“ 三宅裕司 インタビュー ” 古希を迎えてますますパワーUP! 劇団SET ミュージカル・アクション・コメディ 「太秦ラプソディ ~看板女優と七人の名無し~」

劇団スーパー・エキセントリック・シアターの旗揚げは1979年のこと。それから途切れることなくミュージカル・アクション・コメディーを掲げ、ひたすら走り続けてきた。今年は旗揚げから59回目を数える公演、「太秦ラプソディ ~看板女優と七人の名無し~」。太秦といえば、かつては多くの映画会社が時代劇の撮影所をおいていたことで知られ、牧野省三・マキノ雅弘らのマキノプロ、阪東妻三郎プロ、片岡千恵蔵プロなど、中小の映画会社のおびただしい数の撮影所が所狭しと密集、そこから日活、松竹、東宝などの大映画会社の撮影所に集約、1950年代の時代劇最盛期はかなりの賑わいを見せていたが、現在は東映京都撮影所、松竹京都撮影所の2か所のみ。そんな太秦を舞台に時代劇につきものの、斬られ役の無名大部屋俳優たちの悲喜こもごもの物語。
今年70歳、古希を迎えてますます精力的に活動する三宅裕司さんにSET旗揚げ当時のことや東京の笑いについて、今回の公演について語っていただいた。

――今年、節目の年ということで、SET旗揚げ当時の思い出としては?

三宅:当時、アングラとか新劇とか、内容が難しいお芝居が多かったんです。実は個人的には、それがあまり馴染めなかった。僕は学生時代に落語研究会とジャズコンボバンド、それからコミックバンドをやっていたので、堅苦しいお芝居よりももっと多くの方が楽しめる、笑いと音楽を取り入れたお芝居をやりたいなと思って立ち上げたのが、ミュージカル・アクション・コメディーのSET(スーパー・エキセントリック・シアター)だったんです。それは『大江戸新喜劇』という劇団の旗揚げに僕が参加したことから始まっています。そのとき劇団青俳とか、いろいろなところから来ていたメンバーと一緒になって公演をしてみたけれど何かが違う。その後「辞めて新しい劇団を作りたい」という話をして、そこを退団した15人とともにSETを作りました。

――そして、劇団そのもののコンセプトが決まると。

三宅:とにかく、やりたいこと、やってきたことをぶち込むスタイルでしたね。当時はキャラクターショーのバイトもやっていました。そこは当然アクション中心のステージですからアクションを劇団の特技にしてそこに歌とダンスを入れてさらに僕がやりたかった「笑い」の要素も入れてミュージカル・アクション・コメディーと劇団のコンセプトを決めたんです。

――コンセプトに惹かれて集まったということでしょうか。

三宅:集まってから皆でコンセプトを決めたんですが、みんながコメディをやりたかったどうかは当時はわからなかったですね。売れたいというか、人気劇団になりたいという気持ちのほうが強い。青俳の人たちが多く来てくれたんですが、劇団青俳は新劇ですから、ミュージカル・アクション・コメディーとはだいぶ違う。そこに何か「売れる」要素を見出した人が参加してくれたのではないでしょうか。

――6月27日に『熱海五郎一座』も無事終了しました。東京の笑いは、やはり関西のものとは違いがあると思いますが、三宅さんとしてはどうお考えでしょうか?

三宅:自分がやりたい笑いをやっているうちに、「東京の喜劇」を代表すると言っていただくことが多くなったんですよ。僕としてはそこまでの自覚はないんですけれども、そう言っていただける理由ってどこだろうか、と考えて、“カッコよさ”と“ズッコケ”の両方を含んでいるからなのかな、という結論に至りました。やはりカッコいいものを音楽とアクションで表現しながら、コメディでズッコケ、という落差が東京喜劇と言ってもらえているんじゃないかと思いました。関西発の喜劇では、すべての要素が笑いの方向に全力なんです。むしろその方がエネルギーがいるかもしれません。対して、東京の喜劇はちょっと歌とダンスでも感動してもらおうかな、みたいな…ちょっとそこで逃げ道を作ってみたり(笑)。

