話題の舞台化『夜は短し歩けよ乙女』が6月6日より開幕する。森見登美彦による長編小説。第20回山本周五郎賞受賞作品。第137回直木賞候補、2007年本屋大賞第2位。2017年2月時点で累計売上130万部を超えるベストセラー。
京都大学と思われる大学や周辺地域を舞台にして、さえない男子学生と無邪気な後輩女性の恋物語を2人の視点から交互に描いている。
古典文学や近代詩からの引用が多く、タイトルは吉井勇作詞の『ゴンドラの唄』冒頭から。諧謔に満ち、現実を逸脱した不可思議なエピソードを交えている。
湯浅政明監督によりアニメーション映画化され、2017年4月7日に全国公開。第41回オタワ国際アニメーションフェスティバル長編部門グランプリ、第41回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞。今回の舞台版はこの映画版で脚本を手がけた上田誠が脚本・演出を手掛ける。先輩は中村壱太郎、黒髪の乙女は久保史緒里。その他、玉置玲央、白石隼也、鈴木砂羽、尾上寛之、竹中直人らがキャスティング。
物語は基本的に原作通りに進行する。先輩が黒髪の乙女に一目で恋に落ちる瞬間、「ズキューーーーン!!!」。先輩と黒髪の乙女の交互の語り口で構成。
出だしは春、出会い、そして黒髪の乙女にひたすら恋い焦がれ、なんとか懇意になろうとする先輩。キュートな風貌に似合わず。底なしの酒豪、好奇心旺盛、自由な黒髪の乙女、中村壱太郎と久保史緒里、絶妙のキャスティング、冴えない大学生、これといった取り柄もなく、機転も利かない、才能もない、自分にコンプレックスを感じている先輩。だが、恋する気持ちは人一倍、こう言った舞台はお初の中村壱太郎が全力で演じているのだが、この全力さがキャラクターの個性とシンクロする部分があり、大汗かいて熱演すればするほど、先輩そのものに見えてくる。また、歌舞伎っぽくやってるシーンもあるので!
対する黒髪の乙女を演じている久保史緒里、小柄で可愛らしいのに飲み比べのシーンや「おともだちパンチ」のシーン、7代目ダルマとして「偏屈王」の主役のシーンなどは、弾けた振り切った演技でインパクト大。羽貫(鈴木砂羽)と樋口(石田剛太)のコンビ、鈴木砂羽が大ジョッキ片手に飲み干すシーンは芝居を超えて(笑)。次から次へと名場面が繰り出されていくので、休憩込みで3時間の上演時間が短く感じられるほど。いくつもの役を演じる俳優陣もいるので、ここは要チェック。
季節は夏、秋、冬と続く。そのシーズンらしいエピソード、夏は納涼、秋は文化祭etc.それらはシュールで現実的ではなかったりするのだが、なぜか共感。黒髪の乙女が古本市へ出かけると語ったのを噂に聞き、これは好機だと来場する先輩、だが、うまく会えなかったり。また「ナカメ作戦」、「なるべく彼女の目にとまる作戦」の略、偶然を装い、軽い挨拶を交わす下りなどはちょっと笑ってしまうし、先輩が身ぐるみ剥がされて下半身がパンツ1枚になったりするシーン、あまりにもド派手な李白(竹中直人)登場シーン、ガマガエル(玉置玲央)とニシキヘビ(尾上寛之)など、見た目がかなり笑わせる!
演出は基本、アナログ、セットも俳優陣が動かしたり。映像も使用しているが、最先端ではなく、あくまでもアナログな演出ありきな使い方。歌唱もあり、ナチュラルで、すっと場面に馴染む。ラップ調の歌は素直に楽しい。それにしてもメインキャラの膨大なセリフ量、覚えるのはかなり苦労があったであろうことは想像に難くない。また、皆、細かい芝居をしているので、そこはよーーく見て欲しい。
難しいことはあまり考えず、笑うところは大いに笑って観たい作品。ラストは心温かくなれる。アニメ化もされているし、コミカライズもあるので見比べるのも一興。
公開ゲネプロの前に会見があった。
登壇したのは、中村壱太郎(先輩役)、久保史緒里(黒髪の乙女役)、鈴木砂羽(羽貫役)、竹中直人(李白役)、玉置玲央(パンツ総番長役)、白石隼也(学園祭事務局長役)、尾上寛之(高坂役)、脚本・演出の上田誠。
脚本、演出の上田誠(ヨーロッパ企画)は映画版の脚本も手がけているので、作品は熟知。
「豪華絢爛、元々の原作が想像力がたくましい。筆が走るままに書かれている作品。男の子と女の子の恋物語です、いろんな出来事が起こり登場人物も多いし、事件も多い、それを21人のキャストでできるだけ、正攻法で原作に近づけました。ダンスやラップもあります、歌もあります。信じられないほど多くのシーンがあります。皆さん、それぞれの分野から持ち寄った知恵と経験と力を結集して、壮大な絵巻ものが完成しています」とコメント。
上方歌舞伎で女形の中村壱太郎は現代劇で男性を演じるのは初めて。「この状態(シャツ・パンツスタイルのごく普通の大学生ファッション)で舞台に立つのは初めての経験で、冒険です。本日のこの場もどうやって立っていいのかも挑戦です。甲冑(かっちゅう)がなくて戦場に行っている感じです。歌舞伎も緊張しますがそれ以上に緊張しています。(演じるキャラクターは)凝り固まった、回りくどい人間。そんな先輩が乙女に恋をし、いろいろな出会いや事件を通して、変わっていきながら、ひたすらひた走る姿を!」とコメントし、「でも、演じるのは楽しみです。最後まで完走できることを願って!」と語る。
久保史緒里は「いつもメンバーと一緒なので、こういう舞台は初めてです。稽古中は受け身に。乙女が歩くことで物語が展開するのですが、なかなかそれが…・でも、音楽の力は大きくて、グループでもそうなのですが、音楽がかかって肩の荷がおりました。今は必死です」と語り、演じる”黒髪の乙女”については「好奇心旺盛で、天真爛漫。巻き起こる事件に対して、プラスの感情を持つ前向きさ」と分析。「個性の強い方々ばかりなので、物語の軸になる乙女が消えかけるんじゃないかと悩んだが、(前向きな)このキャラクターのおかげですごく前向きになれました」と語る。乃木坂46版「美少女戦士セーラームーン」で舞台主演経験はあるが、ソロ出演はお初、「共演の皆様のご縁に恵まれました。財産だと思っています」と語る。
竹中直人は「みんな若くってキラキラしている、追いついていくのが大変。壱太郎さんと久保さんの2人がかわいく、見ているだけでときめいてしまいます、楽しい舞台になっていると思います」、と親心的な。鈴木砂羽は「(羽貫さん)以外の役もやっているので!」とアピール。ビールジョッキ片手に飲み干すシーンは見どころ。複数役を演じる尾上寛之は「いろんな役をやってます。観た方には笑顔になって欲しい。涙が出そうになる瞬間もある。芝居ができること、観に来てくださる方々にパワーをお届けしたい」とコメント。
最後に中村壱太郎が「一度、観ただけではわからない!是非、2度、3度と!」とPR。いたるところで皆、細かく芝居をしているので!作品世界を存分に楽しみたい。
◆公演概要◆
『夜は短し歩けよ乙女』
<公演日程>
■東京公演 2021年6月6日~6月22日 新国立劇場 中劇場
■大阪公演 2021年6月26日~6月27日 会場:クールジャパンパーク大阪 WW ホール
原作:森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」(角川文庫刊)
脚本・演出:上田 誠(ヨーロッパ企画)
<キャスト>
中村壱太郎
久保史緒里(乃木坂46)
玉置玲央
白石隼也
藤谷理子
早織
石田剛太
酒井善史
角田貴志
土佐和成
池浦さだ夢
金丸慎太郎
日下七海
納谷真大
鈴木砂羽
尾上寛之、 藤松祥子 中村 光 山口森広 町田マリー
竹中直人
<スタッフ>
美術:長田佳代子 音楽:伊藤忠之 振付:EBATO 照明:倉本泰史
音響:加藤 温 映像:大見康裕 衣裳:坂東智代 ヘアメイク:大宝みゆき
演出助手:山田 翠 舞台監督:川除 学 制作:佐々木康志(PRAGMAX&Entertainment) 宣伝美術:山下浩介
宣伝写真:神ノ川智早 宣伝衣裳:酒井タケル 宣伝広告映像:AOI pro.
企画・制作:フジテレビジョン
主催:2021『夜は短し歩けよ乙女』製作委員会
公式ホームページ:https://www.yoruhamijikashi.jp/
舞台公式 twitter:@NakameOperation