脚本家、演出家 マキノノゾミによる企画Makino Playの第2弾公演はハリウッドが舞台の『モンローによろしく」は1993年にマキノ主宰の劇団M.O.P.にて上演し、同年、東筑紫学園戯曲賞を受賞した作品で初の再演。
主演のハリウッドスター男優キースを演じるのは時代劇から2,5舞台まで幅広く活躍する財木琢磨、そして女優志望の娘シェリーに2021年だけでも6作品の舞台に出演している那須凜。そしてオーディションで選ばれた出演者と共に脇を固めるのは劇団M.O.P.の劇団員でもあった三上市朗。 1940〜1970年代のハリウッドを舞台に現代のエンターテインメント界が抱える問題と、⺠主主義の危機の今を生きる我々がどこに向かうべきかを問いかけていく。物語は1941年、映画の都ハリウッド。新進気鋭の映画監督ビリーとその親友でもあるスター男優のキースは、これまでの常識を打ち破る野心作の製作にあたり、相応しいヒロイン役の女優が見つからず頭を悩ませている。だがそこへ飛び込んで来た女優志望の娘シェリーの中に輝く才能を発見する二人。二人三脚の映画作りが始まるが、やがて日米開戦。終戦後のレッド・パージ(赤狩り)。 世の中がエンターテインメントに望むものも次々に変貌してゆき、映画に賭ける彼らの純粋な想いは容赦なく時代の波に呑み込まれてゆく。初再演、作品へ思い、マキノノゾミさんへのインタビューが実現した。
――『モンローによろしく』を2022年に上演することになったきっかけは?
マキノ:スケジュール自体はコロナの前から決まっていました。還暦を超えて、自分の中のいろんなものに対する総仕上げみたいなことを考えるようになりまして。そのときに自分の古い作品とかも整理してみて、もう一度リメイクしたり再演したりして原点というものを確かめてみようと。ちょうど1年前に『東京原子核クラブ』という作品をやったんですけど、で、それに続いてもう一本というときに、たぶんこれが劇作家としての自分の原点だなというのが『モンローによろしく』でした。戯曲そのものは、いわゆる「若書き」なんでちょっと恥ずかしいのですけど(笑)、これを当時の自分と同じくらいの若い俳優さんたちと一緒に作ってみたいというのが、まぁ原点回帰といいますか、個人的な僕の想いです。あと、僕、今もそうですけど、当時から流行を追うとかあまり得意ではなくて、それよりもできるだけ経年劣化の少ない、射程距離の長い作品を書きたいという基本的な野望があって。この『モンローによろしく』も、社会の空気みたいなものがこわばってくると、そういうことで人間の信頼関係がたやすく壊されてしまうといったような、できるだけ普遍的なことを書いたつもりです。だからそのあたりはむしろ上演した29年前よりも今のほうがより切実に、ヒリヒリするように受け取ってもらえる内容なんじゃないかと。まぁその辺がこの作品を選んだ理由ですね。
――物語の出だしは、ちょうど1941年の日米開戦のあたりから始まって、それからいわゆるハリウッドの赤狩りの時代に入っていくわけですけれども。描かれている内容は不変性があるというか。
マキノ:これを書いたころには「昔はそんな過酷なこともあったんだ」くらいの感覚でしたね。そんなにリアリティはなかった。よもや将来、自分の肌身に感覚として迫ってくるとは思っていなかった。遠い過去の話だと思ってたら、それが何だか近い未来のように思えてきたというか。あまり良いことではないですけどね。あの、話ちょっと変わるんですけど、先月大阪でやったんですけど、『十二人の怒れる男』というのも、主題はずばり民主主義ですよね。アメリカって繰り返しああいうものがリメイクされたりとか、デモクラシーの危機を乗り越えるための新作が定期的に上演されるんですね。「我々はこういう大事なことを忘れちゃいけないよね」ということを繰り返し確認し合い、不断に言い続けるという演劇文化がある。アメリカは特に多民族国家だったから、昔からそういうのが必要だったんだろうなとも感じますけれど。自分の中にも、ちょっとそれに近い感覚が生まれてきたのかも知れません。
――たしかに、『十二人の怒れる男』と同じテーマの繰り返しは世界中で行われているようですね。そういうものに気づき始めたのかなという空気感もあります。
マキノ:あとコロナでこの2年くらい人との距離感みたいなものが変わってきたでしょ? もはやマスクも人と距離を取るということも、暮らしの常識として登録されてしまいましたよね。けど、演劇ってそういう距離感をグッと踏み込むものだから。この『モンローによろしく』なんかまさにそう。人との距離を詰めないと成り立たない芝居。だから距離を置くクールで最先端な芝居も片一方ではあるのでしょうけど、こういう、人間の距離をぐっと詰める芝居に対する渇望みたいなものがそろそろ生じてきているんじゃないのかな。「ここらでまた観たいな」っていう。少なくとも僕はそうですね。
――『モンローによろしく』は言葉遣い、テンポ感が独特ですよね。映画の字幕的な表現のような部分もありつつベースはシリアスで。
