔になっていただけたら。エンタメは悪くないです…笑って歌って感動、この状況でも笑顔でやっていきたいです。楽しんでやりたいと思います」
最後に柏木佑介が締めた。
「いろんなみんなの思いがあります。すごく明るい話です。『心があったかくなったな』と思って帰っていただけたら。精一杯届けます!」
<インタビュー記事>
《インタビュー》ナイスコンプレックス N32 フリーカル『YAhHoo!!!!』2021 作・演出 キムラ真 ヤンスケ役 柏木佑介
▼フリーカルとは▼
「歌って上手い人だけが歌うもんだっけ?祭りはそうじゃねぇ!楽しいから歌うんだ!」 その概念から生まれたナイコン独自の復音劇(フリーカル)。 誰もが歌っていい、踊っていい、参加しいていい、再び立ち上がる為の音楽劇。それを「フリーカル」と名付けました。本作では更に、客席とステージの壁を無くすことに成功。 過去公演の祭のシーンではお客様もステージに上がり歌い踊りました。
▼浪江でお祭をしよう▼
福島県に人を呼びたい、集めたい。「浪江でお祭をしよう!」、これがこの演目の最大目標です。 現在震災から10年が経ち、浪江にも人が戻って来ましたが元通りとはいきません。地元の人は「いきものが再び集まる場所」にする為に踏ん張っています。
≪あらすじ≫
福島県、浪江町。あの日から全く変わらない風景の中、遠い景色に叫ぶ声が聞こえる。 『ヤッホーー!!!!』 その声の主は言われている「もう人間は居ないんだ」
『ヤッホーー!!!!』 「居るよ!だって、僕の声にちゃんと答えてくれるから!」
木霊して返って来るその音を信じて、ヤンスケは今日もご主人様を待っていた。
この物語の主人公の名前は「ヤンスケ」。千切れた首輪に残された名前。彼は犬だ。そして、妖怪である。
急に人間たちが居なくなった場所がある。残された動物たちは、死んでしまいました。
そして、今日も妖怪として楽しく暮らしています。
あの日から10年。帰ってもいいよと言われたのに、人間たちは帰って来ません。妖怪たちは考えました。
そうか、ここが愉しくないから帰って来ないんだ。 ある日、ヤンスケを中心とした妖怪たちはお祭りを開催します。
福島から離れて暮らしていた浜花優治(ハマハナマサジ)は故郷に帰ろうとしていた。
入れるようになった場所に、戻れない現状。なくなったと思った場所は今も変わらぬ姿で存在する。
ただそこにあるのは、自分の知っている思い出とかけ離れた違和感。
ずっと引きずっている記憶。残してきた家族に会いたい。
ひかれ合う情の中で、見えない壁が想いを遮る。また昔に戻る事は出来るのか?昔ってなんだ?
何が起こったらハッピーエンドになるのか? 奇跡を超えた瞬間を、今求めあう。
<公演概要>
タイトル:ナイスコンプレックス N32 フリーカル『YAhHoo!!!!』2021
日程・会場:
[東京]
2021年6月4日(金)~6月6日(日) シアターサンモール (6月3日プレビュー公演)
[福島]
2021年6月12日(土)、13日(日) チームスマイル・いわき PIT
[出演]
柏木佑介/浅倉一男、富田麻帆
三上俊、松本寛也、早乙女じょうじ、後田真欧(文学座)、赤眞秀輝(ナイコン)、濱仲太(ナイコン)
<Aチーム>
わかばやしめぐみ(おぼんろ)、野口真緒、安孫子宏輔、林千浪(おとな小学生)、石川志織、彩未理加、 片山浩憲
<Bチーム>
紅林里美(ナイコン)、夏目愛海、渡部大稀、大久保悠依(ナイコン)、北野くるみ(ナイコン)、 早野実紗(ナイコン)、キムラ真(ナイコン)
[スタッフ]
作・演出:キムラ真
振付:美木マサオ(マサオプション)、ドラマトゥルク:大久保悠依 音楽作曲:橋本啓一、作曲原案:紅林里美、編曲&音楽作曲:市川真也(マサオプション) 舞台監督:今泉馨(P.P.P.)
主催・企画制作:ナイスコンプレックス
公式HP:http://naikon.jp