主演笠原浩夫,美青年タッジオ馬場良馬&松本慎也 Wキャスト スタジオライフ『ヴェニスに死す』忍び寄る死の影、光、美、そして憧れ。

スタジオライフ版の『ヴェニスに死す』が開幕した。

原作はドイツの作家トーマス・マンの中編小説。1912年発表。1971年ルキノ・ヴィスコンティによって映画化されたが、テーマ曲にグスタフ・マーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」を使用、マーラー人気復興に一役買った。1973年にはベンジャミン・ブリテンが、オペラ『ヴェニスに死す』(Death in Venice )を作曲。
スタジオライフでは1997年に青山円形劇場で舞台化。今回は24年ぶりの上演。主人公アッシェンバッハを笠原浩夫が演じ、美青年タッジオは馬場良馬(客演)・松本慎也のWキャスト。
原作者のトーマス・マンは1911年に実際にヴェニスを訪れており、そこで上流ポーランド人の家族の少年に魅せられてしまい、帰国後にこの小説を発表した。物語では主人公は50代で妻に先立たれ、子供も独立し、一人で旅行に来た、という設定だが、実際のトーマス・マンは、この時点では30代半ば、妻も子供もいた。初日に先駆けて公開ゲネプロが行われた。Aチームで観劇。
舞台上はほぼ何もない。アッシェンバッハ(笠原浩夫)とアッシェンバッハ・ダッシュ(曽世海司)、「我々には休暇が必要だ」。アッシェンバッハは疲れ切っていた。地位も名声も手に入れた高名な作家。きちんとした身なり、旅に出る。ミュンヘンを出て、アドリア海沿岸の保養地に出かけたものの、そこからさらにヴェニスへ、有数の観光地だ。宿泊するホテルは一流、有名な作家である彼はホテルにとってVIP。一流ホテルゆえ、それなりの人々が宿泊している。ひょんなことで彼はポーランドの上流階級の一家を見かける。娘たちの他に一人の美しい青年がいた。彼を見かけた途端にアッシェンバッハは一目で心奪われるのだった。彼にとっては眩しい存在、その美青年の名前はタッジオ(馬場良馬)。有名な作家であるアッシェンバッハは己の心の動きに戸惑い、感情に蓋をしようとするも、その感情は止めることができない。それを象徴するのが、黒い服を着たアッシェンバッハ・ダッシュ、彼はもう一人の”アッシェンバッハ”、二人の対話はまるで自問自答しているかのようでもあり、お互いに禅問答しているようにも見える。ここは観客の想像力。また冒頭部分で、ピエロのような格好の人物が意味深な台詞をアッシェンバッハに言う。ここは象徴的。

ヴェニスに着いてからは来る日も来る日も彼の頭の中はタッジオのことでいっぱい、海辺で遊ぶ姿は瑞々しく、そんな姿を目を細めてみるアッシェンバッハ。しかし、ヴェニスに忍び寄る影、人を死に至らしめる感染症・コレラ。ある日、ホテルに人が飛び込んできた。明らかに病気、驚くポーランドの一家、アッシェンバッハ。迅速に処理するホテル。ヴェニスは観光地、観光客が来なくなったら、街はやっていけない。ホテルを始め、疫病を全力で否定する。だが、どうしようもなく、その死の影はアッシェンバッハに忍び寄る…。

アッシェンバッハにとってタッジオは恋する相手であるが、それを超えた感情も見え隠れする。そして「美しいものからは離れられない」という。タッジオはアッシェンバッハにとって”ミューズ”、そして憧れ、美しく、生命力にあふれ、闊達。それにひきかえ、アッシェンバッハは歳を取り、しかも元々、心臓を患っている身。妻に先立たれ、子供達も独立、老いを感じる年頃、タッジオは自分とは真逆だ。タッジオの近くにいたいがためにヴェニスにとどまる。だんだん、弱っていくアッシェンバッハ、理容室に行き、髪を整えるだけでなく、白塗りの化粧まで。そして彼は人生の最期、クライマックスへ。

スタジオライフらしい、直球、ストレートな舞台。笠原浩夫が葛藤を繰り返す主人公・アッシェンバッハを好演、白塗りの化粧の後は、一瞬、輝き、その後はピエロのような哀しみを湛える。その彼が憧れるタッジオ、馬場良馬、タッジオは実は何気にアッシェンバッハが自分を見つめていることに気づいているのだが、そこを細かい演技で表現。アッシェンバッハ・ダッシュ演じる曽世海司は時には影のように時にはアッシェンバッハに寄り添う存在、自在変化な立ち位置を示し、より演劇的な空間を創り出す。

生と死、老い、ラスト近く、タッジオは遠くを指差す、それは未来なのか、光なのか、その指の先を見つめるアッシェンバッハ。結末は映画を観ていれば先刻承知。海の音、最後に感じる生きる喜び、パンデミックの最中のヴェニス、アッシェンバッハが最後に見た景色、その眼差しは穏やかだ。

<公演概要>
劇団スタジオライフ 『ヴェニスに死す』
原作:トーマス・マン
脚本・演出:倉田淳
日程・会場:2021年9月1日~8日 シアターサンモール
出演:
笠原浩夫 馬場良馬 松本慎也 山本芳樹 曽世海司 遊佐航 ミヤタユーヤ 池辺光完 伊藤清之 大村浩司 藤原啓児
Supported by トキエンタテインメント
企画・製作 スタジオライフ
公式HP:http://www.studio-life.com
Twitter 劇団公式: @_studiolife_
Twitter Studio Life THE STAGE: @GE_studiolife Facebook: https://www.facebook.com/studiolife1985/