駒田航, 井上和彦, 田丸篤志, etc.出演 朗読で描くミステリー 「アルセーヌ・ルパン〜ああ、哀しき怪盗紳士〜」千の顔を持つ怪盗、その心と生い立ちと愛と。

世界的に有名な推理小説「怪盗紳士ルパン」、有名声優陣,俳優陣による朗読劇が10月19日、紀伊国屋ホールで開幕、公演は24日まで。

ルパン、と聞くと大概の日本人はコミック・アニメで有名な『ルパン三世』をイメージするが、ここでは本家、アルセーヌ・ルパンのこと、フランスの小説家モーリス・ルブランが発表した推理小説・冒険小説「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の主人公の怪盗、およびシリーズの総称。
シリーズは1905年から四半世紀以上の長きにわたって執筆、バリエーションも多く、前期はルパンの物語がメインになるが、中盤、後半はだいぶ趣が異なる。ここではおもに前期(1905〜1907年)の作品を扱っており、第1話から始まる。そのあとは抜粋、また第1話で登場する若くて美しい女性・ネリーとの後日談も登場する。観劇したのは初日、アルセーヌ・ルパンを駒田航、ガニマール警部は田丸篤志、男たちを汐谷文康、ミス・ネリーは工藤晴香、女たちを阿部里果が演じる。
始まる前はスクリーンに20世紀初頭のパリの街並み、エッフェル塔に凱旋門、ベルサイユ宮殿、広い通りには馬車。プロローグはルパンのライバル、彼を追っているガニマール警部の独白から始まる。ガニマール警部はここでは語り部的な立ち位置である。それから複数の男女がルパンについて口々に語る。「大男」「背が高い」「イイ女」「かっこいい紳士」これだけ聞いているとてんでんばらばらな証言。ルパンは神出鬼没で変装の名人であることがわかる証言だ。ルパン役とガニマール役、ネリー役以外の出演者は複数役を演じる。ルパンとガニマールの会話、追う者と追われる者的な対峙ではなく、かすかにわかりあえているのか、そんなことも想像できる出だし、それから本編が始まる。

豪華客船「プロヴァンス号」、作品が書かれた時代を感じる。無線電信、また当時の階級社会も読み取れる。この船にルパンがいるとわかる。船は航海中、逃げることは不可能な状況、あの大泥棒、「千の顔を持つ男」、情報の伝達はこの時代は文字通り「口コミ」、SNS時代の現代でもよくあることだが、話が”大いに盛られている”可能性もあり、乗客たちは大いに不安がる。そんなこんなでやがて船は目的地であるアメリカ・ニューヨークへ、果たして、そこには…。
基本的に推理小説・冒険小説に分類される原作、だが、ルパンは多くの女性を愛した。恋愛小説的なところもある。船上で出会ったネリー、互いに花を、ネリーは白い薔薇、ルパンは赤い薔薇。キャストもルパン役は黒のジャケットに赤い薔薇、中のシャツは赤、対するネリー役は白のワンピース、胸には白い薔薇。他のキャストは黒を基調にした衣装、時代がかった服装ではなく、現代風のスタイリッシュな衣装。会話、意気投合した男女。だが、後に男の正体がわかる。ここは特に言うまでもないだろう。
ガニマール警部とルパンの関係、ガニマールは人柄も実直でどちらかというとお人好しなタイプ。対するルパンは、内面は自分に正直なようだが、複雑な生い立ち、時々、相手を煙に巻くような発言、どこまでが本音でどこまでが”作って”いるのか、わかりづらい一面もあるが、それらをひっくるめてが彼のキャラクターなのだろう。ルパンは世間からは人気があった。20世紀初頭はまだまだ階級社会、富める者と貧しき者の差が激しく、また女性の地位も低かった。中盤(第3場)では有名な「王妃の首飾り」。この「王妃の首飾り」は1785年、革命前夜のフランスで起きた、かの有名な「王妃の首飾り事件」。ヴァロワ家の血を引くと称するジャンヌ・ド・ラ・モット伯爵夫人が、王室御用達の宝石商ベーマーから160万リーブル(金塊1t程度に相当する)の首飾りをロアン枢機卿に買わせ、それを王妃マリー・アントワネットに渡すと偽って騙し取った語り詐欺事件で、コミック「ベルサイユのばら」にも登場。そしてこのルパンシリーズにも登場、ルパン生誕100年記念映画にも、さらに「ルパン三世」にも登場する、とにかく今や世界的な有名事件となっている。

