創立35周年! 「『音楽座ミュージカルは本物しか出さない』と思ってもらえるような作品を打ち出し続けていきたい」 インタビュー プロデューサー 石川聖子

音楽座ミュージカルが来年2022年に35周年を迎える。オリジナルミュージカルにこだわり続けて、多くの作品を生み出し、ミュージカル界を盛り上げる人材も多数輩出。12月には『7dolls』の公演、来年は周年に向けてより意欲を燃やす。
この音楽座ミュージカルの創成期から制作に携わってきたプロデューサーの石川聖子さんのインタビューが実現した。

――2022年で35周年、節目を迎えますね。

石川:はい。旗揚げが1987年でした。来年で35周年となります。

『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』初演

――所属俳優さんの若い方はまだ、生まれてないですね。

石川:ほとんど生まれていないですね(笑)。35年、あっという間でした。

――初めて音楽座ミュージカルを拝見したのが『とってもゴースト』の初演。他の方から「ミュージカルを作っている音楽座が面白いよ」と教えてもらいました。旗揚げ公演は残念ながら拝見しておりません。

石川:2作目の『とってもゴースト』の初演は大変でした。シアター・アプルでの公演で盆も使いました。ペラペラのピカピカの衣裳をつけていましたね、手作り感満載で(笑)。お金をかけられない状態でしたので。でも、再演あたりからだんだん洗練されていきました。1作目の『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』の初演では宇宙人が3人登場するのですが、そのうちの一人を猫にしました。猫は言うことを聞かないので大変で(笑)、猫専用の楽屋も用意しました。再演からは猫は出していないです(笑)。

――犬はミュージカル『アニー』などで舞台にも出ていますが、猫は…(笑)当時の「ある、ある」ですね。

石川:それからいろいろと経験を積ませていただき、少しずつミュージカル創作に長けていきましたが。

――青山劇場でも公演しましたね。

石川:はい。規模もだんだん大きくなっていきました。1996年に一度解散しましたが、有志が集まった「音楽座ミュージカルを上演する会」が後押ししてくれてプロデュース公演を行い、その時には『メトロに乗って』を発表しました。2004年にRカンパニーを設立して再結成し、2005年7月にPARCO劇場で『21C:マドモアゼル モーツァルト』を上演しました。

『メトロに乗って』

――早いペースで新作をどんどん生み出すスタイルではなく、一つの作品を何度も上演するスタイルですね。

石川:今現在のレパートリーは14作品で、『SUNDAY(サンデイ)』がその14作品目にあたります。完成形を求めて回を重ねて洗練させていくスタイル、常に進行形“ing”なので、ずっと挑戦していますね。一回創ると作品に対して愛情が湧き、完成度を高くしたいと思い、単なる再演にはしたくないので“今だったらこうやろう”と…新作と同じくらいの手間ひまかけていきます。

――一人の座つき作家が創るのではなく、みんなで話し合うスタイルですよね。

石川:みんな、とは言っても核になる何人かですが、“次はどうやろうか”と…テーマ、方向性などは前代表がいらした時は前代表の相川レイ子が最終的にすべて決めていました。

――続けて観てみると変えているところがよくわかります。2021年の夏には『JUST CLIMAX』をやりましたね。

石川:『JUST CLIMAX』は、音楽座ミュージカルのいろんな作品の一番のクライマックスのシーンに自分たちの伝えたいものが詰まっているので、それを横串にさした時にいったいどういうドラマができるのか、それをやってみようかと。一人の女性が人生の中でいろいろなものに出会っていくことを、舞台装置に迷路を使ってそれを表現しました。今までにはない新しいことをやってみようと思って創ったものです。

『JUST CLIMAX』

――確かにどの作品も主人公は迷路の中で生きているといえますね。

石川:『シャボン玉〜』で迷路は初演から使いました。前代表の言葉ですが「人生は迷路、その中でさまざまな人と出会う、それも突然に。迷路も悪くないでしょ」。出合頭に何かに出会うことにはきっと意味がある、それを避けないで受け入れて生ききることが人生だと。私たちはご存知のように特別優秀な人材を揃えているわけでもないですし、大したことのない人間たちがただ一生懸命にやる、これが音楽座ミュージカルそのものです。

