A.B.C-Z橋本良亮主演、鈴木勝秀オリジナル脚本の『ピース』-peace or piece?-の東京公演が7月28日より新宿の紀伊国屋サザンシアターで上演される。
衛生的=正義という考え方が蔓延した社会で、「衛生」の象徴である白い服を着る若い男・レンジョウを演じる橋本と、ウォーター・バーの経営者・オカモト役の篠井英介がどういう物語を紡いでいくのか。2020年7月上演の音楽朗読劇『日本文学の旅』(上演台本・演出 鈴木勝秀)以来、約一年ぶりの舞台出演となる橋本良亮。演出家・鈴木勝秀との再タッグとなる。
舞台上は物語に出てくるウォーター・バー。ペットボトルの水がそこかしこに並べられ、中央には大きな水槽、そこにも水が満タンに。無機質な空間、どこかそっけなく、突き放した雰囲気が象徴的。設定は近未来。全体主義的な政治が支配する。衛生的=正義。近未来ということだが、今の時代のことなのかと一瞬思う。手には薄手のビニル手袋をはめ、あちこちにアルコールスプレーを吹き付けるのは、もはや当たり前の光景になっている。
登場人物は二人だけ。白いシャツを着ているレンジョウ(橋本良亮)と黒い服を着ているオカモト(篠井英介)、オカモトは穏やかそうな雰囲気をたたえており、対するレンジョウは少し、鋭い印象で生真面目そう。オカモトが登場し、続いてレンジョウ。水槽奥に現れ、”バーチャル素潜り”、その時水槽から無数の細い泡が出る。舞台上から見ると本当に水槽に顔があるかのように見える。「ブハーーーー」と大きく息をする。ロックミュージック、ドラムやエレキギターの音色、ミュージカル的な楽曲のつけ方ではなく、音楽もまた、実は”登場人物”なのではないか、と思わせる。
音楽とともにセリフ、音楽とセリフが渾然一体となる。「こんなのは好きじゃない」とレンジョウがいえば、オカモトは「安全だ」という。健康であることが奨励される、これ自体は別に悪いことでもなんでもない。病原菌の撲滅、犯罪者の排除、確かに平和で安全だ。だが、犯罪の告発は美徳とされ、防犯カメラはそこかしこにある。平和のためだ、といえばそれまでだが、閉塞感でいっぱいだ。タイトルの『ピース』、peace、平和。または講和。和睦、pieceは部分、小片。二人の会話の間に音楽が挟み込まれる。その会話から次第に彼らの過去や生い立ちが見えてくる。今の世の中がどこかおかしい、二人の会話、彼らの考え、それは現代とどこか呼応する。音楽とセリフ、朗読劇と銘打っているが、確かに2人とも台本を手にしているが、朗読劇という感じではなく、音楽とコラボしているように感じる。
時折、ノイズ音も流れるが、騒音ではなく、その場の状況や彼らの心模様を写しているようにも見える。言葉と音楽、そのpieceをつなぎ合わせると、うっすらと見えてくる。近未来の話、ということだが、今の世界情勢にも通じる部分が大きい。過去を背負って生きる二人、場所がウォーター・バー、というのもどこか象徴的だ。
なお、ゲネプロ後に簡単な会見が執り行われた。登壇したのは、橋本良亮と篠井英介、鈴木勝秀。すでに大阪公演は無事に終了、28日から東京公演である。橋本良亮は「大阪公演を終えて間が開いたので、新鮮な気持ちで挑めます」と挨拶。隣で篠井英介が「真面目で!きっちりしていて、息子くらい歳が離れているけれど、支えていただいています。心配はしていません」と太鼓判。やや恐縮気味の橋本良亮、「素敵な方で…初対面のときからフワッとしたオーラがあります」とコメント。鈴木勝秀は「25年前にほとんど書いているので、そんなに世の中、変わっていない、お2人が現在につながる形に。現代の作品です」と語るが、設定は近未来ということだが、どこでもありうる話。
稽古については、橋本良亮は「去年に比べて免疫がつきました。稽古の仕方が独特、(稽古中は)食べないし、飲まないし。でも稽古は2〜3時間くらいで終わるんですよ。本当はこちら的にはもうちょっとやりたい、考える時間が楽しい」と、いい、これに対して鈴木勝秀は、「余力を残して考える時間を(与えている)。どうしたらいいか、自身が考える、放っておくと次の日考えてくるので、稽古の進行が早くてありがたい」と満足げな表情を浮かべ、「大阪も楽しかった。ありがたいことにどんどん広げてくれて楽しめる」と嬉しそう。篠井英介は「やりすぎたら言ってくれるだろうし。橋本くんはフレッシュで、対応がすごく良くて、セッションとして楽しくやらせていただいきました」とコメント。橋本良亮は「千秋楽まで挑戦したい、スズカツさんのホンだからこそ」と意気込んだ。また、”革命”にちなんで”革命を起こしたいことは?”の質問に対して篠井英介は「コロナで生のライブ、演劇が…もうすこしエネルギーを芸術の革命を起こしたい」と演劇人らしい回答に橋本良亮が大きく頷いた。最後に「明日(7/28)に東京初日を迎えます。熱い演劇をしていますので、応援宜しくお願い致します」と締めくくって会見は終了した。
<あらすじ>
近未来。全体主義的政治が市民を支配し、衛生的=正義という考え方が社会に蔓延している。国家に忠誠を誓う人間は、「衛生的」の象徴である白い服を着た。健康でいることが奨励され、病原菌の撲滅は国家の目標であった。禁酒、禁煙が徹底され、ベジタリアンになることが求められた。また、「犯罪者は社会の病原菌」とされ、犯罪者の排除、社会からの隔離が、徹底的に行われた。犯罪の告発は美徳とされ、さらに犯罪を報告すると、警察から報奨金が与えられた。防犯カメラはあらゆる場所に設置され、一般市民がおたがいを監視している。
そんなご時世のなか、ウォーター・バーを営む男がいた。オカモト(篠井英介)である。ウォーター・バーは、文字通り世界中の名水を愉しむバーである。まさにこの時代を象徴するようなクリーンな店。だが、店内は黒く塗られていた。そして黒い服を着るオカモトには、過去があった。
その店の常連になりかけの、白い服を着る若い男、レンジョウ(橋本良亮)との会話の中で、オカモトの過去が次第に明らかになってくる。オカモトは、過去に政府転覆を狙う、革命運動に参加していた。とは言っても、革命グループのリーダーは無血革命を目指す学者。 市民の協力なくして、革命の成功はない、と説いていた。しかし、活動は頓挫。グループのリーダーは逮捕され、獄中で自殺した。善良な市民は、革命より安定、そして支配されることを求めたのである。そしてオカモトは、その結果を受け入れ、はたから見ると世捨て人のように、日々を読書に費やし、漫然と暮らしていた。
一方レンジョウは、株のデイトレードで稼いでいるとうそぶき、その正体は不明。だが、ある日レンジョウは、自分が革命グループのリーダーの息子であることを明かすのだった──
「今の世の中、おかしいと思いませんか?ひっくり返してやりましょうよ」
だが、レンジョウの真意は、別のところにあった──
<公演概要>
【タイトル】『ピース』-peace or piece?-
【出演】橋本良亮(A.B.C-Z)/篠井英介/大嶋吾郎、グレース
【上演台本・演出】鈴木勝秀
【大阪公演】2021年7月15日(木)~7月18日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
【東京公演】2021年7月28日(水)~8月8日(日祝)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
【企画】クオーレ 【主催】エイベックス・エンタテインメント、クオーレ
【お問合せ】
大阪:キョードーインフォメーション:0570-200-888(平日・土曜 11:00~16:00)
東京:キョードー東京 0570-550-799 (オペレーター平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00)
【公式HP】https://peaceorpiece.com/
【公式twitter】@peaceorpiece_st
(c)朗読劇『ピース』-peace or piece?-/撮影:伊藤智美
フォトセッション撮影:編集部