《インタビュー》ストーリー・コンサート『クララ―愛の物語―』作・演出 渡部玄一

2021年7月、ストーリー・コンサート『クララ―愛の物語―』が好評につき、再演される。世界的に有名な作曲家ロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームスと彼らを愛し、支えたクララ・シューマンの物語を読売交響楽団のチェリスト渡部玄一が生み出した本格的な演奏と実力派俳優の朗読で構成したかつてないスタイルの公演。クララ役は初演に引き続き、元宝塚男役トップスターの水夏希、そして初参加の伊波杏樹。シューマンとブラームスの2役に挑戦するのはヴォーカルグループLE VELVETSのメンバーの佐賀龍彦渡辺大輔。この作品の企画者でもあり、演出もする渡部玄一さんのインタビューが実現した。

――企画立案のきっかけは?

渡部:もともと演奏家の方でコンサートをずっとやってきていた中で、20年前演奏会の合間にお客様にエピソードを話していたんですね。それからいろいろ工夫してきてやっていくうちに詳しく演奏家のお話とか、いろいろな素晴らしいストーリーが芸術家たちの中には埋まっているので、そこを掘り起こそうと。私はおしゃべりの方は素人なものでしたから、私は演奏もするので、少しずつお話と演奏と両方やっていこうということになりました。もう一つ重要なきっかけになったのは、今年、古い友達に脚本家の藤沢文翁さんがいらっしゃるのですが。朗読劇『信長の犬』をやってた方で、そうした縁で彼と一緒に小さい脚本をやらせていただいたんです。あと『シカゴ』というミュージカルを観たときに、真ん中にジャズバンドがあって、周りで演技するスタイルだったんですが、これを観るうちに「音楽そのものの素晴らしさを伝えることと、ストーリーと融合させたらいいシナジーが生まれるのではないかな」と思ったんです。少しずついろんな試みをしているうちに、本物のプロの方と初演をやらせていただきまして、それがすごくよかったという感想をいただけたので、今回も楽しみにしています。

――今回の作品、クララとシューマンとブラームス、この三人の微妙な立ち位置を調べていくと、クララとブラームスって実は「恋愛関係だった」という記述はどこにもないんですよね。

渡部:そうなんですよ。怪しい事象はいろいろありますけれど(笑)。結局のところは二人に下世話な男女関係があったかどうかは誰もわからない。そこは興味の本質ではないのです。若い時はそんなことを考えながら彼らの音楽に接していましたけれど。当時はそれが「痛く」感じてしまって、演奏しながら痛い痛いって思ったり(笑)。でもこうして歳を取ると、そこには愛であるとか、信頼であるとか、責任であるとか、人間としての高貴さに注目が行きました。彼らにとってはありふれたものなんでしょうけどね。そんな彼らの感情が作品へどう残されていったのか、僕たちに今どう示してくれているのかということに俄然興味があります。彼らには本当にいろいろなエピソードがあるんですよ。ブラームスも一回結婚しそうになるけど、寸出でクララがその街にフラッと現れるんです。その後、ブラームスは結局、婚約者を振ってしまうんですよ、それがまた「君に束縛されたくない」みたいな最低な内容の手紙で……。それでも、下世話な話は別として、ブラームスの仕事そしてクララの仕事があって、そして最後のピアノトリオのところでまとまっていくんですけど、彼らが心を使ってどれだけのことをしてきたのかなということを、表現できたらなって思っています。彼らの関係はみんな理解できると思うんですよね。誰にでも起こりうることを彼らは自分の力を使って表現している。それが我々にとって勇気というか、慰めというかそんなものになるんじゃないかなと。

――朗読があって、合間に楽曲が流れるスタイルですけれどやはり物語と曲がリンクしているのは感じましたし、曲調と時代、曲が意味するものが重要になってきますよね。特に「愛の歌」、「クライスレリアーナ」など……。

渡部:「ミルテの花」はまさにその時書かれた曲です。物語にしやすいというか、素直にその時のエネルギーをぶつけている印象なので紹介しやすいと思いました。それに、やはり「ピアノ三重奏第一番」ですけれど、ブラームスがその後に手直しをしている。普通は手直しとかしないんです。この曲だけは大々的にしていて、シューマン夫妻に出会ったときに書いたということから不思議な因縁関係がある、ある意味聴きどころといったポジションです。

――あとは、9曲目の「エドワルド」が意味ありげだなと思いました。

渡部:実際、これはいわくつきで。ブラームス自身がいかに罪深く感じていたかということの象徴なんです。ブラームスはあんまり標題音楽を書かない作曲家として知られますが、これだけはわざわざ詩をつけてそれに準じるような作品にしている。人間というのは何か異常なことが起こったときに、それが悲劇的だとそれが自分に起こったことでなくても自分が関わっていたような気持ちになるんですね。すなわちシューマンの心理や病気について、自分がひとつの原因であるというか因縁に考えられてしまうということがあってこの曲を書いたのではないかというのが有力らしいですね。ちょっと彼の作品では、これは異質ですね。あとは歌詞との絡み合いも全体の劇に関わってきます。これを書いていたあとに、彼は額に十字架を刻んだまま生きていくと解釈している音楽学者もいるそうです。

――演出的には、あくまで生演奏、そのまま聴かせるスタイルですよね。生演奏は心に響きます。

渡部:今回はスピーカーを使った演出とかは考えていないです。もしかしたら生演奏だけだと最近の映像に慣れた方には物足りないかなと思っていたんですが、そう言っていただけて心強いです。

――最後にメッセージを!

渡部:素晴らしい生のクラシック演奏と、俳優さんの生の息遣いを両方楽しんでほしいですね。感動もシナジー効果で何倍にもなりますし、気持ちをこれだけ使って見事な人生を歩んだ人たちの業績と、その人生を同時に味わうことができる機会はあまりないので、ぜひ観にいらしてください。きっと元気になると思います。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

<公演概要>
【作品名】ストーリー・コンサート『クララ-愛の物語-』
【作・演出】渡部玄一(チェリスト)
【出演】
◇出演
水夏希/佐賀龍彦(LE VELVETS)
伊波杏樹/渡辺大輔
◇演奏
岡田愛(ソプラノ)/枝並千花(ヴァイオリン)/
渡部玄一(チェロ)/島田彩乃(ピアノ)
【会場】彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
7月14日(水) 14:00(Aチーム) / 18:00(Aチーム)
7月15日(木) 14:00(Bチーム) / 18:00(Bチーム)
*Aチーム(クララ役:伊波杏樹/シューマン・ブラームス役:渡辺大輔)
*Bチーム(クララ役:水夏希/シューマン・ブラームス役:佐賀龍彦)
【企画・制作】 トウキョウ・アンサンブル・ギルド
【主催・製作】 トウキョウ・アンサンブル・ギルド インプレッション
WEB http://www.tokyo-eg.com/
構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美