1958年に発表された『薔薇と海賊』は同年に文学座が初演、三島由紀夫自身がこの舞台を涙を流しつつ観ていたという逸話も。思想的で高尚なイメージを持たれがちな三島由紀夫、しかし本作は虚実の夢と純愛が詰め込まれた異色のファンタジー。
舞台となるのは、童話作家の楓阿里子邸。そこに、阿里子の童話のファンで30歳の松山帝一が訪ねてくる。自分を童話の中の主人公・ユーカリ少年だと信じている知的障害の青年で、後見人の額間に付き添われてやってきた帝一。楓邸は童話の世界のように仕立てられ、阿里子は19歳の娘・千恵子にも登場人物のニッケル姫の扮装をさせていた。帝一はこの家にずっと住みたいと言い出し、阿里子と帝一の夢の世界のような純愛が始まる。一方、額間と出会い、押し込めてした本音があふれ出て来る千恵子。帝一の登場で、阿里子の夫の重政、その弟の重巳との館での生活にもひずみが生まれていく。
三島由紀夫はこう記す。
「世界が虚妄だ、といふのは一つの観点であつて、世界は薔薇だ、と言ひ直すことだつてできる。しかしこんな言ひ直しはなかなか通じない。目に見える薔薇といふ花があり、それがどこの庭にも咲き、誰もよく見てゐるのに、それでも「世界は薔薇だ」といへば、キチガヒだと思はれ、「世界は虚妄だ」といへば、すらすら受け入れられて、あまつさへ哲学者としての尊敬すら受ける。こいつは全く不合理だ。虚妄なんて花はどこにも咲いてやしない。(略)」
この世界は何なのか、夢なのか、その愛の姿とは…という問いを紐解く意欲作。
出演は霧矢大夢、多和田任益、田村芽実、須賀貴匡、鈴木裕樹、大石継太、飯田邦博、羽子田洋子、篠原初実、松平春香。
演出を務める大河内直子からコメント到着。
<コメント>
「世界がひっくりかえっても別にかまやしないー」
三島由紀夫の戯曲、初めての挑戦です。
虚構と現実がひっくりかえり、世界が薔薇となったものがたり、
憧憬の地への船出。
三島由紀夫が託した思いに私たちの現在(いま)が出会いますよう。
大河内直子
<公演概要>
unrato #8『薔薇と海賊』
作:三島由紀夫
演出:大河内直子
日程・会場:
[東京]
2022年3月4日~13日 東京芸術劇場シアターウエスト
[大阪]
茨木クリエイトセンター
2022年3月25日・26日 茨木クリエイトセンター
[出演]
霧矢大夢 多和田任益 田村芽実 須賀貴匡 鈴木裕樹
大石継太 飯田邦博 羽子田洋子 篠原初実 松平春香