「赤と黒のオセロ」は、2017年に発表された作品、2020年に公演を予定していたが、コロナ禍で上演を断念、2021年11月再演の運びとなった。アトリエファンファーレ東新宿にて開幕した。
登場人物は二人。三人を殺して死刑判決を受けた死刑囚。 そして、その冤罪を訴えるジャーナリスト。この二人が絡むことはなく、物語は、死刑囚、ジャーナリスト、それぞれの視点から一人芝居で進行する。
ゲネプロは鳳恵弥、田辺千香の組み合わせ。
舞台上はほぼ何もない。ボックス型の赤い椅子と黒い椅子、そして人の背丈ほどの額縁。ロック調の音楽が鳴り、一人の人物が登場する。ジャージー姿、たった一人、誰かに語っているようにも見え、また、”独白”にも見える。死刑判決を受けた死刑囚、黒い椅子にあたかも誰かが座っているように話しかける、いや言葉を投げつけている、という風情。
「あんた、子供、いないでしょ」「子供なんて動物だよ」と。時折、口汚い言葉も出てくる、悪態をつく。死刑囚は様々なことを語る、自分の過去、自分の考え。考え方や過去は人間の数だけあり、当事者はそれが至極まっとうなのだと思う。この死刑囚にとっては、それまで過ごしてきた時間で得たものが、それが誰がなんと言おうと、それはある意味”正しい”のであり、”正義”なのである。そして暗転し、全く違う人物が登場する。パリッとしたシャツ、パンツスタイル。職業はジャーナリスト。椅子の位置はさほど変わっていないが、額縁の位置が先ほどとは反対の位置に。キッパリとした物言い、自分の信じる道に対して揺るぎない自信に満ちている。「見過ごしてはいけない」という。
さしずめ社会派ジャーナリスト、といったところであろう。この死刑囚を助けたい、その思いは決して情緒的ではなく、信念を持って、真剣にそう思っている、嘘をつくのはもってのほか。”正義”のためなら、という強い意志も感じられる。
最後に死刑囚を演じた俳優が黒いスーツ姿で登場し、語りかける。これといった結末を用意しない作品。何が正しいのか、何が間違っているのか、”絶対”というものはこの世に存在するのか否か。昨今はSNSが発達し、誰もが情報発信ができる時代。そこでは時折、”正義”という名のもとに誰かが誰かを”バッサリと斬る”ような発言も。誹謗中傷、人の道を外れた(と、思われる)人への非難。「赤と黒のオセロ」のタイトルの意味するところ、赤とは、何もないという意味。黒とは、何モノにも染まらないという意味だそう。空虚、そして、その反対にある揺るぎないものの象徴としてつけたタイトルとのこと。オセロは黒と白が裏表になった駒を使ったゲーム。このオセロの駒のように全く真逆と思われているものは実は裏表のよう。正義とは一体、何なのか、上演時間は60分だが、凝縮された60分であった。
また、俳優陣の組み合わせを見ると一つとして同じ組み合わせはない。しかも男性、女性、混ざっている。つまり、死刑囚もジャーナリストも性別や年齢に左右されないキャラクターであることがわかる。つまり、個々の演じる俳優の持ち味や解釈によって変わるということ。すべてが一期一会の回である。
ゲネプロ終了後に会見が行われた。登壇したのは、脚本の江頭美智留、演出の池谷雅夫、出演の木ノ本嶺浩、鳳恵弥、朝倉伸二、田辺千香。
演出の池谷雅夫は「2年前に一度、上演しました。一組、一組、同じホンですが、全部違います」といい「役者さんの解釈、組み合わせ、表現で楽しめる作品です」とアピール。脚本の江頭美智留は「2年前に上演し、そのあと、よその団体でも上演しました。少し台本を変えています。これからもいろんな形で上演できたら」と語る。キャラクターの設定には性別、年齢、そして国籍も問わない普遍性がある分、上演の形態は色々ありそう。
ゲネプロで迫真の演技で魅せた鳳恵弥は「いろんな可能性がある作品です。丁寧に正義について考えました。人を守ろうとする気持ちが純粋、自分勝手なものにあると人を傷つける、(このキャラクターは)ペンを武器にしている人ですが、今はSNSで一般の人ができるようになり…危ない部分について考えてもらいたい、自分の中で考えるきっかけになれば。演じる喜びを感じています、セリフ一つ一つ丁寧にやらせていただいてます。この作品を世の中に伝えることができたら」と語る。鳳恵弥の発言を受けて木ノ本嶺浩が「何を言えばいいのかなーすべて伝えてくださって(笑)」といい、一同、思わず笑う。「作品の読み方でそれぞれの色が出てくるかと。『えらいものを目撃したな』と…(ゲネプロを見て)僕はナイフで刺された感じなので…」と語る。このゲネプロを観劇した朝倉伸二も「今日観て色々ビックリしています。稽古では自分がこうやって『どうですか』と…それに対しての演出、俳優自身の考えをもとにした演出なので、今日観て『全然違うわ〜〜〜』と。その人の解釈でやって、演出がそれのフォローをしてくれているだけ、性別も年齢も違うので。例えば僕が子供を愛している、というのと女性が子供を愛している、というでは、芝居が全く違う方向に行く、しかも相手役も変わる、1コ観て、もうひとつ観てくれたら10倍ぐらい楽しめる」とコメント。ゲネプロでは初っ端からパワー全開だった田辺千香は「2年前に観た衝撃、立ち上がれないくらいの衝撃!まさか、こっちの側(舞台)に立つとは!こんなにも心を持っていかれる!体力を使うお芝居です!演じることではなく、生きること、他の人のを観るのが楽しみ」とコメント。
また初演時の上演スタイルについての質問が出た。脚本の江頭美智留は「スタイルは同じ」とコメント。つまり、登場人物は絡まない、一人芝居で進行する形態。さらに演出家より補足「役者の個性を大事にしています」とのこと。シンプルでいながら、キャラクターの内面は深淵、俳優陣にとっては演じるたびに新しい発見が見出せる内容、なかなか稀有な舞台。
<キャスト組み合わせ>
11月30日(火)
15:30 田辺千香・鳳恵弥
19:00 清水ひとみ・安保匠
12月1日(水)
15:30 辻野花・櫻井孝之
19:00 朝倉伸二・鳳恵弥
12月2日(木)
12:00 中村真知子・木ノ本嶺浩
15:30 清水ひとみ・騎田悠暉
19:00 橋津宏次郎・飯島瑛里
12月3日(金)
12:00 朝倉伸二・騎田悠暉
15:30 阿部みさと・木ノ本嶺浩
19:00 阿部みさと・児島功一
12月4日(土)
12:00 辻野花・櫻井孝之
15:30 田辺千香・安保匠
19:00 中村真知子・騎田悠暉
12月5日(日)
12:00 中村真知子・児島功一
15:30 阿部みさと・鳳恵弥
19:00 朝倉伸二・木ノ本嶺浩
<概要>
舞台「赤と黒のオセロ」
日程・会場:2021年11月30日~12月5日 アトリエファンファーレ東新宿
脚本:江頭美智留
演出:池谷雅夫
出演:
木ノ本 嶺浩
安保匠
阿部みさと
騎田悠暉
児島功一
清水ひとみ
田辺千香 中村真知子
鳳恵弥
飯島瑛里
櫻井孝之
辻野花 橋津宏次郎
朝倉伸二
制作/SUI
プロデューサー/山川ひろみ
問合:funfair1804@yahoo.co.jp (劇団クロックガールズ)