Zero Projectプロデュース  ミュージカル『新☆雪のプリンセス』

 

 2016年初演、2017年には再演され好評を博したZero Projectプロデュース ミュージカル『雪のプリンセス』。Zero Projectは、愛ある作品をオリジナルで創り続けているカンパニー。今回のミュージカル『雪のプリンセス』は、演出・衣裳・振付を一新して『新☆雪のプリンセス』に! プリンセス役には高橋朱里(AKB48)、2017年に引き続き、悩めるプリンセスに。プリンセスをあたたかく見守る冬将軍役には木根尚登、 子供たちに試練を与える雪女フブキ役には一路真輝(特別出演)、さらに多数の人気舞台で活躍中の米原幸佑、小笠原健、声優・i☆Ris(アイリス)としても人気のある久保田未夢らがキャスティング。脚本は、映画『アナと雪の女王』全挿入歌の歌詞を手掛けた 高橋知伽江によるオリジナル作品だが、アンデルセンの『雪の女王』をモチーフに10年にわたって温めた脚本をさらにブラッシュアップ。衣裳・美術には世界的なコスチュームアーティスト・ひびのこづえが手掛ける。

 

 ステージは360度・全方向から楽しめるようになっており、基本的に舞台上にセットはない状態。オーバーチュアがかかり、この何もない空間が物語の世界に変貌する。雪の結晶のオブジェは天井に上がり、銀色のオブジェがおりてくる。子供達の歓声が響く、「メリー・クリスマス!」このオブジェに飾り付けを始める。そこへツララと呼ばれる少年が言う、「どこがクリスマス・ツリーなんだよ!」と。サボテンに飾り付け、もう長いこと夏のままの地球、ホワイト・クリスマス等みたこともない子供達。おばあさんがかつて四季があったことを歌う。地球の温暖化を彷彿とさせる設定、しかし、もしもそれが当たり前になってしまったら?という「if」、春がきて夏がくる……その大切さに気づかされるシーンだ。

 場面は変わって、ここは雪のプリンセスが住む“スノーキャッスル”、プリンセスは引き蘢り、どうも60年近くそんな状態にある様子。母親である雪の女王はいない、よって雪の女王の席は“空席”、娘のプリンセスが後を継いでいないせいで、季節が止まってしまっているのだ。 コガラシ隊長は、母の死から立ち直れないプリンセスを元気づけるため、ペットとしてツララを誘拐することにしたが……。

 気品と威厳があるが、どこか寂しげなプリンセスに人が良さそうな冬将軍、切れ者っぽいコガラシ隊長、好奇心と冒険心に満ちた少年・ツララにその姉のコユキに末の妹のシズク、雪女・フブキにサンタクロースの孫のクロス、キャラクターの名前だけ聞いても、ファンタジックで楽しそうな響きだ。

 舞台転換はスムーズで、照明やオブジェ、複数のボックス、布等で場面を表現するが、これがクリエイティブで想像力に満ちたものになっており、これだけ観ても楽しく、ワクワク感もある。ひびのこづえの衣装がポップで印象的、よく見るとサンタクロースの孫の衣装にはたくさんの赤いソックスがついていたり、プリンセスの衣装はシルバーと白、そしてピンクがアクセント的に配されていて可愛らしさの中にクールさと気品もあり、プリンセスらしい雰囲気。コガラシ隊長のヘアスタイルは直線的だったり、と衣装を見ればキャラクターがある程度わかって、これも楽しさポイント。

 プリンセスは偉大な母の後を継がなければならないプレッシャーがハンパ無く、ひとりぽっち感と劣等感に苛まれ、それにじっと耐える。そんな姿をみてしまったツララ、彼なりに彼女の心に寄り添おうとする姿は観る人の心を揺さぶる。ツララを探してスノーキャッスルまでやってくるコユキとシズクは明るく、どこか現代的で「いるいる、こんな子」と思わせてくれる。雪女・フブキ、雪女=怖い、そんなステレオタイプなイメージに嘆くところは、哀愁もあるが、ちょっとコミカルな空気感もあり、その絶妙なさじ加減、一路真輝が流石の貫禄で演じ、歌い上げる。ポップでジャンルにとらわれないダンスとフォーメーション、振付はZoo-Zoo、特にツララがコガラシ隊長らに連れ去られるシーンは圧巻で、観ているこっちまでスノーキャッスルに連れていかれる感がある。ダンサーの子供達のスキルの高さ、可愛らしいだけじゃない、この物語を創造しているのだ、というしっかりとした自覚が垣間見えて頼もしい。楽曲もポップなものやいかにも“ザ・ミュージカル”といったものもあり、物語の輪郭をハッキリとさせてくれる。結末は言わずもがな、であるが、そこに行くまでのドラマとキャラクターの心情の変化、成長と気づき、全くのオリジナル作品であるが、既存のアンデルセンの物語『雪の女王』や大ヒットしたディズニーアニメ『アナと雪の女王』、日本の雪女の物語等に思いを馳せることが出来る。たくさんの共感と愛の大切さ、そして地球、多くのことに気づかされる良作であった。公演日程が短いのが惜しまれる。