ここで幼いルパンが登場するが、そのエピソードは、ルパン自身もどうにもならない、厳然たる階級社会が背景。ルパンがなぜ”ルパン”になったかが、ここで描かれる。ルパンの母、おそらく身分の高い階級の出身のようだが、身分の低い男と結婚し、また、その男が獄中で死去。密室犯罪になるが、ここの下りが面白いところはルパンの執念。大人になった彼は綿密な計画を立てて…。第四場の「哀しき怪盗紳士」で「富を独り占めしようとする傲慢な者たちから、彼らに似つかわしくない財宝を取り上げているだけ」とルパンは言い、「その素顔をあぶり出してやる」とも言う。ルパンの行動のエネルギー源とも言える。ここの下りで運命の再会をする、偶然にも。その顛末は哀しく、儚い。赤い薔薇と白い薔薇。薔薇は色によって花言葉が違う。赤い薔薇は「情熱」「熱烈な恋」「あなたを愛しています」など。対する白い薔薇は「純潔」「清純」「深い尊敬」。また薔薇は美のヴィーナスの涙から生まれたとも言われている。悲しげな曲調の音楽、白い薔薇が映像で…儚く、ひらひらと花びらが落ちる。成就しない恋の終焉。そしてラストはルパンvsガニマール警部。立場的には敵対関係だが、会話はどこかわかりあえた者同士のような親しみも感じる。だが、怪盗ルパン、鮮やかにガニマールを欺く。簡単に捕まるはずがない。痛快さと哀しみと、そして推理モノらしい頭脳戦もあり、この作品が長きにわたって愛されるのもよくわかる。
「いつかもっと深い闇に落ちるぞルパン!」
だが、ルパンは自分の運命を受け入れる、「私がアルセーヌ・ルパンだ」。

声優陣、駒田航演じるルパン、音楽朗読劇「オペラ座の怪人」などでタイトルロールを演じてきたが、年齢的にも役柄に合い、細かい表現も。ガニマール警部役は田丸篤志、しょっぱなの”オープニング”はたった一人で。最初のモノローグで”つかみはOK”といったところだろう。ネリー役の工藤晴香、音楽朗読劇「オペラ座の怪人」や声のプロフェッショナルが奏でるリーディングシェイクスピア「マクベス」などに出演、愛らしさ、ルパンが恋する女性ネリー役がよく似合う。また、多くのキャラクターを演じる汐谷文康、阿部里果、演じ分けはかなり大変だったと思うが、そこは声のプロならでは。
ロビーには劇中に出てくる白い薔薇と赤い薔薇が飾ってあったが、香りがロビーに漂い、朗読劇の余韻を感じることができるのと薔薇の花は撮影OK。記念にスマホでパチリ。

<アーティシャルフラワー>

ルパンとネリーのイメージに合わせた香りが楽しめる。

<配役・日程>
10月19日 19:00
アルセーヌ・ルパン:駒田航
ガニマール警部:田丸篤志
男たち:汐谷文康
ミス・ネリー:工藤晴香
女たち:阿部里果

10月20日 19:00
アルセーヌ・ルパン:井上和彦
ガニマール警部:赤羽根健治
男たち:汐谷文康
ミス・ネリー:三田麻央
女たち:杉山里穂

10月21日 19:00
アルセーヌ・ルパン:高塚智人
ガニマール警部:山中真尋
男たち:福原かつみ
ミス・ネリー:峯田茉優
女たち:優木かな

10月22日 19:00
アルセーヌ・ルパン:竹内栄治
ガニマール警部:和田将弥
男たち:福島潤
ミス・ネリー:青山吉能
女たち:真田アサミ

10月23日 13:00
アルセーヌ・ルパン:寺島惇太
ガニマール警部:狩野翔
男たち:浦和希
ミス・ネリー:諏訪彩花
女たち:大原さやか

19:00
アルセーヌ・ルパン:寺島惇太
ガニマール警部:野島裕史
男たち:伊藤健太郎
ミス・ネリー:深川芹亜
女たち:吉田仁美

10月24日
13:30/17:30
アルセーヌ・ルパン:平野良
ガニマール警部:林剛史
男たち:三宅健太
ミス・ネリー:宮澤佐江
女たち:真凜

<概要>
日程・会場:2021年10月19日〜24日 紀伊国屋ホール
原作:モーリス・ルブラン
脚本・演出:土城温美
音楽:西川裕一
舞台監督:今井東彦
照明:湯山和弘
音響:佐川敦
衣裳:伊藤正美 上杉麻美
演出助手:木村孔三
主催・企画・制作
株式会社MAパブリッシング/株式会社東京音協
公式HP:https://lupin.rodokugeki.jp
公式ツイッター:https://twitter.com/koten_reading