――今回はサブタイトルには『7人の名無し』、太秦といえば、時代劇ですね。

三宅:太秦の時代劇専門の大部屋俳優たちのお話なんです。イメージ的には『蒲田行進曲』がいちばんわかりやすいかもしれません。もちろんストーリーは全然違いますけれども。今は時代劇というのが頻繁に作られていないですよね。どんどん衰退していく時代劇という世界で、俳優たちがあがいていく、というお話になっています。

――たしかに、時代劇って新しい作品はなかなか作られていないですね。

三宅:なので、今回はネット配信の会社が時代劇を撮りに来るとかハリウッドが時代劇を撮りに来るという設定も入れています。新しいものを模索して、作ろうとして苦しむという設定ですね。登場人物の名前は、現実の時代劇俳優さんの名前をちょっともじったものが多いですが、気づく人も結構多いかもしれませんね。ただね、名前が呼びにくくて芝居がしにくくて仕方がない(笑)。

――現実に無名の俳優さんを描く場合は今の状況もそうですし、シリアスなものになってしまいそうですが、そこをコメディに転化させているところに注目したいです。

三宅:シリアスに演じれば演じるほど、面白くなるというのが理想ですよね。そういった意味では今の太秦に実際にある撮影所の大部屋が舞台のストーリーですから、パロディもいっぱいできますし。根底にあるのは衰退という悲しい出来事なんですけれど、設定としては実はコメディに転化させやすいんです。あまりにも昔を引きずりすぎていて失敗するとか。演技が時代劇っぽすぎて監督に怒られるとか、斬られ役がなかなか死んでくれなくてしつこいとか。ハタから見ればコメディそのものなんですが、斬られ役の人にとってはその場面には並々ならぬ時代劇への想いがあって……と、設定としてはぴったり。

――本当に昔の時代劇では、倒れるまでにすごい時間がかかったり(笑)。

三宅:5万回斬られた男の福本清三さん、いらっしゃいましたよね、海老反りで倒れるのが有名な。倒れ方とかにも美学をもっていらっしゃるんだろうなって。それが、このお芝居をやろうと思ったきっかけでもあります。そういう種類のギャグを連続で織り交ぜて、最後感動のエピローグに持っていけたらなって思っています。僕も昔に剣友会に入っていまして。斬られ役は相当やりました。主役と絡む斬られ役になることがひとつの勲章ですし、主役に斬られてなるべく長く映っていたくて粘りに粘っていたら「そこ!斬られたらすぐ倒れろ!」と監督に怒られたことも(笑)。今考えるとそれってやっぱり、コメディですよね。

――それでは、最後にメッセージを

三宅:劇団創立から42年、本公演としては59回目になるのかな。これだけ長い間、ミュージカル・アクション・コメディーをやっていて、私も70歳になって。小倉もかなりの歳ですから、20代から70歳までいるという劇団ってなかなかないので、一丸となって40年以上培ってきたものの集大成を見せるつもりでいます。お客様が大いに笑って、最後感動できる作品を作ろうと思っています。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<概要>
劇団スーパー・エキセントリック・シアター 第59回本公演 ミュージカル・アクション・コメディー 「太秦ラプソディ ~看板女優と七人の名無し~」
脚本:吉高寿男
演出:三宅裕司
出演:三宅裕司 小倉久寛 劇団スーパー・エキセントリック・シアター

日程・会場:
[東京]2021年10月22日〜11月7日 サンシャイン劇場
主催:(株)スーパーエキセントリックシアター ニッポン放送
企画・制作:(株)スーパーエキセントリックシアター (株)アミューズ (株)アタリ・パフォーマンス

[愛知]2021年11月12日〜11月13日 穂の国とよはし芸術劇場
主催:公益社団法人豊橋文化振興財団

SET公式HP:http://www.set1979.com

撮影:斎藤純二
構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美