「こつこつプロジェクト」とは小川絵梨子演劇芸術監督が、その就任とともに打ち出した支柱の一つ、「演劇システムの実験と開拓」として、一年間、3〜4 か月ごとに試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議を重ね、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、 そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めて いくプロジェクト。
時間に追われない稽古のなかで、作り手の全員が問題意識を共有し、作品への理解を深め、舞台芸術の奥深い豊かさを一人でも多くの観客の方々に伝えられる公演となることを目標としている。
2021年4月より始動した第二期。
2021年7〜8月に1st試演会を終えた3名の演出家のコメントが届いた。
[福山桜子 『7ストーリーズ』]
稽古が好きです。地球上に存在していなかった「新しい人間」を生み出す作業は、想像と創造の面白みが詰まっています。ですが時間はいくらあっても足りない。本番前は必ず「もっと時間があれば…」という思いが浮かびます。しかし、こつプロでは1年かけて稽古ができ るので、出演者5人のうち4人が「三役」演じる翻訳物にトライしてみました。三つの役を生 きるのは通常の役作りに比べて当然3倍の時間が必要であり、また、瞬時に切り替える稽古 が必要になる。翻訳物に必要な、文化背景も含めて落とし込む時間や、日本語として成立し たリアルな会話の追求する時間も必要です。こつプロでは、その稽古をする時間がある。と ても贅沢。4月から月に3、4日、翻訳の調整をしながら徹底した脚本解釈と読み込みをして いますが、一つ一つの台詞一言一句、全員で向かい合うことで、既にそれぞれの役者の持 つ多様性が役に現れつつあり、5人の出演者ではなく、そこには13人の「新しい人間」が存在しています。「もっと時間が…」のない域まで行くのがとても楽しみです。
[船岩祐太 『テーバイ』]
我々『テーバイ』チームは1stでは、ソフォクレスの原作を中心に新たに上演するに相応し いギリシャ悲劇の台本作成を目的とした稽古を行った。紀元前に書かれた古典を読み直す事 は、古くから伝わる物語の中に今日を発見する作業だ。芸術ジャンルの中で演劇は発案から 観客の目に届くまでに時間がかかるジャンルだと思うが、それでも創造のプロセスの特性上、 刻々と変化する時代状況に即応できる柔軟性は持ちにくい、しかし今回の企画ではその時間 がかかる演劇の自明性を逆手にとって、存分に今日を考える機会になった。また俳優と単語 の一つ一つを追求する作業を経てできた「台詞」達は実に意味深長な響きを得る事が出来たのではないかと思う。
[柳沼昭徳 『夜の道づれ』]
「歩く」という基本的な行動を稽古場で行いながら、三好十郎ならではともいうべき長尺の 会話や思弁をどう関連・分離させつつ、舞台表現に仕立ててゆくのか。1stではその可能性 を検証しました。14日間、本読みや立ち稽古もさることながら、一般的に演出の役割とされがちな作品の文脈づけといった礎を、参加された俳優たちとの多くの対話のなかで掘り下げ られたことは、時間と予算の制約の多い日常の「稽古」では得られない豊かさと発見があり ました。 三好作品の大きなテーゼ「今をいかに人間らしく生きるのか」。2ndはその命題の源泉である「生きづらさ」を、いかにして現代の観客と共有できるのかを演出的に検証したいと考えています。
「こつこつプロジェクト」公式HP
https://www.nntt.jac.go.jp/play/kotsukotsu/