今年、2021年はダンテ没後700年の節目の年にあたる。武楽座が新作を発表、なんと、ダンテの『神曲』を!
ダンテの『神曲』と能の共通点に着目、キリスト教的な死後の世界を武士の死生観に置き換えて、ダンテが活躍したイタリア・ルネサンスと武楽の活動の「サムライ・ルネサンス」とを重ね合わせ、能楽堂で公演することの意義に重きを置きながら、「サムライ」を軸に、武芸と能などの武士文化を融合した「武楽」ならではの、世界初の視点で発表する演目。武楽 創始家元の源 光士郎がシテ六役に挑戦し、ダンテ役に南圭介、ベアトリーチェ・静御前役に蘭乃はな、演出にはVR能『攻殻機動隊』などを手がけた奥秀太郎。どのような演出になるのか、奥秀太郎のインタビューが実現した。
――武楽『神曲 修羅六道』演出のオファーを受けた感想は?
奥:ダンテ、と言っても日本人にとっては相当、馴染みがないですよね。ただ、僕はイタリアのヴェネツィアとの共同制作も体験していますし、3D能の作品もヴェネツィア・ビエンナーレの前夜祭で上演させていただいたこともあります。源さんも結構、ミラノで賞を受賞されたこともあるし、そういう意味ではダンテがやっと来たか、といった印象でしょうか。
――実はベースがあったと。タイトルに「修羅六道」と入っていますが、ダンテの『神曲』はもともとキリスト教のお話ですよね。
奥:仏の教えとは共通項が意外とあるというか。イメージとしては、登場人物にダンテがいて、ダンテが日本の侍の真髄を知る、みたいな話になっているんです。『神曲』のストーリーでは地獄や煉獄を巡るというものがありますけれども、その部分がまさに「修羅六道」です。能にも「修羅物」という言葉があるくらい、よく扱われているものですし。
――ダンテと仏教をどう結びつけるのか、興味深いです。
奥:『神曲』自体は漫画のテーマにも使われていて、馴染みがないながらも知っている人はいると思います。ただ、『神曲』と謳ってはいるものの、オリジナルを構成し直したり、なぞったりというよりかはダンテと日本の融合……と考えた方がわかりやすいかもしれません。
――今回の見どころは?
奥:やはり、見どころとしては能を現代的にどう解釈しているか。能のフォロワーたちが作った演劇、エンタメになると思うんです。いろんな能のエッセンスというか、かっこいい部分を入れていると思いますし。そして、いい意味で和文化、コロナ以降の和文化の発展型解釈としてできているんじゃないかと。
もちろん、テクノロジー的なところもいろいろ使っているんですけれども。これからはこういうことがスタンダードになるんじゃないか、という能楽堂での演出についても。能楽堂っていろんな意味で制限がすごくあるところなので。だからこそ伝統として守ってこられた面もありますが、それをうまく活かしたことはやれるんじゃないかなと思っています。
――ちなみに、ダンテ役の南圭介さん、ベアトリーチェ役の蘭乃はなさんは能楽師ではありませんよね。稽古についてはいかがでしょうか。
奥:お2人とも、結構能について勉強されていらっしゃるようです。蘭乃さんは最近、花柳流の名取になられたので、日本舞踊自体はずっとやっていらっしゃったようですね。今後いろんな人が入り口として「能のシテってこうできるんだな」とかいう段階に行けたらいいなって思っているんです。最近、能を習い始めたみたいな方も増えてきたようなので。もちろん能楽師から見たらまだまだ、という部分はあるかもしれませんが。とはいえ裾野が広がるってことは僕としてはいいことだなと思っています。また今回もVR能『攻殻機動隊』のように、時代に先駆けた作品になるのかも(笑)。
『神曲』とはまったく別の話になりますが、12月に神楽の演出をすることになっていまして。島根県あたりだと神楽って130以上の団体が存在しているらしいんです。神楽って伝統芸能だから、後継者不足で減少の一途で……と思っていたら、全然そんなことなかった。高校にも神楽の部活があるくらい。神楽って能の前身でもあるし、ある意味伝統芸能自体が見直されているんじゃないかと。そういう中で武楽しかり、神楽しかり、すごく面白いムーブメントだなと思っています。
さらに言えば、能楽師さんってほぼ男性。そんな中、武楽座さんの作品では女性の参加者が上がることもあります。男女の垣根もないし、やれることも多いので、だからこそ裾野が広がりやすいんじゃないかなって思います。
――それでは、今回演出はどうなっているでしょうか。
奥:今回は、VRは使用しないんです。演出に映像はさほど使わない予定です。でも、最近は『攻殻機動隊』で具象的な映像としてさんざんやりきったので。とはいえ映像自体は使うのですけれども。今までやってきたような、なにかを説明するものとは違ったものにしようと。
さらに、この作品はあくまで能がベースなので。従来の伝統的な能と比べると表現がある程度自由ではありますけれども、イメージとしては能の”新派”みたいな感じで考えていただけたら。
――最後に読者にメッセージをお願いします。
奥:今回もすごく「早い」作品になります。見に来てくれたお客様もいい意味で参加者であると思うんですよね。能って体験型の演劇に近いので。新しい武楽という能の”新派”(能楽の要素をまた新たな見せ方で表現する形)がどんなことをやっているのか、ぜひ目に焼き付けてほしいですし。ここから新たな時代の1ページを刻もうとしているところですので。新しいエンタメの誕生を、お客様にはぜひその証人になって、楽しんでいただければと思います。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。
<ストーリー>
ダンテは、終生理想とした女性ベアトリーチェが若くして他界し、絶望に打ちひしがれ気が付くと暗い森に迷い込んでいた。大蛇に襲われおびえるダンテを素戔嗚尊が救い、武の真髄と和歌の功徳を語り、神船を授け、ベアトリーチェに会いたくば死後の世界を通り抜けるよう命ずる。ダンテは生きたまま彼岸を目指し、神功皇后から宝剣を授かり修羅道に入る。源義経、平経正、平知盛と相見え、武士の生き方に感じるものがあり変化していく。そして、ついに修羅道の中心部にて、修羅王と対峙する。
<概要>
ダンテ没後700年記念・武楽誕生15周年記念公演
武楽『神曲 修羅六道』
日程:令和3年(2021年)11月9日 (火)
会場:二十五世観世左近記念 観世能楽堂
製作総指揮・作・脚本:源 光士郎 (武楽 創始家元)
出演:源 光士郎、南圭介、蘭乃はな、石山裕雅、須田隆久、高橋 千 ほか
公演公式サイト:https://bugaku.net/shinkyoku2021/
Facebook:https://www.facebook.com/296134820422820/posts/4044087265627538/?d=n
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし