日本が誇る伝統芸能、 歌舞伎をより多くの人々に届けようと昨年誕生、 コロナウイルス禍による延期を経ながらも全国9か所を巡った公演「伝統芸能 華の舞」が、 今年も10月14日に開幕する。
市川右團次、 市川右近親子が「伝統芸能 華の舞」の魅力について語った。
まずは昨年のツアーについて、 「ほとんどの公演が春から秋に順延となってしまいましたが、 無事に各地をまわることが出来ました。 息子と共演した『連獅子』は一昨年のラグビーワールドカップ2019開幕式でも踊りましたので、 親子で1年以上『連獅子』に関わり、 息子にとっても成長の糧となったと思います」と、 手応えを語る右團次。 歌舞伎舞踊の様々な色を見せた昨年から一転、 今年は“ザ・歌舞伎”と言うべき荒事の代表作『鳴神(なるかみ)』を中心に据え、 右團次は鳴神上人を演じる。
「役の品位を大切にしつつ、 高僧ならではのチャーミングさ、 雲の絶間姫に騙されて猛り狂う、 その変わり目を大切に演じられたら」。 かつて澤瀉屋一門で“同じ釜の飯を食べた”笑三郎さんが雲の絶間姫を演じることになり、 久々の共演が楽しみだという。
『鳴神』の前には、 “楠木正成二題”と称して能楽『楠露(くすのつゆ)』と素踊り『楠公(なんこう)』を上演する。 右團次のほか右近、 大谷廣松、 市川弘太郎らが出演。 後者は右團次にとって思い出の演目だ。
「子供の頃、 舞踊家の父と一緒に何度か『楠公』を踊ったのです。 その頃僕は(三代目市川)猿之助(現・猿翁)の部屋子になって上京しており、 父とは離れて住んでいましたので、 父・楠木正成と別れる正行の気持ちが分かる部分もありました。 今回は立場を変え、 僕の正成、 息子の正行で踊らせていただきます。 彼と僕とでは持ち味が違うので、 彼の光るものを(稽古で)引き出していけたらと思っています」
今回は役の扮装をしない“素踊り”というスタイルでの上演。 それまで神妙な面持ちで父の話を聞いていた右近は、 本作への抱負を聞かれ、 「今までは衣裳を着て、 お化粧をして踊っていましたが、 今度はそれ無しで踊るので、 大変だろうと思います」とコメント。 右團次は「(衣裳などが無いと)分かりにくいのでは、 と心配されるかもしれませんが、 勇壮な合戦の場面もあればドラマティックな親子の別れの場面もあり、 とても分かり易いと思います」と自信を覗かせた。
緊急事態宣言下ということもあり、 この夏は家で一緒に過ごすことが多かったという右團次親子。 最近、 家の中で卓球をするようになり、 ついつい熱くなっているそう。
「普通の(親子)関係だとは思いますが、 稽古に入ると、 やはり力が入ります。 息子は厳しい稽古でも弱音を吐かない子で、 感情を自分の中で貯めながら、 それが表に滲み出てくるような演技をしていると思います。 今回もそういう彼らしさが出てくるといいなと思っています」と右團次が息子への期待を語れば、 右近からは父について「立ち回りとかがかっこいい役者だと思います」とリスペクトの言葉が。 「(父の指導は)優しいです」と言いつつも、 右團次から「(率直に)言っていいんだよ」と言われると「怒ると怖いです」と付け加え、 場が和む一幕も。
質疑応答の中では、 コロナ禍の中での全国巡業についての思いも問われ、 右團次は「覚悟の巡業です。 万全の対策で、 各地のお客様にご迷惑をかけないよう努めます」と表情を引き締めつつ、 「舞台を勤める僕らと、 拍手をくださるお客様たちの間で勇気、 元気のキャッチボールを行い、 一回きりしかない感動の空間を共有できれば」と公演の意義をアピール。
最後に、 「(今回は)歌舞伎のいろいろな部分を御覧いただける内容です。 巡業ということで僕らのほうから皆様のお側に参りますので、 歌舞伎がお好きな方にも、 初めての方にもいらしていただけましたら嬉しいです。 歌舞伎の上演劇場での公演より入場料も手ごろですし、 時間的にも多少短く、 見やすくなっています。 この機会に歌舞伎に親しんでいただければと思っています」と右團次が熱く語れば、 右近も「よろしくお願いします」と力強い挨拶で会見を締めくくった。
公演は10月14日から全国各地を回る。
各会場によりチケットの発売日が異なるため、 最新情報は公式サイトにてチェックを。
【公演概要】
伝統芸能 華の舞
演目
一、 楠木正成二題
・能楽 独調『楠露(くすのつゆ)』
・素踊り 『楠公(なんこう)』 市川右團次
市川右近
市川弘太郎
大谷廣 松 他
二、 歌舞伎十八番の内『鳴神(なるかみ)』
鳴上上人 市川右團次
所化白雲坊 大谷廣 松
所化黒雲坊 市川弘太郎
雲の絶間姫 市川笑三郎