マキノ:それはもう、こんな嘘八百の芝居はないわけで(笑)、そもそもアメリカ人じゃねぇし俺たち、みたいな(笑)。いわゆる翻訳劇調なんだけど、そもそも翻訳劇調って何だよ、調って(笑)インチキもいいとこじゃねえかっていう(笑)。ここまではっきりとした嘘というか「作り話」はないと思うんだけれども、でもそもそも「嘘が本物になる」っていうことこそが芝居の醍醐味だと思ってるので。だから僕にとっては、この作品は、凝縮された僕自身の強烈な「演劇論」でもあるわけです、って良く言いすぎか(笑)。
――完全なフィクションの中に実在の人物が入ってくるところもおもしろいですね。
マキノ:それっぽいでしょう(笑)。そこは僕が“つかこうへい育ち”だからというのもあります。つかさんは「舞台の上でだけ、一瞬のリアリティがあればそれでいいんだ」って方でしたから。昔『ヒモのはなし』という舞台がありましたけれどそこに出てくる「シカゴ工科大学」なんてのも実在しませんからね(笑)。「マサチューセッツ工科大学なんて役者が噛みそうな名前は使えん!」っていう(笑)。「舞台で喋ることなんか全部嘘っぱちでいいんだ」という考え方が、もう僕の骨身にしみついちゃっているので(笑)。
――演劇は「虚構の世界」でありますけれども、実はそこに本当のことが隠されているというか。それが演劇のおもしろさなのではないかな、と思います。
マキノ:僕も100%そういう考えですね。僕のはそういう話が多いんです。「見てきたような嘘」というか(笑)。
――キャストさんは若い方ばかりですし、オーディションの方もいらっしゃいますね。稽古については?
マキノ:稽古はまだまだこれから紆余曲折あると思いますが、昔、劇団でやったときは、役者と僕の世代が近かったから感覚的なことはあまり説明とかいらなかったというのがあるんですけど、これだけ世代が離れると、どこから話してどこから埋めていけばいいのかと途方に暮れます(笑)。でも、それがいちばんの楽しみでもあります。若い世代の子とやるときは。きっと、僕自身も気付かされることが多いでしょうし。
――たしかに、マキノさんとキャストさんとはほぼ親子みたいな年齢差。
マキノ:だよねえ(笑)。下手すると孫になりかねない感じ。初演のときに生まれていない人もいますからね。まだ影も形もない(笑)。でもそのジェネレーションギャップがおもしろいし、お互いに刺激的であればいいなと思っています。演劇や演技に対する考え方もいろいろ違うでしょうしね。昨年やった『十二人の怒れる男』では世代の近い、昔から知っている役者たちと一緒にやって、それはそれで楽しかったですが、でも今回は真逆なので。知っている領域がぜんぜん違うから、こっちも楽しみ。なので(若い俳優にとっては)僕と一緒に作ったことを引き出しの一つにしてもらえたらいいなとも思っています。
――それでは、最後にメッセージを。
マキノ:劇団M.O.P.も解散して10年以上になるので、僕のことを知らない人も作品を観たことないという人もきっと多いかと思いますが、この『モンローによろしく』は、M.O.P.の原点にもなっている作品なので。まぁ温故知新といいますか「昔の舞台ってどんなのやっていたんだろう」という興味で来ていただいてもいいですし。そもそも僕はどんな世代の方にも楽しんでもらいたいと常にそう思って舞台を作ってますから、何にも構えずふらりと観に来てもらえればいいです。けっこうな感動をお約束します! 他にも面白そうな舞台はいろいろあると思いますが、皆さんの「観劇ラインナップの1本」に加えていただければ。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。
<Makino Playについて>
Makino Playは、脚本家・演出家のマキノノゾミによる企画公演。2021年1月本多劇場にて「東京原子核クラブ」を上演し、今回はその第2弾。マキノノゾミが他団体へ書き下ろした作品含め、過去の作品を改めて自らの手で上演していきたい、新たな俳優、スタッフとの出会いも広げていきたいという想いからスタート。
概要
日程・会場:2022年2月3日〜2月13日 座・高円寺
脚本・演出:マキノノゾミ
出演:財木琢磨 那須 凜 / 石川湖太朗 岩男海史 鹿野真央 古河耕史 林 大樹 菊池夏野 / 三上市朗
スタッフ:美術:奥村泰彦 照明:中川隆一 音響:佐藤こうじ 衣装:三大寺志保美 ヘアメイク:今野ふき子 音楽:清水一雄 映像収録:ワタナベカズキ 演出助手:齊藤理恵子 舞台監督:矢島 健 イラスト:徳永明美 宣伝美術:江口伸二郎 WEB:牛若 実 制作助手:高本彩恵 制作:関根明日子(明後日) 渡辺順子
公式WEB http://makino-play.net/monroe/
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし