扉座創立40周年記念『解体青茶婆』が座・高円寺1にて上演中(7月11日まで。高円寺・座)だ。
横内謙介率いる扉座は当初の名称は「善人会議」。1982年に旗揚げし、1993年に「扉座」に改称。主に横内謙介のオリジナル作品を上演している。全国公演にも意欲的に取り組み、また、横内謙介は92年には『愚者には見えないラマンチャの王様の裸』で、第36回岸田国士戯曲賞を受賞。99年には『新・三国志』(スーパー歌舞伎)で、第28回大谷賞を受賞、2013年には『つか版・忠臣蔵~スカイツリー篇』で、第13回バッカーズ演劇奨励賞を受賞。2020年は記念公演の前倒し企画として、with コロナをコンセプトに、『10knocks~その扉を叩き続けろ~』を12月5日~13日、新宿紀伊國屋ホールにて上演したが、内容は「扉座10選」として選り抜きの10本を全作一度きりの日替わりで、ドラマチック・リーディングとして公演、好評であった。
舞台セットは極めてシンプル、四方をろうそくが取り囲む。『お伽の棺2020』の時も四方をろうそくが囲む形をとっていたが、このナチュラルでほのかな明かりが、作品を彩る。物語は杉田玄白が腑分けをする話ではなく、ここでは杉田玄白(有馬自由)は齢83歳。立派な後期高齢者、娘が足腰の弱った父の面倒を見ている、という現代にも通じる”介護”状態。そんなある晩のこと、屋敷で玄白は青茶婆(中原三千代)に出会う。お腹から腸とか!出てくる、暴れる(客席笑)、自身の姿を晒す奇行を。その姿は、娘の蘭(砂田桃子)には見えていない様子、つまり、自分にしか見えていない!怖すぎる出だしだが、そこはエンタメ、中原三千代の挙動が可笑しい!
玄白は、大槻玄沢(山中崇史)、宇田川玄眞(新原 武)、友田徳庵(鈴木利典・創作人物)、江口熊次郎(小川蓮)にその老婆について話したところ、その老婆は青茶婆と言い、大罪の女で、斬首され、しかも死体の腑分けをしたが、その死体こそが青茶婆であった。しかし、玄白は高齢、この腑分けのことを玄白に伝えたのは得能満兵衛(岡森諦)、彼なら何か知っているかも?と思う…。
ドラスティックな展開はないが、少しずつ、様々なことが見えてくる。メインの物語は青茶婆と腑分け、解体新書にまつわるものであるが、サイドストーリーも見逃せない。宇田川玄眞は杉田玄白の娘と結婚し、養子になったが、放蕩ゆえに離縁された人物。ただ、彼の功績は大きく、蘭学の発展に尽くしただけでなく、、化学、科学、自然哲学などの分野で日本の礎を築いていくことになり蘭学中期の大立者と言われている。ストーリーは史実をベースに創作、実際に青茶婆の腑分けをしたのは腑分けの技術に長けた虎松(犬飼淳治)ではなく、彼の祖父と言われている。本来は彼が行う予定であったが、当日急病でできなくなったと言われているが、そのわけは…。
心に刺さるセリフも多く、皆、己の信じる道、使命、意志、考えがある。「真実を追求することに身分は関係ない」「人間は皆、同じ」etc.杉田玄白は「技術に遅れは許されぬ」と言う。杉田玄白らがオランダ語医学書『ターヘルアナトミア』を入手し、その本と照らし合わせながら腑分けを行い、その本の図版の精密さに驚愕し、翻訳を試みた時代。彼らが、医学の進歩に寄与したことは歴史が語っている。その使命感、功績。そしてこの物語は、それだけでなく、彼らの心模様、心意気をぐっとクローズアップして観客に提示する。そしてヴァイオリンの生演奏、新日本フィルハーモニー交響楽団の吉村知子とビルマン聡平、繊細で、時にはドラマチックに、時には控えめな響きが心地よい。繰り返し上演して欲しい作品。
<作品について>
杉田玄白らによる『解体新書』という偉業が生まれる礎となった腑分け死体(青茶婆という罪人)にまつわる物語。『解体新書』は日本語で書かれた解剖学書。ドイツの医師クルムスの解剖書「AnatomischeTabel-in」のオランダ語訳(『ターヘルアナトミア』)を日本語に訳した、日本最初の西洋解剖学の本格的な翻訳書で、ヨーロッパ諸語からの本格的な翻訳書としては日本初の試みと言われている。著者は前野良沢(翻訳係)と杉田玄白(清書係)。江戸時代中期にあたる安永3年(1774年)、刊行。杉田玄白の回想録である『蘭学事始』(明和8年(1771年))によれば、中川淳庵がオランダ商館院から借りたオランダ語医学書『ターヘルアナトミア』をもって玄白のもとを訪れたところから始まる。それまでは日本の医者は中国から伝来した漢方医学を学んでいたが、人体の構造については五臓六腑などの言葉を知るのみでそれがどういう働きをするのか、どういうものなのかは全く知らなかった。杉田玄白もそういった医者の一人であった。
玄白はオランダ語の本文は読めなかったが、図版の精密な解剖図に驚き、藩に相談してこれを購入する。偶然にも長崎から同じ医学書を持ち帰った前野良沢や、中川淳庵らとともに「千寿骨ヶ原」(現東京都荒川区南千住小塚原刑場跡)で死体の腑分けを実見し、解剖図の正確さに驚き、『ターヘル・アナトミア』の和訳に至った。ちなみに青茶婆は幾人となく貰い子を殺した大罪の女である。
<あらすじ>
明和八年(1771年)小塚原の刑場で、青茶婆と呼ばれた毒婦が斬首されました。
この悪人の死体が我が国の医学の発展に寄与することになります。
蘭方医・杉田玄白、前野良沢らがその腑分け(解剖)を見学したことが、オランダ語の医学解剖書『ターヘルアナトミア』の翻訳出版と言う偉業を生む契機となったのです。
<概要>
劇団扉座第70回公演
劇団創立40周年記念企画 『解体青茶婆』
【厚木公演】
厚木シアタープロジェクト第 33回公演
厚木市文化会館・小ホール
2021年6月26日(土)18:00
27日(日)14:00
主催:(公財)厚木市文化振興財団/扉座
応援:厚木シアタープロジェクト市民応援団
【東京公演】
夏の劇場06
日本劇作家協会プログラム
座・高円寺1
2021年6月30日(水)~7月11日(日) 座・高円寺1
提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺
後援:杉並区
≪キャスト≫
岡森 諦、中原三千代、有馬自由、山中崇史、犬飼淳治、鈴木利典、新原 武、砂田桃子、小川 蓮
≪スタッフ≫
作・演出:横内謙介
美術:金井勇一郎(金井大道具)
舞台監督:大山慎一(ブレイヴステップ)
照明:塚本悟(塚本ライティングデザイン)
衣裳:木鋪ミヤコ・大屋博美(ドルドルドラニ)
ヘアメイク:川口博史(アート三川屋)
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
製作:(公財)厚木市文化復興財団〈厚木公演〉/(有)扉座
公式HP:https://tobiraza.co.jp