『ゆびさきと恋々』は、少女マンガ誌「デザート」(講談社、2019年9月号より連載)のミュージカル化、6月4日より本多劇場にて開幕。
耳の聞こえない女の子 雪(豊原江理佳)と耳の聞こえる男の子 逸臣(前山剛久)が、手話を通じて心と心が繋がりあう中でお互いの知らない世界を知り、互いに惹かれ合うというラブストーリー。 他、主人公雪の幼馴染 桜志(池岡亮介)、雪の親友 りん(林愛夏)、逸臣の親友 心(宮城紘大)友人であり ながら逸臣に恋心を寄せるエマ(青野沙穂)、皆が集まるカフェ・バー“ロッキン・ロビン”の店長・京弥(上山竜治)らが 憧れや恋心に翻弄されながらも、青春を謳歌する様も本作品の魅力。
舞台の奥にピアノ、チェロ、生演奏。出だしが無音、俳優陣の息遣い、ダンスの足音だけが静寂の中で響き渡る。コンテンポラリーな振り付けが印象的、中央にヒロイン・雪(豊原江理佳)、スポットライトがあたる。彼女の周囲を雪の妖精たちが取り囲む。雪の内面を表現、感受性が高く、繊細なキャラクターと想像できる。それから物語が動きだす。
電車、なんということもない光景、雪、いきなり話しかけられる、しかも相手は外国人、手には観光マップ。雪は耳が聞こえない、口の動きでわかったりもするが、相手は外国人、普通に耳が聞こえてもなかなかとっさに質問に答えることは難しい。そこへサッと助っ人が現れた。さりげなさに驚く雪。出会いはいつも突然にやってくる。かすかな、自分でも気づくか気づかないかのときめき、心のざわめき。彼の名は逸臣(前山剛久)、同じ大学の先輩だった。親友のりん(林愛夏)は逸臣を知っていた。彼女がよく行くカフェ・バー、“ロッキン・ロビン”でバイトしていたからだ。思わぬつながり、実はりんはカフェ・バーの店長で逸臣の従兄弟の京弥(上山竜治)に恋愛感情を抱いていた。雪、りんは各々、想い人の連絡先を交換!だが、雪の幼馴染で桜志(池岡亮介)は面白くない。ことあるごとに手話で「調子にのるな」「アホ!」と言うが、恋する乙女には全く響かない。そんなこんなの日々が紡がれていく…と言うのがだいたいの流れ(ラストは舞台オリジナル展開)。
雪は耳が聞こえないことを除けば、恋に奥手の年頃の女の子。豊原江理佳がナチュラルに演じて共感できる。また走り方が!小動物のようで、なんともキュート!こんな風に小走りで寄ってきたら、男の子は”キュン死”間違いない!雪の恋愛相手の逸臣はリュック背負って世界中を旅する男の子、雪の頭を”ポンポン”、そして自然体で雪に接する。彼女の純真さに惹かれていく役どころ。こちらも女子から見たら”キュン死”だろう。昭和から脈々と続いている少女漫画王道(日常系)な展開、人間関係、ここはいつの時代でも共感できるポイント。脇キャラも、いかにもいそうな人たちばかり。桜志は幼い頃から雪と一緒に過ごしてきた。桜志は実は雪が好き、しかし照れもあるのだろうか、手話で「アホ」とか雪に言ったりするところは、なんだか可愛い。HPに彼らの関係性がチャートで示されているが、ここをチェックするとよりよく作品が楽しめるし、コミック名場面も舞台上で!ここは要チェック。
随所に出てくる手話、特にミュージカルナンバーで示される手話は流れるようで、音楽に乗ってそれがますます皆の手がたおやかに見えるから不思議。また、ヒロインが心情を語るのではなく歌う。それが心に響く。そのほかのキャストも歌唱力の高い面々であるが、それ以上に、この作品に向き合う志のようなものが垣間見え、客席から拍手。また、21世紀らしく、雪はラインを駆使してコミュニケーション(スマホを斜めがけにしており、すぐに手に取りやすく、無くしにくい)、昭和の時代ではきっと紙とペン(便利さ実感)。そのやり取りがスクリーンに映し出され、その会話も微笑ましい。ミュージカルナンバーも多く、全18曲。どの曲も印象的だが、個人的には稽古場でも披露された「わたしの手・あなたの手」は、手と手が人の心をつなぐもの、と歌い上げるが、その内容とメロディーは心に響く。お店のナンバー「ロッキン・ロビン」はノリノリなロックンロール。最後に歌われた「あなたに届け」で最高潮に達する。終演後は大きな拍手が起こった。
手話を使った新しいミュージカル、既存のミュージカルと一線を画し、そしてコミック原作舞台作品は2.5次元に分類されるが、この領域を飛び越えている感もあり、2.5だの3.0だのと議論するのは愚の骨頂、今回限りではなく、何度も上演されて欲しい。
■原作情報
『ゆびさきと恋々』森下suu
講談社「デザート」にて2019年9月号より連載を開始。第1話からSNSで大反響をよび、累計120万部を突破。繊細な言葉選びや登場人物の表情、手の動き、文字表記に至るまで、圧倒的な表現力に引き込まれる。「全国書店員が選んだおすすめコミック」少女漫画部門第1位、「第11回ananマンガ大賞」大賞、BookLive!「年刊書店員すず木2021」オンナ編第1位、宝島社「このマンガがすごい!2021」オンナ編第9位を獲得。その他の著者代表作に『日々蝶々』、『ショートケーキケーキ』、『わかメン~The Mineral Boys~』など。
◎作品公式サイト:https://go-dessert.jp/kc/renren/
☆コミックス最新4巻
「ゆびさきと恋々」(4)
著:森下suu
出版社:講談社(KC デザート)
発売 2021年3月12日
<稽古場レポ>
<演出家インタビュー>
<公演概要>
A New Musical『ゆびさきと恋々』
日程・会場/2021年6月4日~13日 本多劇場
原作/森下 suu「ゆびさきと恋々」(講談社「デザート」連載)
脚本/飯島早苗 音楽/荻野清子
演出・脚本/田中麻衣子
振付/前田清実
キャスト/豊原江理佳、前山剛久、林愛夏、青野紗穂、池岡亮介、中山義紘、上山竜治 ほか
主催・企画・製作/ワタナベエンターテインメント
公式サイト:http://yubisakimusical.westage.jp
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