ミュージカル『GREY』、様々な思惑が交錯するテレビ局、何があっても生きていく。

意欲的な作品を発表し続けている制作会社conSept。『深夜食堂』『いつか〜one fine day』、『Hundred Days』、『Fly By Night〜君がいた』、『サイドウェイ』など小ぶりながらも良質な作品創りを続けている。そして、2021年12月には100%オリジナルミュージカル『GREY』を上演、全くの白紙からディスカッションを重ねて立ち上げた作品である。

幕開き、西田藍生(矢田悠祐)が少々イラついた様子で登場、頭をかいたり、うろうろしたかと思うと座ったり…そして走り去る。生バンドが入り、チューニング、それから白いワンピースを着た女性が登場し、バンドを紹介、彼女の名前はshiro(佐藤彩香)、それから本格的に始まる。音楽、早速続けて2曲。shiroはシンガーソングライターという設定なので、生演奏の面々この瞬間は劇中バンド的な立ち位置になる。西田藍生と久世橙(遠山裕介)が登場、shiroを褒める久世橙。そこへ衝撃的な!室井茜(梅田彩佳)が慌てた様子でやってくる、「shiroちゃんが、自殺した」。大量の薬を飲んで自殺を図った。白いワンピース姿のshiro、おどけた調子で「私なんですけどね」と。語り部的な立ち位置でありながら、物語の渦中の人物、というわけだ。時間は遡る。
物語の主な場所は、テレビ局。様々な思惑が交錯する。視聴率は欲しい、タレントを売り出したい、広告収入はテレビ局の”生命線”、スポンサーは、テレビ局にとっては『スポンサー様』、彼らの顔色を伺いながらのお仕事。藍生は構成作家だが、小説家になりたいと思ってる。欠員が出たリアリティ番組にバンド仲間のshiroを推す。shiroを応援したいと思う気持ち、shiroもそれはわかっている。バンド仲間だったカメラマンの羽生金銀(竹内將人)もshiroの活躍に期待するも、なかなかに難しいテレビ局、そう簡単にはいかないことはわかっているので、少々心配気味。

それを知ってか知らずかshiroは自分がやれることを懸命にこなそうとするが…がだいたいの流れ。広告代理店の局担当の黒岩冬一郎(羽場裕一)、久世橙は彼を”レジェンド”と呼び、いつも”ヨイショ”する。コミカルであるが、どこかいやらしさも感じる”ヨイショ”ぶり。室井茜(梅田彩佳)はなんとなく、そんな久世を”斜め”に見ている。そして報道局の九条紫(高橋由美子)、いかにも”やり手”風情で貫禄も漂う。shiroがどことなく事故で亡くなった娘に似ていた、よってshiroがなんとなく気になる様子。また、黒岩冬一郎は元夫、娘が事故死してからはなんとなく夫婦仲がギクシャクし、離婚。shiroを軸にして人間模様が展開する。どこかにいそうな登場人物たち。楽曲に乗って、それぞれの立ち位置や思惑、性格などをわかりやすく提示。会社で仕事を続けるためには処世術も必要、久世橙はそれをフル活用、西田藍生は好きで構成作家をやっているわけではない。小説家になるのは才能だけでなく、運も必要、構成作家をやっていれば食いっぱぐれることもなく、小説のネタも拾えるかもしれない。shiroは番組のために懸命だが、それが裏目になり、スポンサー一押しのタレントより視聴者にウケてしまう、という皮肉。

一見、シニカルだが、ここにいる登場人物たちは皆、懸命に生きている。悪人はいない。自分に自信がなかったり、夢を追ってみたり、あるいは会社という”世界”で生き残りたい、共感できる人物ばかり。また、現代らしく、登場人物たちは皆、ストレスフル、藍生は心因性色覚障害を患う。そんな彼らのそんなこんなを上演時間2時間ちょいで見せる。歌唱場面が多く、ぐっと状況を圧縮して見せる。歌唱力も皆、高くエモーショナル。特にshiro役の佐藤彩香はシンガーソングライターという役どころなだけあってソロは聴かせる。ストレートプレイではなく、エンタメ要素の多いミュージカルという手法を使い、内容は社会派。それでも生きていく。バッドエンドにはならないので、そこはご安心を。登場人物たち、それでも進んでいく、その先に何があるのか、実は彼らもわかっていないが、”ほんのすこしの光”を感じる。人生は迷路のよう、何に出会うかわからない、夢をつかめるかもしれないし、ダメかもしれない、いつもとかわり映えのしない景色かもしれない、そんな現実をスタイリッシュに見せるので深刻にはならずにテンポよく、そして見終わった後は心地よい余韻。100%オリジナルなので、再演を重ねて、より洗練された作品になる予感。可能性に満ちた作品だ。

<SYNOPSIS>
リアリティ番組に出演していた新人歌手が自殺を図った。 なぜそれは起きたのかの顛末を、 エモーショナルな楽曲に乗せて送る群像ミュージカル。
藍生(あおい/矢田悠祐)は小説家志望で構成作家。 欠員の出た番組に、 学生時代のバンド仲間shiro(しろ/佐藤彩香)を推薦する。 同じくバンド仲間だったカメラマン金銀(きらり/竹内將人)はそんな展開を喜びつつも心配げ。 番組プロデューサー橙(ともる/遠山裕介)や、 局アナの茜(アカネ/梅田彩佳)に可愛がられ、shiroはたちまち人気ものになる。 しかし番組スポンサーの一押しタレントより目立ち過ぎるという問題が起きる。
一方、 テレビ局の報道局員、紫(ゆかり/高橋由美子)はshiroに別の思いを持っていた。 彼女は三年前に交通事故で亡くした娘みどりと似ているのだ。 紫の別れた夫で、 番組を作った広告代理店の局担当、黒岩(羽場裕一)は番組存続のためshiroの人気を下げる命令を現場に下す。 皮肉なことにその責任が藍生に回って来ることで、物語は動き出す。

<出演>
矢田悠祐:西田藍生(にしだ・あおい) 役
高橋由美子:九条紫(くじょう・ゆかり) 役
佐藤彩香:shiro(しろ) 役
竹内將人:羽生金銀(はにゅう・きらり) 役
梅田彩佳:室井茜(むろい・あかね)役
遠山裕介:久世燈(くぜ・ともる)役
羽場裕一:黒岩冬一郎(くろいわ・とういちろう)役

<公演概要>
ミュージカル『GREY』
公演日程:2021年12月16日(木)〜12月26日(日)
会場:俳優座劇場
脚本・作詞・演出:板垣恭一
作曲・音楽監督:桑原まこ

ミュージカル『GREY』公式HP:https://www.consept-s.com/grey/
conSept公式:https://www.consept-s.com/