 

 初日前に囲み会見があった。登壇したのは、高橋朱里(AKB48)、米原幸佑、小笠原健、久保田未夢、木根尚登、一路真輝(特別出演) 。

 高橋朱里は、この作品への出演は2回目となる。稽古から初日まで、あっと言う間と語る。「ステージに立つのが楽しみ、ドキドキしています。観ている方々が、日頃感じている当たり前のことが、実はすごく大切なものだということが伝わる、温かい物語です」とコメントしたが、歌唱も安定しており、将来性を感じさせる出来映え。さらに「20歳になって初めての作品が、このキャストでよかったと心から思っています」と語る。木根尚登はこの冬将軍の役は既に持ち役、優しそうなオジサマといった風情で、こんな冬将軍だったら大歓迎、「観どころ満載」と自信をのぞかせた。また木根尚登は高橋朱里に「1つの成功は99の失敗から」という言葉を贈ったそう。高橋朱里はこの言葉を胸に刻んでいると語ったが、含蓄のある言葉だ。

 一路真輝は今回初参加、「始めての共演者さんばかり」と言い「あっと言う間に仲良くなって、気持ちも若返りました」とコメント、終始笑顔。久保田未夢は「初めてのことがたくさんある」と語るが、今っぽい少女を演じていて好感が持てるキャラクター創り。米原幸佑は「初参加」と語るが、しっかりとした役作りで当たり役。コガラシ隊長の小笠原健は3回連続出演だそう。「(高橋朱里の方を向いて)逞しくなった!」とコメント。高橋朱里は「成長した自分を観て頂けるように期待してもらえるように頑張りたい」と返した。そこに一路真輝が「本当に一生懸命で!心から幸せだな、と言える作品に」と語ったが、舞台上では雪女、OFFでは優しく見守るおかあさんっぽい感じが頼もしげ(高橋朱里曰く『ゴージャスなおかあさん!』)。最後に高橋朱里が「ファンタジーですが、共感出来る部分がたくさんあります。あたたかい作品になっています!スタッフ・キャスト一丸となって!」と締めたが、チームワークの良さが感じられる会見であった。

 

 

【公演データ】

ミュージカル『新☆雪のプリンセス』

 

2018年2月21日~2月25日

新国立劇場 小劇場

 

脚本:高橋 知伽江

統括演出:田尾下 哲

演出:家田 淳

作曲・音楽監督:片野 真吾

衣裳・美術:ひびの こづえ

振付:Zoo-Zoo

プロデューサー:伊藤綾美

出演:高橋朱里(AKB48)

米原幸佑 小笠原健 久保田未夢

高橋里央 後藤健流 室 龍規

遠藤 誠 ビリー(fromビリケン) 森山晶之

北村岳子 木根尚登 一路真輝(特別出演)

波多腰由太(雪) 辰巳カナン(雪)

佐藤誠悟(星) 大谷紗蘭(星)

井上晴菜 今牧輝琉 橋本悠希 森 未結

井関ひろ南 木内 栞 shao 春花きらら 福留愛梨 古庄美和

鷲見心花 市瀬瑠夏 金澤侑莉亜 古川結凪 富永萌々香

池澤香帆 小副川優衣 木内彩音 工藤菜々 佐田 照 清水那奈 須原 琉 曽我くるみ 田中万葉

中田野乃花 ポレンギアレクサンドロス 前田紗和 牟田彩愛 森田瑞姫 山本珠里

 

※公演DVD&Blu-rayも発売決定!

DVD&Blu-rayの一般発売は後日公式サイトにて発表いたします

公式サイト:http://www.zeropro.net/snow-princess2018

 

(C)2108 新・雪のプリンセス

 

文:Hiromi Koh

撮影:立川賢一