――親との出会いもそうですね。最近は“親ガチャ”という言葉もあります。

石川:それを、ポジティヴに捉えたら素晴らしいと思います。世の中は計算してその通りになったことは一回もないですよね。

――出合い頭に出会ったこと、人、もの、全てが生きる道ですね。

石川:皆、出口に向かっていくのですが、曲がりくねっていて先が見えなくてわからないところが面白い。いつもそう簡単にはいかないことばかりですが、生きることって素晴らしいことですし、ネガティヴに捉えられがちなことを自分の意志でポジティブに捉えることだってできる。「自分の意志の問題でしょ」と。ミュージカルの創り方は回数を重ねたので多少洗練されてきたと思いますが、根っこのゴツゴツしたものはいつまでも持っていますね。

――“みんなで考えて、みんなの手で創る”という意味での“手づくり”。

石川:そういう意味では、変わらないですね。前にこういうことをやってうまくいった、というようなことをなぞっても使えない。その瞬間に生まれるもの、その時代に生きているものだけが作品になる。世の中にウケようと思って創ったことは一度もありません。

――人間は成功体験にとらわれることが多いですね。

石川:はい。成功体験にとらわれるとろくなことはない(笑)。それはエンタテイメントに限らず、ですね。世の中のありとあらゆるものがそうじゃないかなと。俳優たちも“昨日うまくいったから”と、それをなぞった瞬間は最悪ですから。演じる人間も作品を創る人間も、原点に立ってその瞬間に何を感じるか、常にそれを問われていると思います。

――35周年に向けて計画はしているんですよね。

石川:はい。来年の秋には新作を出したいなと。『SUNDAY(サンデイ)』の次の作品になるので。方向性は決まっています。自分たちが観たいものは自分たちで創り出すしかないです。

――また、音楽座ミュージカルを卒業して活躍している方々を拝見すると、ベースがしっかりなさってる。

石川:今、活躍している方たちは、昔から突出した努力をし、感性を磨き、真面目に取り組んでいたし、野心や欲が強かったと思います。どこも同じですね。問われていることは常に同じです。

『七つの人形の恋物語』

――12月は『7dolls』の公演が控えていますね。

石川:今回はテーマも変えています。原作はとても魅力があるので、どう編集し直すか、その飽くなき挑戦を今回もやってみたいと思っています。切り口を変えたらいったいどうなるか…お楽しみに。

――最後に読者へメッセージを。

石川:「音楽座ミュージカルは本物しか出さない」と思ってもらえるような作品を打ち出し続けていきたい。あそこのはどれも間違いない、と思っていただけるような作品を。そういう“ブランド”になりたいと思います。観ていただいて「本物だ」って思ってもらえる作品創りをこれからも続けていきたいと思います。

――ありがとうございました。12月の公演、それから来年の新作も楽しみにしています。

<音楽座ミュージカルについて>
1987年の旗揚げから現在に至るまで、一貫したテーマのオリジナルミュージカルを創り続けています。それぞれの作品はその精神性とオリジナリティを高く評価され、文化庁芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞、読売演劇大賞など多くの演劇賞を受賞しています。

<上演作品一覧>
「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」、「とってもゴースト」、「チェンジ」、「マドモアゼル・モーツァルト」、「アイ・ラブ・坊っちゃん」、「リトルプリンス(星の王子さま)」、「泣かないで」、「ホーム」、「メトロに乗って」、「21C:マドモアゼル モーツァルト」、「七つの人形の恋物語」、「ラブ・レター」、「グッバイマイダーリン★」、「SUNDAY(サンデイ)」

<2022年公演予定>
JUST CLIMAX(ジャストクライ マックス)」
日程・会場:2022年2月12、13日 草月ホール
「ラブ・レター」
日程:6~9月
新作ミュージカル「KARELU(カレル)」
日程:2022年11月

<12月公演概要>
『7dolls』
日程・会場:2021年12月10日〜12月12日 草月ホール
原作:ポール・ギャリコ『七つの人形の恋物語』
出演:北村しょう子・清田和美・高野菜々・森彩香・五十嵐進・大須賀勇登・小林啓也・広田勇二・藤田将範ほか
脚本・演出・振付:ワームホールプロジェクト
音楽:高田浩・井上ヨシマサ・石川亮太・金子浩介
製作・著作:主催:ヒューマンデザイン
協力:一般財団法人草月会・草月文化事業株式会社
公式HP:http://www.ongakuza-musical.com/about

取材・文:高 浩美