個性的なパフォーマンスで近年注目度の高い壱劇屋。複数の作家・演出家が、アクション、マイム、音楽劇、ワードレス殺陣芝居など、様々なジャンルの作品を生み出し上演するスタイルをとっている。そして2021年8月、東京・池袋のシアターグリーン BIG TREE THEATERにて台詞は一切なし、言葉は黙して紡ぐ「wordress×殺陣芝居」シリーズの東京単独公演が決定。今回の上演作品は、劇団10周年記念企画のひとつとして2018年に上演された『二ツ巴- Futatsudomoe-』、1500名動員し、多くの観客が涙した作品。
物語は、水が枯渇したとある都に住む2組の父と娘の話。その地では、神に祈り水を乞うための儀式として、人柱を捧げる風習があった。農夫である父と共に暮らす娘・ともえと、都を治める王を父に持つ娘・トモヱ。過酷な運命に身を置く少女たちの物語を「wordress×殺陣芝居」で描く。
今回、座長である大熊隆太郎さんと壱劇屋を旗揚げし、2015年より「wordress×殺陣芝居」を始動させた竹村晋太朗さんのインタビューが実現。旗揚げ時のことや、「wordress×殺陣芝居」の誕生のきっかけや、今回の公演『二ツ巴- Futatsudomoe-』などについて語っていただいた。
――これまでの活動を振り返ってのお話を聞かせてください。
竹村:「劇団壱劇屋」は、高校の演劇部で同期だったメンバーで始まっているんです。2019年の秋からは大阪と東京を拠点にしているんですが、本隊である大阪に座長の大熊(隆太郎)がいます。
竹村:最初はずっと大熊が作・演出を務めていて、パントマイムなどの身体表現を用いた不思議な動き、群舞を主体にした演劇をやっていたんです。
一時期、僕がジャパン・アクション・エンタープライズというスタントマンの養成所にいっておりまして、そのころは劇団を離れていたんです。理由は「劇団☆新感線」が好きで、アクションへの興味も深かったので、武者修行のつもりで。
アクションを学んだことで、ダンスやアクションが演劇の一要素、ハイライトとして使われることに多いなと気づいて。その一方で、舞台上で人を殴るとか、斬るとか、そういった行動を起こすには感情が高くないと起こり得ない。演じる身としては、感情が土台にあって、その発散方法というかアウトプットの一方法として殺陣があるのではないかと考えたんです。それが、殺陣を主体にした演劇をやることになったきっかけでしょうか。そして、相手に対する殺意が十分にあるにも関わらず、わざわざそれを宣言するのもナンセンスではないかと思いまして。言葉をなくして、一挙手一投足に意味を込めれば、十分に殺陣だけでストーリーが相手に伝わるのではないか、ということで、今の形態に落ち着いたんです。
最初は、僕たちも「ノンバーバル」という言葉を使っていたんです。ただ、お世話になっている演出家の末満健一さんと話しているときに、「ノンバーバルは非言語コミュニケーションを指す言葉だから、竹村くんがやっているのは厳密に言うとノンバーバルの芝居ではないよね」と言われて。そこで、僕の作っているものは「セリフを喋っていないだけで、言語化されたものでぶつかっているのではないか」と思いまして。それでノンバーバルではなく、言葉が“ない”だけ、すなわち「wordless × 殺陣芝居」としたんです。
――ノンバーバルとは似て非なるものということなんですね。作品としては、民話というか、和風の舞台のものが多いようですが、そこはこだわっていらっしゃるのでしょうか。
竹村:舞台背景にはもともとは特にこだわりはなかったんですが、日本でありたいという気持ちがあったのでしょう。日本のどこかのタイミングのどこかの環境で、というのは考えたりしています。昔話というか童話がもともと好きで…教訓というかテーマがきちんとあるな、と。ただカッコいいとか悲しいとかだけではなくて、親子の繋がりだとか、罪を犯したらしっぺ返しがあるだとか。そういう、普遍的なものを描きたいなと思っています。
あとは、僕自身がキラキラしてないというか(笑)、どちらかというと泥臭い印象だなって客観視しているんですよ。だから、僕が作る作品の主人公も「がんばっている人」を描きたいんです。2.5次元舞台にも出演させていただいたんですけれど、皆さん本当にキラキラしていました。それとは真逆ですね(笑)。
――今回は、再演ということですが、みどころを教えて下さい。
竹村:物語の主人公は二人のヒロインなんですが、実はそれぞれのお父さんを最初に描こうと考えていたんです。有能で皆に慕われるお父さんと、孤軍奮闘だけどみんなのためにがんばるお父さんという、環境は違えど、どちらもがんばるお父さんを描きたかった。となると、目線としてはお父さんを主体にするよりも、娘たちから見た方が伝わるんじゃないかって思って、こういう話の形態になりました。娘を主軸に据えたら据えたで、娘たちの設定も凝りだしちゃって。本人たちは同世代の女の子なのに、環境と考え方と地位が変わるだけで物事も変わってしまう。ただ、誰かを応援したい気持ちは一緒。ということで、ストーリーとしてはそれぞれのお父さんに対してのヒロイン2人の想い、というのが大きかったりします。
みどころとして、この作品でこだわったのはアナログ性。演出をできるだけ、俳優の力だけでやっていこうと。最近の演劇は特殊な映像技術が発達しているんですが、僕としては、生で起きる出来事のほうが感動できるし面白いなって思っているんです。
映像を用いずにマンパワーだけでとんでもないことを起こしたいなと思いまして。今回の話で「水の神様」というのが存在するんですが、川が干からびたりだとか、また流れ出したりとか、そういうのをアナログで表現したかったんです。だからこそ、出演者には死ぬほどがんばってもらっているんですけれど。演出的にはそこを観てもらえればなと思っています。
あと結構、僕の作品では色んな「神様」が出てくるんですよ。何でだろう?と考えたときに、人は何かに救われないとがんばれないのかなって思ったんです。その象徴としての「神様」なのかなと。でも神様は気まぐれで助けてくれないこともある。神様が助けてくれないときは誰か代わりに手を貸してくれる相手が現れたりだとか。僕の持論なんですが、誰にだって世界中の誰か一人くらいは救いの手を差し伸べてくれる人がいるはずだ、という信念があるんです。だから、がんばっている人を描き、その人を助けてくれる「誰か」も描く。その一つとして、神様が出てくるんだろうなと思います。
――あらすじを見る限り、「水」というものが重要なキーになっているようですが……。
竹村:水は生命の根幹的な部分もありますからね。土とか火とか、自然の要素を作品に入れることが多いかなと思っています。自然は自分の思い通りにいかないものでもありますし。
自然現象を舞台上でどう表現しようかなというのはいつも考えているんですね。例えば雨が降っているのを人の力でどう表現できるのか、僕自身楽しんでいるフシがあります。今なら映像演出でいくらでも表現できそうなんですが、そこをあえて人間でやりたい。舞台表現を取り巻く様々な技術が進化するのと同時に俳優も進化してほしいな、と。そうしたものを演劇として舞台上で表現できたときにグッと来るものがあるんですよ。まだまだ研鑽を積んでいる途中ですね。
再演ではありますけれど、初演とまったく同じというのも僕としては嫌だし、スケールダウンしたといわれるのはなおさら。初演から3年4ヶ月を経たからこそのバージョンアップをさせて、どんどん新しい要素を追加していきたいなと思っています。
――最後にメッセージを。
竹村:昔から、演劇という文化はずっと存在し続けていることがとんでもないな、と思っているんです。それこそ紀元前のころから存在するものが、進化をし続けここまで来たということはつくづく奇跡だなと。それだけ脈々と、途絶えることなく育ってきた演劇というジャンルは確実におもしろいんです。映像に負けないレベルで。
映像表現にチャレンジしている劇団も多いとは思いますが、僕たちはそれをアナログに仕上げたい。生身の人間がそこにいて、観客の眼前で上演するからこそ面白いものを追求したい演出家であり、劇団であり、役者なので。観に来ていただければ今まで体感したことのない衝撃があると思っていますし、自信もあります。ぜひ、演劇を観たことない人もある人も来て欲しいなと思っています。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。
<壱劇屋プロフィール>
関西小劇場界隈で年がら年中活動している劇団。
作風を定めることなく、 幅広いジャンルで作品を発表しているのが特徴。
マイムやダンスといった身体表現を織り交ぜた演劇公演や
劇中に台詞が一切無い、 「wordless × 殺陣芝居」をシリーズ展開している。
NHK朝ドラ「まんぷく」、 舞台「刀剣乱舞」など数多くの作品に出演する
劇団員・竹村晋太朗によって2015年から始動した、 「wordless × 殺陣芝居」シリーズ。
2017年に大阪5カ月連続上演、 2018年に東名阪三都市ツアー、 2019年に大阪公演単独で2,000名動員達成と、 精力的に創作を続けている。
2019年より、 「壱劇屋東京支部」を発足し、 全国区での知名度獲得と活動拠点拡大を目指している。
<概要>
『二ツ巴-Futatsudomoe-』
【日程】
2021年8月11日(水・祝)~15日(日)
8月11日(水・祝) 18:30
8月12日(木) 14:00◆/18:30
8月13日(金) 14:00◆/18:30
8月14日(土) 13:00◆/17:00
8月15日(日) 12:00◆/16:00
※受付開始は開演60分前/開場は30分前
【会場】
池袋・シアターグリーンBIG TREE THEATER
【キャスト】
須藤茉麻
谷川愛梨
岡村圭輔/柏木明日香/小林嵩平/竹村晋太朗/西分綾香/丹羽愛美/長谷川桂太/日置翼/藤島望
河合龍之介
日南田顕久
淡海優
衛藤大輝
黒田ひとみ
長谷川奏
羽多野瑛一
【スタッフ】
作・演出・殺陣:竹村晋太朗(劇団壱劇屋)
舞台監督:新井和幸
舞台美術:愛知康子
照明:小野健((株)NEXT lighting)
音響:椎名晃嗣(劇団飛び道具)
サンプラー:大谷健太郎(S.H.Sound / BS-II)
サンプラー補助:佐松翔
衣装デザイン:植田昇明(kasane)
衣装製作:山井ひなた(octpot)
小道具:小林嵩平(劇団壱劇屋)
ビジュアル写真撮影:TAIKI KOGUCHI
舞台写真撮影:河西沙織(劇団壱劇屋)
劇団制作:西分綾香(劇団壱劇屋)
当日運営:中宮智彩(江古田のガールズ)
広報協力:四方香菜(しかプロ)
主催:二ツ巴 製作委員会
企画・制作:ぴあ/劇団壱劇屋
問い合わせ先:ichigekiya_office@yahoo.co.jp
公式HP:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya
構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美