『海の上のピアニスト』東京公演が9月16日より始まる。 映画にもなったアレッサンドロ・バリッコのイタリア文学を音楽ドラマとした作品。 生涯一度も船を降りることのなかった”天才ピアニスト・ノヴェチェントの役を内博貴、親友トランぺッター役は藤本隆宏。
開演5分前に汽笛が鳴る。出航の合図、粋な計らい。時間になり、始まる。舞台中央にピアノ。この物語の主人公であるピアニスト、ダニー・ブードマン・T.D.レモン・ノヴェチェント(内博貴)が登場し、鍵盤をたたく。 それから親友のトランペッター(藤本隆宏)が登場し、語りだす。彼はノヴェチェントと唯一無二の親友となる、彼は言う「海の上で永遠の別れをするまで」。映画を観たことがあるなら、結末はわかってしまうが、それでもこの物語に引き込まれてしまう。トランペッターは続けて「私にしか伝えられない物語」と。それからピアニスト(ゲネプロでは西尾周祐)が登場し、弾き始めるが、このメロディー、最初は流麗に、柔らかく、そしてドラマチックに変化し、激しくなる。ピアニストの波乱万丈な一生のよう。トランペッターは自分のことを語り、また、船内の様子も語る。大西洋を往復する豪華客船ヴァージニアン号、ヨーロッパ大陸からアメリカへ、「アメリカだ!」、歌、♪誰でもアメリカ人になれる♪と歌う二人。自由の国、そして世界の大国、アメリカ!この時代、1927年はリンドバーグがアメリカ・パリ間の飛行に成功、しかもプロペラ機。そんな年代だが、我々は知っている、1929年にアメリカの株が大暴落、その後の歴史は周知の通り。しかし、ここは船の上、ノヴェチェントはトランペッターに自分の身の上話をするが悲壮感は感じられない。赤ん坊の時、ピアノの下のレモン箱に入っていた。「大金持ちにはなれなかったが、ピアニストにはなれた」と。彼が8歳になった年、レモン箱を拾い、名付け親でもある黒人機関士ダニー・ブートマンが大しけで船は大揺れ、不慮の事故で亡くなってしまう。天涯孤独となったが、ピアノと出会い、来る日も来る日もピアノを弾き、ついに船の専属楽団のピイアニストになった。そこでトランペッターと出会うのであった。
テンポよくそしてピアノの演奏とともに物語は展開、彼の天才ぶりは評判となり、全米一のジャズピアニストであるジェリー・ロール・モートンがその噂を聞きつけ、ピアノで決闘!ということに。ちなみに、このジェリー・ロール・モートン、実在の人物である。
前半はユーモアたっぷりに明るく、そして後半、ノヴェチェントは陸地に降り立つ決心をするが…がだいたいの流れ。
主人公である天才ピアニスト・ノヴェチェントを演じるのは内博貴、涼しげでミステリアスなピアニストかと思いきや、トランペッターとの出会いの下りは少々お茶目、後半は陸に降りるかどうか悩み、ラスト近くは達観したかのような表情を見せる。
対する藤本隆宏、演じるキャラクターはトランペッターであるが、実はそれ以外の人物も演じる。黒人機関士ダニー・ブートマンを演じる時は学歴はないが、情に厚く、無骨に、そしてピアノ決闘をするジェリー・ロール・モートンを演じる時は自信たっぷり感を見せる。膨大なセリフ量、しかもキャラクターの演じ分け、長時間、舞台に。そして特筆すべきは歌!特に二人での歌唱シーン、ここは聴きどころ。そして物語のもう一人の主要人物、”ピアノ”。アジア国際ピアノアカデミーコンクール金賞始め、数々の受賞歴のある西尾周祐が華麗なテクニックを!そしてノヴェチェントとジェリー・ロール・モートンの決闘、タイプの異なるピアニスト、演奏の演じ分け、ここもハイライトシーンだ。
上演時間はおおよそ90分ほど、この濃密な90分に人生哲学がぎっしり。生きること、幸せなど様々なテーマを内包、観客の心に響くセリフ、音楽、贅沢な時間。俳優は二人だけのシンプルな舞台、そこに音楽。大掛かりな装置もなく、最新技術もなく、ただ、そこに物語がある。まさに「Simple Is Best」。
公開ゲネプロの前に簡単な挨拶。
9月16日の開幕を控えて内博貴は「いよいよ始まるな」と言い、藤本隆宏も「明日からいよいよ」、ピアニストの西尾周祐も「明日、本番、楽しく」とそれぞれ挨拶。新型コロナウイルス蔓延の中、幕が無事に開けられることは昨今、”奇跡”のようなこと、と言っても過言ではない。役については内博貴は「難しく考えるタイプではなく、自然に。演出家の星田さんとディスカッションしながら」と言い藤本隆宏は内博貴の方を見ながら「稽古場から好きになっちゃって(笑)、かっこいいんですよ、ドキドキしちゃって」と言い、隣で内博貴、思わず笑う。ピアニストの西尾周祐は「自分以外のピアニストを演じるのを楽しみにしています」と語る。ピアノ演奏、ただ上手く弾いていれば良いのではなく、”登場人物のピアノ演奏”になっていなければ成立しない。ここは演奏+αなところ。また、内博貴は藤本隆宏については「僕がレベル1なら藤本さんはレベル100」と大絶賛。さらに「(例えて言うなら)MCもやるけどひな壇もやってる感じ」とコメントし、そこに西尾周祐が「藤本さんはムードメーカー」とまたまた大絶賛し、内博貴については「立ち姿が綺麗」とコメント。ちなみに内博貴と西尾周祐は同い年。
見所については内博貴は「こういうタイプの作品は今までなかった。ピアノも素晴らしいし、藤本さんも素晴らしい。いろんなものを感じられる作品、不思議な空間になっています」とコメント。藤本隆宏は「音楽主体っていうのはなかなかない。素敵な音楽で心うごかされます。最後が泣かせる!泣きすぎるとお客様が〜」とコメント。また西尾周祐は「ずっと弾いてるっていうのはなかなかない。メインテーマが繰り返し、いろんなシーンで出てきます。またピアノを交互に弾くシーンは見所」と音楽家らしいコメント。
最後に内博貴が「このご時世に舞台ができるのは幸せです。感染対策はバッチリです!いろんなものを感じてもらえる作品、クルージング旅行、船に乗ってる気分になれます。楽しんでいただけたら」と締めくくり、会見は終了した。
≪物語≫
大西洋を往復する豪華客船ヴァージニアン号。その一等船客用のダンスホールのピアノの上に、レモンの箱に入れられた、生まれて間もない赤ん坊が捨て置かれているのを黒人機関士ダニー・ブートマンが見つけた。
ダニーはその赤ん坊に自分の名前、箱に書かれていた文字、そして1900年という新世紀最初の出来事にちなんで、「ダニー・ブードマン・T.D.レモン・ノヴェチェント」と立派な名前を付けて、我が子のように大切に船の中で育てる。
やがてノヴェチェントは、この船の専属楽団のピアニストとなった。 しかし船で生まれた彼は、一度も陸地を踏んだことがなかったのだ。 だが彼が弾くピアノはいまだかつて存在しない前代未聞の音楽。
それは評判を呼び、全米一のジャズピアニストが決闘を挑みに来るほどに。しかしノヴェチェントは完膚なきまでにうちのめしてしまう。
彼の天才ぶりがユーモラスに描かれる物語の前半から、この天才ピアニストにも解決できない人生の課題、
すなわち『どうしても船を降りることができない』という物語の後半へと続いていく。
ようやく陸地に降り立つ決心をしたノヴェチェントだったが・・・?
「道ひとつとったって、あんなにたくさんある。 君たち陸の人間は、どうやって自分の進むべき
正しい道を見分けられるんだい?」
<公演概要>
音楽劇「海の上のピアニスト」
作:アレッサンドロ・バリッコ
訳:草皆伸子(白水社刊)
上演台本・演出:星田良子
作曲・音楽監督:中村匡宏
美術:齋藤浩樹
照明:阿部典夫
音響:秦 大介
歌唱指導:宮川知子
振付:KAZOO
衣裳:doldol dolani
舞台監督:西川 也寸志
製作:アーティストジャパン
◆キャスト
ノヴェチェント役 : 内 博貴
トランぺッター役 : 藤本隆宏
ピアノ 西尾周祐 宮川知子(富山公演)
東京公演 2021年9月16日~20日 東京芸術劇場シアターイースト
栃木公演 2021年9月23日 栃木県総合文化センター サブホール
富山公演 2021年9月25日 富山県教育文化会館
石川公演 2021年10月7日・8日 北國新聞 赤羽ホール
大阪公演 2021年10月9日・10日 大阪市中央公会堂 大集会室
ホームページ: https://artistjapan.co.jp/novecento-1900/
Twitter:@aj_novecento
問合:アーティストジャパン 03-6820-3500
(C)2021.海の上のピアニスト