ネット・SNS社会における匿名での発言の功罪、日常での対話や発言の在り方を改めて問いかける秀作。
<作品について>
小川絵梨子芸術監督が、その就任とともに打ち出した支柱の一つ、「演劇システムの実験と開拓」として、すべての出演者をオーディションで決定する「フルオーディション企画」。
第1弾『かもめ』(演出・鈴木裕美)、第2弾『反応工程』(演出・千葉哲也)、第3弾『斬られの仙太』(演出・上村聡史)に続く第4弾が『イロアセル』、2011年に倉持裕が新国立劇場のために書き下ろした作品で、演出に倉持裕自身を迎え、昨年10月より公募開始、11月末からおよそ3週間かけてオーデションを実施、出演者10名を選出した。
物語の舞台は海に浮かぶ、小さな島。その島民たちの言葉にはそれぞれ固有の色がついている。それは風に乗って島の空を漂い、いつ、どこで発言しても、誰の言葉なのかが島のどこ にいても特定されてしまう。だから島民たちはウソをつかない。ウソをつけない。ある日丘 の上に檻が設置され、島の外から囚人と看守がやって来る…言葉に色のない人々が──。
匿名だからこそ話せる抑えてきた本音、匿名という隠れ蓑を利用した無責任な発言─。2011 年の約 10 年前に執筆されたとは思えぬ、2020 年代の SNS 社会を揶揄したような架空の島 のおとぎ話。 ネット社会やコロナ禍において、対面を必要とせず、言葉だけに頼るコミュニケーションツ ールが発達・増加した現代に、日常における対話や発言の在り方を、今改めて問いかける。
<あらすじ>
海に浮かぶ、とある小さな島。その島民たちの言葉にはそれぞれ異なる固有の色がついている。言葉の色を可視化できる機械を装着することを強いられた島民たちは、いつ、どこで発 言しても、その色によって誰の言葉なのかが、島のどこにいても特定されてしまう。そのた め、彼らはいつも慎重に発言し、決してウソをつかない。ウソをつけない。 ある日丘の上に檻が設置され、島の外から囚人と看守がやって来る。彼らの言葉には色がな い。発言が特定されることもない。そして、彼らの前で話す時だけは、島民たちの言葉も色 がなくなることが判明する。 やがて島民が次々と面会に来て、打ち明け話をしていく。これまで隠し続けてきた島民たち の本心が徐々に明かされていく……。
<作・演出 倉持裕より>
『イロアセル』は、2011 年に僕が新国立劇場に書き下ろした戯曲です。
自分の話す言葉にそれぞれ固有の色が付いていて、おかげで発言に慎重だった人々が、あ る日色を失った途端、それまで抑えてきた醜い本音を語り出す……という、ネット上で豹変 する匿名の人間たちを揶揄したような話です。
この作品を書き終えた直後、東日本大震災が起きました。当時、ネット上には他人をいた わる優しい言葉があふれましたが、やがてそれもすぐに被災地や放射能を巡る攻撃的で差別 的な言葉に塗り替えられました。
あれから十年経ち、このコロナ禍でも似たようなことが起きています。
地震もウイルスも、暴言を吐きかける相手としては張り合いがない。そこで自分たちと同 じ人間の中から、もっともらしい理由をつけて標的を選び、隣近所誘い合ってうさ晴らしを 開始する……。
当初、このフルオーディション企画で自作を演出しようとは思っていなかったので、小川 絵梨子芸術監督やプロデューサー達から『イロアセル』を勧められた時は驚きましたが、上 記のような状況を鑑み、今、再びやるべき芝居だと思いました。
それから、全ての役をオーディションで選んだのは初めての経験でした。
普段からベストなキャスティングを目指してはいるものの、ここまで何のしがらみもなく、 作品イメージに合うかどうかだけを判断基準に選んだことはありません。従って今回、僕の 経験上、最も理想的なキャスティングとなっています。どうぞご期待ください。
<概要>
令和3年度(第76回)文化庁芸術祭主催公演 イロアセル
【スタッフ】
作・演出 倉持 裕
美術 中根聡子
照明 杉本公亮
映像 横山翼
音響 高塩顕
衣裳 太田雅公 ヘアメイク 川端富生 演出助手 川名幸宏 舞台監督 橋本加奈子
芸術監督 小川絵梨子
主催 文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場
【キャスト】
伊藤正之 東風万智子 高木稟 永岡佑 永田凜 西ノ園達大 箱田暁史 福原稚菜 山崎清介 山下容莉枝
【会場】 新国立劇場 小劇場
【公演日程】 本公演 2021年11月11日~28日
公式HP:https://www.nntt.jac.go.jp/play/iroaseru/