劇団四季は1964年よりファミリーミュージカルを製作してきたが、この8月15日、新作オリジナルファミリーミュージカル『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』 が開幕。8月29日まで自由劇場で上演ののち、9月12日より全国を回る予定となっている。
本作の原作は、日本児童文学界を代表する作家・岡田淳による「こそあどの森の物語」シリーズの第6巻「はじまりの樹の神話」(2001年理論社刊)。本シリーズは、1994年の初巻刊行以来、四半世紀にわたって読み継がれ、シリーズ累計約70万部を売り上げた児童文学の傑作。
こそあどの森で暮らす主人公・スキッパーが、大昔から来た少女・ハシバミを助け出したことを発端に、巨大な樹をめぐって神話と現実が交差するファンタジーが展開。
劇団四季のファミリーミュージカル、そのレパートリーは30以上。2019年に開幕した『カモメに飛ぶことを教えた猫』、これは実に26年ぶりの新作であったが、それに続くオリジナルファミリーミュージカル、また、『カモメ〜』もそうだが、今回の作品もクリエイティブチームのほとんどを劇団員が務めているのが大きな特長だ。
出だしはモノローグ、「初め、この世界は…」、樹が万物を創っている、という設定、舞台には大きな樹、この樹が様々に形を変えてステージング。そして場面は変わり、”こそあどの森”に住む少年・スキッパーが登場する。この少年は本を読むのが大好きで本を読み始めたら止まらない。だから、どんな楽しい誘いにも乗らない。しかし、皆、彼のことはよく理解しているから、誰もそれで気を悪くしたりはしない。そこへ、突然、尻尾が光る不思議なキツネ・ホタルギツネがやってくる。「森に死にそうな子がおるんや!」(なぜか関西弁)と。
ホタルと一緒に森に行くと、見たことのない大きな樹が!そこに縛り付けられている一人の少女が!ぐったりしている少女を助けると、なぜか大きな樹が消えていた。とりあえず、家に連れ帰り、少女は自分の名前や事情を説明する。名前はハシバミ、なんと大昔から来たという。いわゆる”タイムスリップ”、「心の声」で叫んだら、大きな樹もまた「心の声」でホタルギツネに呼びかけ、時空を超えてスキッパーたちの時代にやってきた、という次第であった。
ハシバミがやってきて、村の人々は最初は訳がわからなかったが、ハシバミを歓迎、楽しく暮らそうということに。だが、時折、遠くを見つめて寂しそうにしているハシバミ、彼女は残してきた弟や妹が気がかり。スキッパーはハシバミのそんな姿が気になって…。そんな時、ハシバミはやはり自分の時代に戻って自分の役目を果たしたい、戦いたいと言い出し、スキッパーは彼女の力になりたいと思い…というのがだいたいの流れ。
タイムスリップとか大きな樹、リュウ、といえば現代の技術ならプロジェクション・マッピングで最新の表現が可能だが、この作品はあえて”マンパワー”。大きな樹は、様々なものに変化するが、それを俳優陣がリズミカルに動かす。基本的に場面転換は俳優陣がセットを動かし、セット転換のために幕が下りて、その前で芝居をして、次の場面につなげるということはしない。よって、物語の転換もスピーディでもたつくことが一切ない。楽曲もキャッチーで耳に残る。また、セリフがところどころ、コミカルな味付けが施されており、ホタルギツネは最初、スキッパーからコンビーフをもらうが口に合わず、次にイワシの缶詰をもらったところ、こちらは美味しかったようで!また村人たちも楽しく、いかにもなおせっかいタイプのおばさん・トマト、おっとりとしていて自分の意見をバシッというスミレ、賑やかで少々うるさいくらいの双子・アケビとスグリ。こう言った個性的なキャラクターが脇を彩る。ダンスも展開の早い振付で、現代風。またホタルギツネが…ラストでその正体が明かされるが、関西弁で飄々とした雰囲気、突然、村を去るというくだりも、自由な空気感をまとった風来坊のようなユニークなキャラクター。また主人公のスキッパーが最初は本を読み始めたら止まらない、少々マイペースな少年だったのが、ハシバミと出会って変わっていくところは、成長と気づきが感じられる。
劇団四季のオリジナル・ミュージカルの歴史は古く、1964年に遡る。アンデルセンの『裸の王様』構成・演出は浅利慶太、脚本に寺山修司、当時の寺山修司はまだ20代であった。それから多くのファミリーミュージカルを生み出し、2018年に創作を専門にプロデュースする「企画開発室」を設置し、2019年に26年ぶりの新作ファミリーミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』を発表し、2020年には一般ミュージカルの新作『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を上演、そして今年の『はじまりの樹の神話』、企画決定はおよそ3年前。そこから劇団内でクリエイターを決め、着々と準備、また本読みから開幕まで3か月かける。クオリティの高い舞台はこうして作られるのである。
初日で観劇、この日のキャストはスキッパーに寺元健一郎、ホタルキツネに田中宣宗、ハシバミは小坂華加。スキッパーは本ばかり読んでいるので、最初は概ね俯いていて、誰かと何かをやるよりも本の世界に浸っているのが好き、という内向きな雰囲気から、ラスト近くでは、ハシバミの力になるべく、全力で彼女を応援、その過程を寺元健一郎が的確に演じ、田中宣宗のホタルギツネは、ちょっと人を食ったような雰囲気がキャラにピッタリ、関西弁も楽しい。また、小坂華加演じるハシバミ、心情の変化を細やかに演じ、また歌唱も!アンサンブル陣の群舞もパワフル。
時空を超えてやってきた少女・ハシバミ、自分の命は全て周りにある命と繋がっているという。翻って現代、コロナ禍、人と人との関わり合い、SNSが発達しても人と人との関わり合いやつながりは発展どころか、表層的、コロナ禍でそれが露呈した格好だが、この作品は、分断や距離が広がっている昨今、人とのつながりや他者への想いを強く打ち出している。コロナ禍だからこそ、いや、仮にコロナ禍が過ぎ去ってもこの作品が持つメッセージは色あせない。東京公演の後は日本各地をまわる予定。初日は大きな拍手で何度もカーテンコール。劇団四季の重要なレパートリーの一つとして、これから先、さらにブラッシュされ、上演されることであろう。
[あらすじ]
葉を枝いっぱいに茂らせた緑の木々が生い茂る森。スキッパーは、森の住人たちからの誘いに乗ることもなく、家で本を読みながら自分一人の時間を楽しんで暮らしていた。
ある夜、そんなスキッパーの家に尻尾が光る不思議なキツネ・ホタルギツネが息を切らして訪ねてくる。「死にそうな子を助けてほしい」と懇願され、一緒に森の奥に向かうと、巨大な樹に少女が両手を縛り付けられていた。縄を解いて少女を助けてやり、急いで降りて振り返ると、もうそこに樹の姿はない。驚きを隠せないスキッパーだったが、ホタルギツネに急かされるがまま、彼女を抱えて家に戻る。
少女の名はハシバミ。大昔から来たという彼女は、リュウの怒りを鎮めるためのいけにえとして巨大な樹に捧げられたという。恐ろしさのあまり、「心の声」で樹に助けを求めたところ、樹もまた「心の声」でホタルギツネに呼びかけ、時空を超えて現代までやってきたのだった。
事情を知った森の住人たちは、はじめは半信半疑だったものの、ハシバミを優しく迎え入れ、現代のあらゆることを教えながら森で一緒に楽しく過ごすようになる。そしてまたハシバミからも、自分の命は全て周りにある命と繋がっている、大昔からずっと繋がっていること、「サユル タマサウ ココロ」について学ぶ。
しかしある日、ハシバミはスキッパーに「私は村に戻らなければならない」と告げる。村に弟や妹を残して自分ばかりが平和に暮らしているわけにはいかない、過去に戻って自分の役目を果たしたい、という。すると、森の住人の一人・トワイエが、ある神話の話を持ち出してくる。あの巨大な樹は、世界の始めにあって、太陽や動物、人などを生んだ「はじまりの樹」ではないか。その神話では、樹に住み着いたリュウとハシバミという少女が戦い、退治したことになっている、と。
「過去に戻り、逃げずに戦いたい」というハシバミに対して、危険だからと反対する住人たち。しかし、スキッパーは「自分はハシバミの力になりたい。皆にも協力してほしい」という思いを仲間たちに伝える。スキッパーの真っすぐな思いに心を動かされた皆は、ハシバミのためになろうと力を合わせる。
ハシバミが過去に戻ってリュウと戦えるよう、樹を呼び出すために当時の楽器を作ったり、剣を作ったりと協力する仲間たち。ホタルギツネは再び樹と「心の声」を通じ合わせるため野生の暮らしに戻り、ハシバミは服も住む場所も変え、昔の感覚を取り戻そうとする。
そしてやって来た満月の夜。皆がハシバミの戦いに備える中、再び神話を読み直したスキッパーは、ある重要な真実を知る。ハシバミに真実を告げるため、既に戦いに向かった彼女の名を呼び続けるスキッパー。果たして、彼の声はハシバミに届くのか、そしてリュウとの戦いの行方は――。
<新作オリジナルファミリーミュージカル『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』 公演概要>
◇公演期間:2021年8月15日~29日
◇会場:自由劇場 (東京・浜松町)
◇2021年9月~ 全国ツアー公演。詳細は劇団四季HP)
https://www.shiki.jp/stage_schedule/?aj=1&rid=0087&ggc=9999
◇問合せ:0570-008-110
劇団四季公式HP:https://www.shiki.jp