沖縄の日本復帰50年の節目の年に、返還直前の沖縄を畑澤聖悟による脚本、栗山民也による演出で描く新作オリジナル作品。演出家・栗山民也が長年見つめてきた沖縄が題材、作家・畑澤聖悟に書き下ろしを託し、会話劇初主演となる松山ケンイチと初タッグ。返還直前の沖縄に生きる人々の様々な想いが爆発した、歴史的にも意義の大きなコザ騒動を背景に、沖縄、本土、アメリカ――戦後沖縄の縮図のようなバーでの一夜を描く物語。
母親の愛情、妹への想いをめぐって分断してしまった二人の血のつながらない兄弟。コザ騒動の夜、それとは全く関係なく、家の中で起きた事件により、ばらばらになりかけた家族に変化が起きる―――いびつな「偽の家族」が、心からぶつかり合いわだかまりを溶かしていく様子を通して、沖縄という土地が背負わされているもの。現在も変わらぬその業と見つめるべき未来を浮かび上がらせていく。この作品で松山ケンイチ演じるハルオの弟役を演じる岡山天音さんのインタビューが実現した。
――この作品に出演ことになった時の感想をお願いいたします。
岡山:僕は本当に、このコザ騒動に関して「聞いたことがある」くらいの印象で。題材よりも演出の栗山さんや、共演者の方々ととても濃密な時間を過ごせる機会になるんじゃないかなと思ったことのほうが大きいです。ずっと映像作品ばかり出演していましたし、知らないことをたくさん知ることができるんじゃないかなという期待感が非常に高かったです。そして、実際の史実の事件だったりそれに付随する沖縄の歴史だったりというところを少しずつ調べているところなんです。時代劇とかもそうですが史実に基づいたお話というのは根が深い、現在も続いているし本当に時間をかけてそういったものを自分の血肉に変えていく作業をしていかないとなと。思っていたよりも道のりは長いな、奥行きがあるなと感じています。
――台本を読んだ印象は?
岡山:現実にあったことや、そこに暮らしていた人のニオイみたいなものを感じられる台本だなと思いました。実際の固有名詞がよく出てきて、知らない事も多かったですが、そういうものを超えて現代を生きる人が見ても、その人の今の人生で見て見ぬ振りしたり横にひとまずおいていたりした止まっている時間を、また前に押し進める力になり得るんじゃないかなと今のところは思っています。
――作中で描いている登場人物の関係性については、ほんとうの家族よりも濃密な感じもしそうですね。
岡山:そうですね。この時代性や、コザという土地ゆえの事情、そういうものが混ざり込んでいるので、かなり変異種のような形というか。本当にこの家族の中にしかない繋がりというものがあるので。かなり独特だと感じます。
――それでまた、沖縄という特殊な背景があり、お母さんにあたる人物が子ども2人を引き取ったり。沖縄の戦後の歴史ならではといった感じが見えます。現在でも基地の問題も根強く残っていますし……。それでは、共演の方々についての印象は?
岡山:余さんは、10代のころにお会いする機会があって。でも今回のように本格的にお芝居をするのは初めてです。とはいえ演じられているおかあのような、包容力というか受け止めてくれる優しさみたいなものをすでに感じています。
松山さんは、面白い人ですね。まだガッツリお話した段階ではないんですけれど。観察日記を書きたくなるくらい、見たことのない人だなとも思うし、とっても知りたいと思わせられる方だなと。だから今まで、その面白さが反映されて魅力的なキャラクターがいくつも生まれてきたのかな、と思っています。演じられてきた代表作以上にご本人の印象もすごく強い。これからご一緒していろいろ学びたいですね。
――ちなみに、沖縄に行ったことはあるのでしょうか?
岡山:はい。子どものころに母と旅行で行きました。ただそのとき、母とめちゃくちゃ喧嘩しまして。母がひとりで海に行っちゃったから、ずーっとテレビばっかり見てました(笑)。あとは、ゴハンでしょうか。母と一緒に、国際通りに外食をしにいったときすごくおいしかったのを覚えています。また、国際通りっていろいろなものが詰め込まれている雰囲気があって、歩いているだけで探検しているような楽しさがありましたね。
――沖縄のお料理って、出汁が昆布なんですよね。採れない昆布をわざわざ北海道から買い付けて……そうした沖縄県で育った人のおおらかさというか。余さん演じるお母もそうした気質にあふれているように見えました。
岡山:なるほど、そうかもしれません。血もつながっていなかったり、素性のわからない子どもを引き取るくらいですし。そういう人柄とかに文化とか、生きる術が反映されているのかもしれません。昆布のお話がまさかの興味深いところに(笑)。
今度、松山さんと、物語の舞台である1970年当時を知る方々にお話を聞きに、沖縄に行ってくるので、楽しみですね。
――それでは、最後にメッセージを。
岡山:台本を読んで、物語の全貌を掴んできた今思うのは、やはり僕もこれからどんどん史実に基づいた勉強を掘り下げたいです。そこに生きた人々の、内側に眠る炎みたいなものを感じるので。本当にとても濃い舞台作品になると睨んでいます。観ていただく方にも、体感してもらいたいなと思っています。ここには確かな歴史の一部が描かれているから、そういうところから今生きている場所のことを、ふと立ち止まって思いを馳せてもらえたらなと、願っています。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。
<ストーリー>
1970(昭和45)年12月20日(日)未明。コザ市ゲート通りにある米兵相手のバウンショップ(質屋)兼バー「hana」では、看板の灯が落ちた店内で、おかあ(余 貴美子)、娘のナナコ(上原千果)、おかあのヒモのジラースー(神尾 佑)が三線を弾きながら歌っている。そこへ、アシバー(ヤクザ)となり家に寄り付かなくなった息子のハルオ(松山ケンイチ)が突然現れる。おかあが匿っていた米兵を見つけ、揉めていると、バーに客がやってくる。「毒ガス即時完全撤去を要求する県民大会」帰りの教員たちだ。その中には、息子のアキオ(岡山天音)もいた。この数年、顔を合わせることを避けていた息子たちと母親がそろった夜。ゲート通りでは歴史的な事件が起ころうとしていた。翻弄され続けた激動の沖縄を強く生きたひとつの家族の物語。
<概要>
タイトル:『hana -1970、コザが燃えた日-』
日程・会場:2022年1月9日~1月30日 東京芸術劇場プレイハウス
※2月 大阪、宮城 公演あり
[出演]
松山ケンイチ
岡山天音
神尾 佑
櫻井章喜
金子岳憲
玲央バルトナー
上原千果
余 貴美子
[スタッフ]
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也
美術:伊藤雅子
照明:服部 基
音楽:国広和毅
音響:井上正弘
衣裳:西原梨恵
ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:田中麻衣子
舞台監督:加藤 高
主催:ホリプロ
企画制作:ホリプロ
公式HP https://horipro-stage.jp/stage/hana2022/
公式Twitter https://twitter.com/stagehana
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし